1-1 後悔先に立たず
異世界と表現するしかない光景に私は途方に暮れていた。大学受験全滅のショックで幻覚でも見ているのか、それとも現実逃避しすぎて夢の中で異世界を描いてしまったのか、本当に異世界なのか?
ーー取り敢えずどうしよう?
なろう系を上っ面でしか知らない私は異世界召喚のテンプレは少ししか知らない。
異世界召喚する直前に神さまとかからチートスキルを手に入れてから召喚される。
これぐらいしかし知らない。
今の私は気がついたら異世界で神さまとかに会った覚えはないし、何か力を授かったような感覚はない。おまけに制服の状態だからお金も持っていない。この世界で日本のお金を使えるかは分からないけど何もないよりかはマシだと思う。ひょっとしたら見かけない金属とか造形技術が評価されて換金できたかもしれない。
次があるならばポケットにもいくらかお金を入れておこうと思う。
何か入っていないかポケットの中に手を入れるといつも入れていたものが出てきた。それはお爺ちゃんの形見の蓋付き懐中時計だった。いつも入れていたから違和感がなくて入っていることが分からなかった。
蓋を開けてみると時計の針はちゃんと動いている。時刻は1時23分、これがこの場所の時間を刺しているのかは分からないが空を見え気てみると太陽が高い位置にある。もしもこの世界が地球と同じ時間で進んで同じ時間の数え方をしているならばおおよそあっているだろう。
もう一度ポケットの中に手を入れてみるがもう何も入っていない。学校に行く直前だったから殆どの荷物は鞄に入れちゃったのだろう。
ーー時計以外何もなし。
再び途方に暮れる。これからどうすれば良いのだろうか?
『逃げれば良かった』
ーーッ!
何故かは知らない、何に対して何かも分からない。だというのに後悔した。頭の中にで自分の声で何度も逃げれば良かったと繰り返される。
咄嗟に周囲を見渡す。誰かが私に対して何かしているのかと思った。異世界なのだから魔法があってもおかしくはない。そういうそぶりをしているやつがいるかもしれない。訳の分からない後悔なんてしたくない。
周囲の人の私を見る目がおかしかった。大人の女性は汚いものを見るかのように、男性は性的な目と女性同様に汚いものを見るかのような目だった。そして子どもの近くにいる大人は子どもに私を見せないように体で隠したり手で目を覆ったりしている。
ーー何でそんな目で見るの?
頭の中の声と周りの目に悩まされた。
後ろから腕を掴まれて路地裏へと引き摺り込まれる。一体誰がと思い腕を掴んでいる人物を見ると如何にも不良という見た目をしていた。
「ちょっと、一体何?」
「そんな格好しているお前が悪い」
男はそう言うと私の口を塞ぐように右手で覆うと露出している太ももを気持ち悪い手付きで撫で回す。とてつもない嫌悪感と寒気が全身を駆け回る。逃げ出そうともがくがガッチリ固められて抜け出せそうにもない。
「こんなに太ももを出して誘っているのか? 出来れば上半身も露出して欲しかったが」
男は耳もとで囁くとスカートの中にまで手を入れようとしてくる。男が一体何をしようとしているのかは理解できるが脳はそれを受け付けない。夢だ、ドッキリだ、嘘だ。
現実逃避をし続ける。逃げ出したいのに脳がグルグルと回って考えることができない。だが、無理やり動かしてなんとか逃げる手段を思いつく。
ーーそうだ、チート
それは手段などではなく願いだった。
自分はチートを持っているという願い。
物語の主人公ならばピンチの時に力が目覚めたりするもの。実は怪力持ちだったとかそういうのがお約束だ。手は動かせないから足を咄嗟に上げて男の足があるだろう場所に落とす。感触と同時に男が少しだけ呻き声を出す。その隙に逃げようと思ったがそう簡単には逃げられなかった。
「生意気な女だな。だがそういうのは嫌いじゃない」
ーーお約束は? こういうのって怪力で敵を痛めつけるものでしょ!
男は一瞬だけ口を塞いでいた手を外した。叫んで助けを呼ぼうとするが手を覆っていた手が、肘が上げられる。何をしようとしているか理解はできたが反応する前に肘が振り下ろされて私の腹に突き刺さる。骨は折れた様子はないが気を失ってしまうのではないと思うほどの痛みと同時に吐き気がして胃液が出そうになって咄嗟に堪えるが痛みで力が入らず少しだけ吐き出してしまう。
吐き出しても力が入ることはなく、自分の足で立つことも難しいほどの痛みだった。
「だが、大人しくしてもらおう」
痛みで喋ることもできなくなり、力を入れることもできなくなった私は無抵抗となり男にされるがままになる。ブレザーのボタンが次々と外されていき、その下のワイシャツのボタンも外そうとする。
どうしてこんなことになったのだろうか? 路地裏の入り口の付近にいたから? 制服を着ていたから? 最初に尋ねたときのすぐの助けを呼ばなかったから?
今更後悔しても遅い。
こんなことなら、住民たちの視線に疑問を持った時に
ーー逃げれば良かった。
カーン!
金属を叩いたような音がして男の動きが止まる。
ナイフだった。食事とかで使うナイフなどではなく、RPGとかで出てくる暗殺者が持っているような小さな剣のようなナイフ。それが私たちのすぐ横の壁に突き刺さっていた。木造の壁とはいえナイフを投げて突き立てる事は難しい。加えて、私たちに当たらないようにギリギリを投げてきたのだ。それをやってのけた者がいた。
「妙な力を感じて来てみれば、そういうことですか」
それをやってのけた者は面倒臭そうに言い放った。男が声の主の方を向いたお陰で私もその姿を見ることができた。
メイドだった。
年は私と変わらないぐらい、背は少しだけ小さい。金髪で腰まであるポニーテールが風で揺れている。メイドといえばミニスカの姿を思い浮かべる人が多いだろうが彼女はロングスカートタイプのメイド服を着ていて面倒臭そうな顔でナイフを向けていた。
「そこまでです」
メイドは私たちが妙な動きをしないようにナイフを振りかざした状態で重ねて言った。もしも逃げたり、暴れたりした場合容赦なくそのナイフが放たれるだろう。素人の私でも分かるほど強烈な殺気がそのナイフには込められていた。
「花園殺し」
男は新たに現れたメイドに向けて言った。
続きが気になると思っていただければ下の☆から評価をお願いします。
ブックマークもしていただけると嬉しいです。