第67話 モン・サン・ミッシェルで愚痴る
「こんにちはー!」
今日はミカエル君が1人でモン・サン=ミッシェルにやってきた。
「いらっしゃーい。」
いつもの3人組がPetiteミカエル君を出迎える。
「今日はPetiteミカエル様ひとりなの?」
「鳥居ちゃんと喧嘩した訳じゃないよね?」
「うん、鳥居ちゃんがお兄さんたちと水入らずで過ごす日があっても良いかなって思ったんだ。」
「鳥居ちゃんにお兄さんがいるの?」
「立ち話ではなく座って落ち着いて話したらどうだ?」
―― スーツ男だった。
「ごめんね、鳥居ちゃんが一緒じゃなくて。」
「ななななな!何を仰いますか!Petiteミカエル様をお迎えできて光栄の極みです!」
―― 美少年に弱いのか、Petiteミカエル様に弱いのか。
―― Petiteミカエル様だよ!
3人組のヒソヒソ話がひどい。
「それでそれで?」
「鳥居ちゃんにお兄さんがいるの?」
「お耳と尻尾はフサフサなの?」
「カラスだよ。」
「?」
3人組とスーツ男が揃って首をかしげる。ちょっと可愛い。
「神話で厳島神社の祭神様たちを宮島に導いたとされる烏一家の子供たちなんだ。
鳥居ちゃんの生みの親である祭神様たちとは姉3人と弟2人のような関係みたい。」
「そうなんだ〜。」
「仲が良いんだねえ。」
「僕らとは最初は良い関係じゃなかったよ。祭神様たちに可愛がられる鳥居ちゃんにヤキモチを焼いてて、僕らは避けられていたから。」
「ありゃあ。」
「子供のヤキモチかあ。」
「少し前に鳥居ちゃんが襲われたんだ。」
ガタン!
3人組とスーツ男が怖い顔で立ち上がる。
「座って。続きを話すから。」
……ストン。
「鳥居ちゃんと一緒にお山を歩いていたら、鳥居ちゃんが悲鳴をあげて転がったんだ…。上を見上げたらカラスが僕らを見てて。あいつら……急降下して鳥居ちゃんの尻尾の毛を毟ったんだ。」
ガタン!
3人組とスーツ男が怖い顔で立ち上がる。
「座って。続きを話すから。」
……ストン。
「鳥居ちゃんのポフポフな尻尾にハゲが出来た。」
ガタン!
3人組とスーツ男が怖い顔で立ち上がる。
「座って。続きを話すから。」
……ストン。
「僕はあのカラスたちを捕まえて殺そうと思った。」
3人組とスーツ男が、うんうんと肯く。
「でも鳥居ちゃんに止められた。」
どうして!?顔の3人組とスーツ男。
「宮島では殺生が禁じられているんだ。それなら海に沈めて溺死させようとおもった。」
3人組とスーツ男が、うんうんと肯く。
「でも祭神様たちが、ちゃんと罰するので任せてくれと言うんだ。
迷ったよ。僕は自分の手で報いを受けさせたかったから。
でも祭神様たちにとっては神話の時代から家族ぐるみの付き合いのカラスだから我慢した。」
3人組とスーツ男が、仕方ないなーという表情だ。
「我慢するのは大変だったよ。鳥居ちゃんがハゲた尻尾を抱えて悲しそうに泣いていたから…。」
ガタン!
3人組とスーツ男が怖い顔で立ち上がる。
「座って。続きを話すから。」
……ストン。
「その日、鳥居ちゃんは子育て観音様に預けられた。適任だよね。」
うんうん、と3人組とスーツ男が肯く。
「鳥居ちゃんを子育て観音様に預けた祭神様たちはすぐにカラスの兄弟と話に行ったんだって。
そうしたらカラスたちは全然反省していなかったって。だから、カラスの兄弟は子育て観音様に預けられる刑罰になったんだって。」
「どうして、それが罰なんだい?」
「再教育?」
「優し過ぎるでしょう?」
「身内を甘やかすのは碌なことにならんぞ。」
3人組とスーツ男は納得いかない様子だ。
「僕も最初は、そう思ったよ。」
遠くを見るPetiteミカエル様。
「?」
3人組とスーツ男が揃って首をかしげる。ちょっと可愛い。
「鳥居ちゃんと入れ替わるように子育て観音様に預けられたカラスの兄弟は、子育て観音様好みの作品の衣装を毎日身につけさせられたそうだよ。
ああ、言い忘れていたかな?子育て観音様は腐女子なんだ。」
「……それ、虐待案件じゃないかな?」
「アジアの神様の世界に人間の法律が適用されるか分からないけど、グレーゾーンだと思う。」
「どんな衣装?」
「アニメや漫画のキャラのコスプレ。」
「セーフかな?」
「子育て観音様がシナリオを書いた何通りもの『意地悪してゴメンね』物語をコスプレした姿で演じさせたんだって。」
「セーフかな?」
「再び鳥居ちゃんに意地悪したら、『意地悪してゴメンね』物語の動画を世界に拡散されると脅迫されているそうだよ。」
「アウトだ!」
「友情や他者への思いやりを学ぶために、たくさんのアニメを視聴して漫画を読む生活だったって。」
「セーフだね。」
「どハマりした漫画に登場するシスコンのキャラクターになりきって、鳥居ちゃんを妹として溺愛するために、泣いて謝罪した。」
「……。」
「それでも僕は警戒を緩めなかったよ。鳥居ちゃん自身が忘れてもね。」
当然だ!という表情で肯く3人組とスーツ男。
「カラス兄弟は、毎日やってきては鳥居ちゃんを構い倒した。」
うわ。ウザい…という表情の3人組とスーツ男。
「コスプレにはBLがつきものなのよ。って子育て観音様がいってたけど本当?って兄カラスがピュアな瞳で問いかけてきたけど、たぶん騙されているとは言えなかった。」
「子育て観音様、アウトー!」
「自分たちに反省させるためとはいえ、兄弟で抱き合ったり押し倒したりする演技は恥ずかしかったって、弟カラスがピュアな瞳を潤ませてた時は、“その顔はダメだ。子育て観音様を喜ばせるだけだ”と思ったよ。」
「それでPetiteミカエル様や鳥居ちゃんとカラス兄弟との関係は?」
「今は良好だよ。あの兄弟は鳥居ちゃんの安全のために島中いたるところに何かを仕掛けているし。あの島は鳥居ちゃんにとって世界で一番安全な場所だよ。
僕は住んでいる大聖院で飼われている犬のメイちゃんを可愛がっていたらあの2人から親近感を抱かれたみたいで…同志ミカエルだって。」
「……。」
なんとも言えない表情の3人組。
「……喧嘩するよりも、仲良く出来る方がずっと良い。」
「僕もそう思うよ。」
スーツ男の言葉に、にっこりと笑って同意するPetiteミカエル様。
「そうそう、鳥居ちゃんの尻尾は、その日のうちに祭神様たちが元どおりのポフポフに復元したよ。」
「良かった〜!」
「薬師如来様の治療で心の傷も塞がったみたい。何よりあの2人が別人のようだから、再会した時の鳥居ちゃんは尻尾を振ってて、全然怖がっていなかったよ。」
「良かった〜!」
「本当に別人みたいで…なんだか洗脳っぽいけど、きっとあの兄弟がピュア過ぎて思い込みが激しいだけだよね!」
「……。」
3人組とスーツ男は、Petiteミカエル様のお言葉を否定できなかったが、肯定も出来なかった。




