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トイレ掃除

作者: abc123

「漏れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううう!!!!!」


野太い声が誰もいない平日の昼間の公園に響きわたる。


そしてその声は激しい足音と共に徐々に大きく鮮明に聞こえるようになっていき、やがて音の元凶となる人物が姿を現した。


年齢は六十代ぐらいだろうか。白髪頭で若干しわがある顔に眼鏡をつけており、高そうな灰色のスーツに高そうな黒い革靴、そして、高そうなシルバーの腕時計を右腕に大事そうにつけてある。紛れもないおっさんだった。


息切れしていたおっさんは空いている洋式便器がある個室を見つけると、隣の個室の和式便器を丁寧に掃除している最中の俺をちらりとも見ず、一直線に走り、ドアを勢いよく閉め、『ガチャ』としっかり鍵を閉める。


カチャカチャとベルトらしき音がした後、一瞬静まり返ると、今度はトイレの中で不快な音が数秒、いや、数分間響きわたった。


しかも、不快なのは音だけではない。


腐った卵のような刺激臭が充満し、鼻が捻じ曲がりそうになる。


トイレ掃除のアルバイトを始めて一年。俺は今まで、凶悪な悪臭と幾度となく戦ってきた。最初は臭すぎて、気絶する事がしょっちゅうあったのだが、一か月、そして一か月と、経過するごとに慣れというものが生じ、だんだん俺は悪臭に対しての耐性がつきはじめた。自信がついた俺は「はっはっはっ!これからの俺は悪臭攻撃などには敗北しないぞっ!はっはっはっはっはっ!!!」と自分自身とトイレに力強い意思で宣言していたのだが、今回の敵ははっきり言ってやばい。今までの敵とは比べものにならないくらい匂いが強すぎる。


勝算があるかないかで言ったら、おそらく……ありよりのなしかもしれない……。でも!それでも俺は!この手で必ず!勝利を掴んで見せる!



さあ、勝負だ、おっさん!



……そのまま数分が経った。

あれからおっさんは去る気配がなく、約15分、洋式便器に居座り続けた。その間、嗅覚ダメージと聴覚ダメージによる、鼻と耳の気持ち悪さが次第に全体に行き通り、せっかく綺麗に掃除した和式便器を自ら汚すこととなった。完全に敗北した。


「あぁ~すっきりした~」


手を洗い、なぜか自分の顔をじっくり眺め、満足そうにスキップでトイレを出ていくおっさんは最後まで俺のことを見ることなく立ち去っていった。


「あのじじい…どんな食生活したらあんな臭くなるんだよ…」

と、あの時はそう呆れ気味に呟いた俺だったが、後にあの悪臭糞じじいが大手企業の社長だったことをネットで知り、衝撃で頭がパンクしそうになるのだった。


~~~~~


とある学校の男子トイレ。


そこが今日の俺の仕事場所だ。


普通、学校のトイレというのは、清掃時間に生徒らが掃除をするのが当たり前なのだが、この世界はそんな当たり前の事が当たり前じゃなく、トイレを使っていた生徒たちではなく、使っていない俺が掃除をすることになっているのだ。


俺がトイレ掃除のアルバイトをしているからって、これはいくらなんでもひどすぎる!と、訴えたい気持ちはあるが、面倒な事になってしまうので表には出さず、今日もひたすら掃除をする。


「おっ!お前○○○でっか!」

「そう?別に普通な気もするけど」


尿をすましている学生がなにやら男子らしい会話をしている。


そーいや、俺も昔は下ネタで盛り上がってた時期があったな~。あんときはまだ何も知らないガキだったから特に意味も知らない言葉を堂々と言って、女子にドン引きされてたんだったな~。


今では知識を自然と身につけ、言葉の意味を細かく説明できるようにはなった。そう、俺は大人の階段を登ってレベルアップしたのだ。


それに比べ、まあ、あいつらは所詮お子ちゃま。う○ことか、ち○ことか、そういうまだまだ未熟な知識しかないだろう。『変態マスター』と呼ばれていたこの俺様に勝とうなんて一億年はや――


「以前見たときよりでかくなってる……そんだけでかかったら、大人の女性を喜ばせられるじゃん!羨ま~」

……ん?今、なんて?


俺の脳内での独り言を遮り、お子ちゃまが意味不明な発言をした。


「大人だけじゃなくて子供もいけるから」

え?何言ってるのこいつら?


「じゃ、今度、久しぶりにやっちゃう?」

「やりましょう」

やる!?一体何をやろうとしているのっ!???


「よし!ならば今夜はパーティーといこうぜ!」

「おー」

パーティー!?えっ!なに、こいつら、もしかして……。


その言葉を最後に、学生二人はトイレから出ていった。


呆然とする。


完全に知識レベルが上だと思っていた俺が、俺より年下の学生二人の会話についていけなかった。

それは、あまりにも屈辱的な事ではあったが、どう足掻いても俺はあいつらには勝てそうにない。勝てないって、不可能だって、そう、本能が呼び掛けていたのだ。


それに、正直あいつらの積極的な行動は、大胆すぎて俺にはできない。

悔しいが、事実は認めるしかないのだ。


こうして俺は、今回のたった数分の出来事で、自分の無能さを実感する事となった。


今時の小学生……恐るべし。

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