第66話 ミカエル VS 兄たち
―― 烏たちが胡散臭い上にウザい。
ミカエル君がゴミを見るような目で兄カラスと弟カラスを見る。
「トリィ、お兄ちゃんと一緒に海岸をお散歩しないか?」
「トリ、僕が後ろで見守っているから安心して良いんだよ。」
あれから毎日やってきては鳥居ちゃんに構い倒している。
「鳥居ちゃん、こいつらを信用しちゃダメだ。きっと親切ぶって油断させてから意地悪するつもりだよ。」
「何を言うんだ!お兄ちゃん、そんなことしないぞ!」
「そうだ!もし、そんなことしたらコスプレして演技させられた『意地悪してゴメンね』物語の小芝居動画を世界に拡散されてしまう!」
「……そんなことさせられていたの?」
「も、もちろん…そんな脅迫がなくても意地悪なんてしないぞ!」
「どんなコスプレ?」
「……キャプテン翼とか…弱虫ペダルとか…。」
「…るろうに剣心とか、キン肉マンもあった。」
「どんなお芝居?」
「…その時の…コスプレしてるキャラにあった内容……シナリオは子育て観音様が…子育て観音様のお好みのストーリーで…。」
―― 具体的に想像するのも質問するのも恐ろしいな。
「コスプレにはBLがつきものなのよ。って子育て観音様がいってたけど、本当?」
兄カラスがピュアな瞳で問いかけてくる。
―― たぶん騙されているとは言いにくいな。そういうのを匂わせる場面も演じさせられたのか……。気の毒…。
「妹に意地悪するのはイケナイことだって僕らに学習させるために子育て観音様は、いろんなことにチャレンジしてくださったんだ。」
「でも僕らが反省するシナリオを演技させられるのは、最初は反抗心でいっぱいだったよ。」
―― 目的、カラス兄弟の反省と更生じゃなくて趣味じゃないの?
「兄弟で抱き合ったり押し倒したりするのは最後まで慣れなかったけど、えへへ。」
弟カラスが可愛く恥じらう。
―― 騙されてるよ!この兄弟、素直過ぎるよ!
「さあトリィ、お兄ちゃんとお手手を繋ごう。」
「まって。」
「ト、トリィ…まさか嫌なのか!?」
兄カラスの言葉を聞かずに走り出した鳥居ちゃん。取り残された兄カラスは、その場で膝をつき、この世の終わりのような顔つきだ。
弟カラスも魂が抜けたように立ち竦んでいる。
「お待たせ!」
「キャン!」
鳥居ちゃんが少し大きくなったメイちゃんを連れて来た。子犬と成犬の間くらいで、顔つきも犬らしくなってきた。
「今日も可愛いなあ。」
いつも散歩に連れて行き、お世話しているミカエル君に向かって良い子でお座りしている。
「お散歩だよって言ったら、メイちゃんも行くって!」
「仕方ないな…メイちゃんを連れて行くなら僕も行くよ。」
ミカエル君が優しく撫でるとメイちゃんの表情が蕩ける。
「ミカエル君はトリィよりも子犬の方が可愛いのかい?」
カラス兄弟が不思議そうだ。
「鳥居ちゃんは大切なお友達だよ。だから僕は鳥居ちゃんのために戦ったりすることもいとわない。
メイちゃんは…、僕はメイちゃんのお父さんになるって決めたんだ。メイちゃんの為なら、 僕はどんなことだって出来るよ。」
ホロリ。
「うん…うん!」
「分かるよ!」
カラス兄弟に背中をバシバシ叩かれた。
「僕も妹の為なら火の中、水の中だよ!」
「僕だって!」
カラス兄弟がミカエル君を見る目が熱い。
同志ミカエルと思われたようだ。
―― 同志ミカエルは嫌だな……。
「同志ミカエル!さあ行こう!」
「子犬もな!」
同志ミカエルは決定のようだ。
―― ちょっと嫌だけど鳥居ちゃんとメイちゃんが喜んでいる。それに喧嘩するよりは良いな。
根強かったカラス兄弟に対するミカエル君のわだかまりが解けた。