第69話 みんながやる気です!
「バンドって何?」
「楽曲を演奏するグループのことだよ。楽団とも言うな。」
―― 言わねえよ!
鳥居ちゃんの質問に答える住職の例えが古過ぎで、全員が心の中でツッコミを入れた。
今年も県内寺院対抗バンド自慢&のど自慢大会※の季節がやってきた。
( ※ もちろん架空の行事です。)
「毎年11月3日、文化の日に開催されるワシらの文化祭のようなものじゃ。」
「写真や動画がありますから映しましょうね。」
メタボ先輩がプロジェクターに過去の大会映像のイントロダクション動画を写す。
(普通の写真には映り込めないので、心霊写真のようなものです。)
「私、ここ知ってる!」
「この間、鳥居ちゃんと一緒に登ったよ!」
「県内寺院対抗バンド自慢&のど自慢大会の会場は弥山頂上の展望台なんだよ。」
「ロープウェイの営業時間外だから、関係者だけしか入場出来ない仕組みなんだ。」
「ワシらの間では夜フェスとも呼ばれておる。」
「寺院関係者と島民だけの秘密のフェスだから、ワシら仏像も参加できる。」
「鳥居ちゃんやミカエル君も観客として楽しめるよ。」
「わあ!」
「楽しみだね!」
―― むっすー!
兄カラスと弟カラスの機嫌が悪い。
「どうしたの?」
「僕らの住んでる弥山がうるさくなる日なんだよ。」
「僕もこのイベント好きじゃない。」
「一緒に観ようよ!」
「トリィと一緒なら楽しいな!」
「そうだね!」
―― 兄と弟の機嫌が急上昇だ。
「寺院としての人気ならこの3つが優勝候補じゃ。」
カシャ。
プロジェクターに五重の塔が投影される。
「福山市の明王院は、境内に国宝指定の五重塔が建つ仏教寺院。」
カシャ。
歴史の重みを感じさせる本堂が投影される。
「尾道市の転法輪山 浄土寺は、聖徳太子が創建したと伝えられる国宝指定の本堂がある寺院。」
カシャ。
見慣れた大聖院が投影される。
「そしてワシらの大聖院は、9 世紀建立の伝統も人気もピカイチの仏教寺院じゃ。」
カシャ。
正装した坊主たちの演奏風景が投影される。
「しかし、県内寺院対抗バンド自慢&のど自慢大会の優勝候補となれば話は別じゃ。
尾道市にある向上寺には猛烈に上手なヴォーカルがいる。
1432年(永享4年)に建立された三重塔は国宝に指定されている。」
カシャ。
大勢のバックダンサーを従えて熱唱する坊主の写真が投影される。
「潮聲山 耕三寺& The耕三寺博物館も強敵じゃ。大規模な複合寺院と歴史博物館を有しておって数でなんとかしようとする。バックダンサーの数とクオリティが凄い。」
「他の寺院も強敵揃いじゃ。」
「ワシらは今年こそ優勝じゃあ。」
おおお!




