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第60話 鹿って美味しいよね

「元気になって良かったね!」


負傷した鹿を天狗が見つけ、メタボ先輩が獣医を手配してから約1ヶ月、怪我した足をかばうようにヒョコヒョコと歩いていた鹿の怪我が治った。

鳥居ちゃんとミカエル君もメタボ先輩もホッと一安心だ。


「この子たちはどこで飼育されているの?」

「人間に飼われてはいないんだよ、みんな野生の鹿だからね。」

ミカエル君の目が驚きで見開かれた。


「そうなの?」

「うん。」

「じゃあ食べないの?」

「食べないねえ。」

ミカエル君が少し残念そうだ。


「この島は全体が神域とされてきたので、血や死といった穢れはタブーだったんだよ。

昔は人が亡くなると直ぐに対岸に渡して葬って、遺族は喪が明けるまで島に戻ることができなかったそうだよ。

だから鹿を狩って食べる習慣も無かったんだろうね。狩猟は狩った生き物の血が流れるから。」


「日本では鹿のお肉は食べないの?」

「他の地域では食べられてきたよ、鹿肉には紅葉もみじという別名があってね、鹿肉の鍋料理は紅葉鍋って呼ばれてるんだよ。」

「鹿肉、美味しいよね!

この島では人間と鹿がいい関係で共存できてきたってこと?」


「この島では血だけでなく鉄の農具を土に立てることもタブーだったから耕作を禁じられてきたんだ。だから人間が丹精込めて育てた畑を鹿が荒らすこともないから人間と鹿が対立することも無かったんだろうね。いろいろな条件が重なって上手く共存出来てきたのかもね。」


「ふふっ、助かっちゃったね。」

ミカエル君が優しく鹿を撫でる。


「鹿肉は今度取り寄せて紅葉鍋にするとして、今日の夕飯はハンバーグの予定だよ。」

「僕、ハンバーグも大好きだよ。」


可愛いねと言って鹿を撫でながら、鹿肉の美味しさを語るミカエル君に肉食な西洋人のマインドをみたな…と感じたメタボ先輩だった。

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