最終話 だって広島だもん!
「最近、お好み焼きを食べていない。」
「そうだな。」
「あの焼けたソースの匂い…。」
……ぐう〜、仏像たちの腹が鳴った。
「それで僕のところに?」
「うむ。」
「……。」
―― 大聖院の仏像たちが、厳島神社のオタク神主に“飯を食わせろー”“お好み焼きが食べたいのじゃ〜”とねだりにきた。
いつものことなので気にしてはいないが、今回は人数が多過ぎる。
多過ぎるのでメタボ先輩に電話した。
「オタク君!」
メタボ先輩が走ってきた。
「メタボさん〜!」
やっぱりメタボ先輩は緊急時に頼りになる。
「美味しいものを食べる時は天狗さんにも連絡しないとダメじゃないか!」
「……。」
オタク神主の表情が凍りついた。
「ははっ冗談だよ。うちのお不動さんたちがゴメンね。ほら、みんなも!」
「いつもすまぬ。」
「でもオタクが焼いたのが食べたいのじゃ!」
「…そ、そうなの?」
満更でもないオタク神主。
「ハイハイ、準備は全員でやりますよ!オタク君は僕と一緒に買い出しに行こう。不動明王様はお財布として同行願います。」
言いにくいことを、躊躇わず、しっかりと伝えるメタボ先輩は今日も有能だ。
「メタボははっきり言うのう。」
「大事なことは言葉にしないと、後で揉めないためにも。あ、もちろんお不動さんの食べたい希望を聞きますよ。」
「ワシ、出汁巻きも食べたい!」
「じゃあ卵は多めに買いましょうね。」
「ポテサラもだ!」
「ハイハイじゃがいもも買いましょうね。」
「そういえば鳥居ちゃんとミカエル君は、
お好み焼き初めてなんじゃないかな?」
「む!そうじゃ。あの子たちも呼ばねば。今日あの子達はどこにいるのか…。」
「分からなくても大丈夫。カラス君たちの式神が僕らに気づいているはずだし、あの子達の居場所も把握しているはずですよ。
ねえ、気づいてたら合図してくれない?」
ひらり、ペタ。
不動明王とメタボ先輩とオタク神主の額に葉っぱが落ちてきた。
「便利だのう。」
「全部、鳥居ちゃんのためですよ。鳥居ちゃんの安全のために島中に式神を置いて術を張り巡らせているんです。」
「……ワシ、あの兄弟と鳥居ちゃんは絶対に和解出来ないと思ったわ。」
「僕もです。」
「さすが子育て観音様ですよねえ、偶然だった、ラッキーだったなんて謙遜して。」
集会所に戻ると鳥居ちゃんとミカエル君とカラス兄弟がいた。
鳥居ちゃんが大喜びで駆け寄る。
「不動明王様!オタク君!メタボ先輩!」
「鳥居ちゃんとミカエル君。良かった、ちゃんと伝わって。」
「カラスたちだな?」
「うん、島中に式神を置いているから。」
「準備はみんなでやるよ。手伝ってね。」
「うん!」
シャッ!シャッ!シャッ!
シャッ!シャッ!シャッ!
あちこちで仏像たちがキャベツをスライサーで千切りにしていた。
この人数分なので大量に必要なのだ。
「待たせたの、牡蠣じゃ。」
少し遅れて山の神 天狗がやってきた。
メタボ先輩の期待通り高級食材を大量に持ってきてくれた。
天狗!
天狗!
天狗!
仏像たちから歓喜の天狗コールが沸き起こる。
「ありがとう、天狗さん。でもまずは豚肉からだよね。」
豚!
豚!
豚!
仏像たちから歓喜の豚コールが沸き起こる。
オタク神主とメタボ先輩と子育て観音と不動明王が、それぞれ複数のホットプレートを使って焼き始める。誰もが認める料理上手なメンバーだ。
「ホットプレートに油をひいたら生地を薄く丸く広げまーす。」
じゅわー。
「削り粉を生地にまんべんなく振りかけて。」
ふぁさー。
「みんなでスライスしたキャベツをたっぷり乗せます。」
こんもり。
「てっぺんを平らに慣らしてから天かすを乗せます。平らにしないと天かすが転がってしまって乗らないからね!」
天かすパラパラ。
「豚肉で覆ったら塩コショウを全体に。気持ち強めにね。」
ふぁさー。
「全体に生地をかけて少し待ってね。」
「生地がきつね色になったら、ひっくり返す!」
ボテッ!
「この状態で約5分ほど焼きます。焼いている間に隣で焼きそばを作ります。味付けはお好みソースでします。」
じゅわー。
「焼きそばの上に、生地をそのままの向きで乗せてヘラで押さえて、さらに5分。」
じゅうー。
「隣で卵を生地の大きさに広げたら、そのままの向きで生地を卵の上に乗せてひっくり返します。」
ボテッ。
「ソースを塗って出来上がり。みんなお皿を持って並んでねー。」
手際よくカットして配り、次を焼き始める。
お惣菜をたくさん用意したので仏像たちも待てるようだ。
鳥居ちゃんとミカエル君が再びホットプレートの前に陣取る。
「2人とも私たちに付き合わないでいいのよ。あちらでみんなと一緒に食べてきたら?」
「焼くのをみてるの面白い!」
「さっき焼いているのを見てどうなるんだろうって思ってたけど、美味しかったから。もう一度見たいんだ。」
「そうなの?じゃあカッコよく焼かないとね。」
続けてチーズ入り、牡蠣おこ、えびめしを焼いたが、どれも好評だった。
なんでも美味しく食べる鳥居ちゃんはともかく、ミカエル君が美味しそうに食べていたので子育て観音も一安心だ。
用意した食材をあらかた食べ終わった頃に不動明王が動いた。
「さあ、お待ちかねのデザートじゃ!」
「……。」
「なんじゃ、反応が薄いぞ。」
「お不動さん、言いにくいんだけど…。」
「みんなもうお腹いっぱいみたいだよ。」
不動明王が仏像たちをみる。
すいー
全仏像が目をそらした。
「お前たち。」
ぴくん。
全仏像が反応した。
「スイーツは別腹じゃな?」
ブンブン!
目をそらしたまま首をふる仏像たち。
「ぐぬぬぬ…。」
不動明王が仏像に戻ってしまった。
背後に背負った火炎が、轟々と燃え盛っている。中華料理店の火力にも劣らない強火だ。
「不動明王様!」
「なんじゃ、鳥居ちゃん。」
仏像の不動明王がギロリと鳥居ちゃんを睨むが、鳥居ちゃんはまったく気にしていない。
「不動明王様のスイーツを、ついでみたいにいただくのは勿体無いよ!」
「…そ、そう?」
不動明王が大幅にトーンダウンした。
背後に背負った火炎が弱火に変わった。
「うん!だから別な日にスイーツパーティーしたいな!」
「鳥居ちゃんの言う通りじゃ!」
「さすが鳥居ちゃんだ!」
「いいこと言うなあ!」
鳥居ちゃんの提案に全力で乗っかる仏像たち。
スイーツパーティーは週末に開催された。
いつもは自由参加のスイーツパーティーが、今回だけは強制参加だったため、愚痴聞き地蔵が大忙しだった。
暴走しがちな仏像たちと、振り回される人間たち。気ままにモン・サン=ミッシェルと宮島を行ったり来たりする鳥居ちゃんとミカエル君。繰り返される、ほのぼのな毎日。
宮島は今日も平和です!
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最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
ちょっとした時間に読んで、クスッとしていただけるお話を目指しました。
(広島弁を知らない・分からないことがとても残念でした。)




