1-3 同類
シャロンさんに連れられて村から脱出した。スカートは折りたたんでいたのを伸ばしてギリギリ膝下までの丈になった。
「運が良かったですね。私がこの村にいて。本当だったら王都にいたんですけど」
「本当に助かりました。ありがとうございます」
あの場にシャロンさんが現れなかったら私は身も心にも深い傷を負っていただろう。シャロンさん以外が駆けつけたとしても私が異世界人だと理解してくれた人はどれくらいいるのだろうか?
「そういえば、この世界に転移する際に誰かに出会いませんでしたか? 神さまや精霊を名乗る存在に」
シャロンさんはコテンと首を傾げる。男を追い払った時にしていた冷たい目ではなく、子どもに尋ねる大人のような目? をしていた。
「いえ……気がついたらこの世界にいて」
他の転移者は神さまとかに会っているのかな?
「作用でございますか。多くの異世界人がそのような存在に出会って能力を手に入れるのですが貴方は少数派の方のようですね」
やっぱりいるんだ。
いいな、私も欲しかった。チートとかいかなくても魔法を使えるようになれたら良かったのに。
「ところでその銀髪は地毛でございますか?」
銀髪?
私は髪を一度も染めたことなくて黒い髪の毛なんだけど。
何を言っているんだと思いながら髪の毛を目の前に持ってくると見慣れた黒髪ではなく、ラノベのキャラやコスプレイヤーのように銀髪だった。
「え?」
「その様子ですと、この世界に来てからのようですね。ご安心を、世界が変わったので貴女の外観にも影響が出ていると考えられます。転移したら体質が変わったりするのは良くあるので。他に、何か変わったと思うことはございますか?」
そっか。よくある変化なんだ。
他には……身長も変わった感じはしない。体調の良し悪しは殴られた後だから判別は難しい。
「目は何色ですか?」
「両目とも黒……いえ、深緑ですね」
悲報
両親から受け継いだ外見的特徴を二つも失う。
「まだ軽い方ですよ。運が悪いと性別が変わったりするので」
そういうのってTSって言うんだっけ? 性転換するのは人によってどう思うか違うけど少なくとも私は性転換したくはない。いきなり男になって生きていけるかって問われたら無理と即答できる。
だって男になったら女の胸を気軽にさわれないじゃん。
「無事で良かった」
「邪な考えをしているような気がします」
シャロンさん鋭いな……。
シャロンさんの胸は揉みやすそうな大きさだから仲良くなったら触りたいな。恩人だから気軽にはできないけど女子成分を補給したい。
「何を考えているかは存じ上げませんが間もなく屋敷に到着いたしますよ」
そう言われて前方を見る。だけど見えるのは森の木々だけ。後ろを見ると歩いてきた道は消えている。前は石畳の道があるのに後ろには木の根と草で覆われた森の大地だ。後ろの木々の隙間からは村を見ることができない。
これって非常にマズイんじゃ
「シャロン、それが異世界人か?」
「ニャ゛?!」
びっくりして奇妙な声が出て後ずさる。いや、後ずさるどころか飛び跳ねて大きく後ろに移動した。自分でもこんなに動けるとは思えなくてビックリする。
なんて言うんだっけ?
火事場の馬鹿力?
「まるで猫みたいですね。この世界について躾もしなくてはなりませんので」
「うちでは猫は飼えないからな」
「家主の許可は得ています」
シャロンさんが新たに現れた人と会話を始める。中年の男性だが体が引き締まっていてナイスダンディーだ。シャロンさんと並べると親子のようにも見える。
というか私は野良猫扱いか!
……家がないから野良猫だった。
「こちらは私の保護者でもあります。ダグラス・ミレニア殿です。主人不在の屋敷を守る騎士です」
「ダグラスだ。事情は聞いている。色々と不安かもしれないが困ったときは俺たちを頼れ」
「そしてこちらが異世界人のユイ・オキタさん。大和人です」
「ユイです。初めまして。ご迷惑をおかけいたします……ところで、屋敷は何処なのですか?」
前述の通り歩いてきた道は消えている。前へ続く道は森の中を何処までも伸びているが屋敷どころか建物が見えない。
「私の手を」
「はい」
シャロンさんの手を握る。温かくてプニプニしている。子どもの手のようでずっと握っていたくなるような感触だ。猫とかの肉球とまではいかないが癒される。
「 」
ん?
シャロンさん今何を拭いました? それから顔がニマニマとしていて口がユルユルですよ。というか拭った筈なのに口元に光るものがありますよ。
初めて会った時は冷たい目をしていたのに私の手を握った瞬間にユルユルな顔をするとは
可愛い
これがギャップ萌え?
「シャロンについての注意だが、気に入ったやつを甘噛みするからな。遅かったかもしれないが」
シャロンさんの状態に気づいたダグラスさんが申し訳なさそうに言うが問題ありません。
大丈夫です!
ウェルカムです!
甘噛みokです!
「お前も同類か」
私もニマニマしていたのかダグラスさんは呆れていた。