13.恋話
私たちには、教会の2階にある十畳ほどの広さの部屋が与えられた。
その部屋には、4台のベットと一つの机が備え付けられていた。
「いやー、久しぶりに陸の上で寝られるわね。なんだか、まだ体が波に揺られてる感じがするわぁ」
誰より早く布団に寝転んだ私は、体をくねらせながらそう言った。
「真っ白で綺麗な布団……マカオの教会は相当余裕があるみたいね」
マンショはうっとりとした表情を浮かべ、布団を撫でている。
「私たちのために20名も傭兵を雇えるんですからね。貿易で稼いだ信徒たちが、たくさん寄進してくれるんじゃないですかね?」
マルチノも、久しぶりの柔らかいベッドに寝れて満足そうな様子だった。
ふと見ると、ジュリアンは窓枠に手をかけて外を見ている。
時刻は既に夜であったが、教会の周辺には多くのかがり火が焚かれていた。
「どーかしたの、ジュリアン?」
私は布団から声をかけた。
「外の至る所に、甲賀の人たちがいる……」
皆で窓に近寄って見ると、確かに、門の外から屋根の上に至る要所要所に、侍姿の彼らが立って警戒を行っているのが分かった。
「ふーん、夜もバッチリ警備をしてくれるってわけね」
私が見たところ、死角を作らないような形で配置がなされている。
「でも、本来私たちは、か弱き乙女ですからねぇ。殿方たちが守ってくれて当然じゃないですかぁ? ていうかそもそも、何で私たち女の子が、刀をぶん回して鬼と戦わなきゃいけないのかなぁって思いません?」
「あら、知性派のマルチノにしては随分と時代錯誤なこと言うのね。信長も言ってたみたいだけど、この戦国の時代、女子だって戦に出るのはそんなに珍しくもなくなったし、西洋でもあの十字軍には女性が参軍しているのよ」
「ミゲ姉……そんなたくましい事ばっかり言ってると、いざって時に蘭丸さまに守ってもらえませんよぉ?」
マルチノの突然の発言に、私の顔は急激に紅潮してしまった。
「ななな、ちょ、ちょっと! あんた、急に何を言い出してんのよっ!?」
「だってぇ、ミゲ姉ったらリマ号に乗っている時、よく蘭丸さまから貰った小刀を愛おしそうに手にとって見てたじゃないですかぁ!」
「あー、それ私も思ったわ。そんな時だけ、妙に女の顔になってるわよぉ、ミゲルぅ」
マンショまで話に乗ってきた。
(い、いかん……)
このまま二人の調子に巻き込まれたら、ローマに着くまでずっとからかわれ続けてしまうと私は思った。
「そ、そんなこと言ってるマンショだって、倭寇からヴァリニャーノ先生に守ってもらった時、先生を見る顔が女になってたじゃないっ!」
「なっ!? ちょ、ちょっと! 窓開いてるんだから聞こえちゃうでしょ! やめてよっ!!」
(おおっ!? 自分で言っておきながら意外な展開。てっきり冷静にあしらわれるかと思ってたけど、否定しないって事は、まんざらでもないって事かしら?)
「何言ってるんですか、ミゲ姉。確かに倭寇から身を挺して守ってくれた先生はカッコ良かったですけど、年の差があり過ぎますし、何より先生は妻帯を禁じられてる神父なんですよ。ねぇ、お姉さま?」
「そ、そうよね……」
少し悲しそうな顔をして俯き、マンショが答えた。
この反応には、私もマルチノも口を中途半端に開いたまま固まってしまった。
今の表情は、完全に恋に悩む乙女のそれであった。
マンショはビックリして言葉を失っている私たちの様子に気づき、まずいと思ったようだった。
「な、な、何を勘違いしているのっ!? 先生みたいなおじさん、そんな対象として私が見てるわけないでしょ! てか、ジュリアン! あなたも、我関せずって顔してないで何か言いなさいよーーっ!!」
マンショは、私たちのお喋りに加わらず、机の上で書き物をしていたジュリアンに助けを求めた。
「え? あ、ごめん。日記を書いてて全然聞いてなかった。何?」
「何って……もーーっ! あんたはいつでもそうなんだからぁーー!!」
「ねえねえ。そう言えばジュリアンお姉さまは、どんな殿方が好みなんですかぁ?」
「どんな、と言われても……」
私たち4人の女子会は、深夜遅くまで続いていった。




