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第57話 その頃、宮島では…

神社と大聖院だいしょういんの関係者だけで集まって秘密の会議が始まった。


「今日は祭神様やお不動さんたちに内緒の会合です。」

「内緒の理由はこれです。」


「一応、定期的にチェックしているんですが…。」

オタク神主がパソコン画面をプロジェクターに映してみせる。


「どれどれ。」

「例の鳥居ちゃんとミカエル君の目撃情報スレッドか…。」


「ここのスレの住人は皆、常識的だしマナーも良いし問題なさそうに思えるが…。」

「はい。スレの住人は良いのです。」

「何が問題だと?」


「この部分です。」


〉 それが……。

〉 他の島民らしき若い女性たちが「かっこい

〉 い」とか「イケメン」とか話してて、それ

〉 が聞こえてたみたいで…

〉なんか、自信のある角度?ポーズ?を見せ

〉 つけるような感じで…。


「仏様の威厳ゼロだな。」

「はい、でもそれはむしろ普通っぽくてオッケーなんじゃないかなと。」

「仏様とバレたくない訳だからな。」


「でも、祭神様たちが知ったら…。」

「機嫌が悪くなるな……。」


「お不動さんと湍津姫命たぎつひめのみこと様の関係が後退するぞ!」

「新米の食べ比べパーティで、だいぶ良い感じになったのに!」


「問題の深刻さを理解していただけたようですね。」


「課題は2つ。

・ 祭神様たちに、このスレッドを見られないこと。

・ 今後の振る舞いに注意してもらうこと

以上だ。」


「振る舞いに注意するのはお不動さんだけで良いですよね。」

「…そうだな。」

「そうですね。」


「じゃ、お不動さんだけに状況を説明する機会を作りましょう。」

「誰が伝えるか…ですよねー。」

「大げさにしない方がいい。気づかれるからな。」



オタク神主が青い顔で項垂れていた。

誰が不動明王に事情を説明して、理解させるかのアミダくじで大当たりを引き当ててしまったのだ。

他の先輩たちは巻き込まれないよう、我先にと逃げ出した。ずるい。



「スイーツ作りを口実に呼び出そう…。」

気が重いオタク神主だった。


「材料の買い出しがてら、“もみまんソフト”を食べようとは粋なお誘いじゃのう!」

「ソフトクリームにもみじ饅頭を練り込んでって、チャレンジャーですよね。」

「どんな味がするのか楽しみじゃ!」


「……。」

「オタク?」

「……お不動さん。」

「なんじゃ、思いつめた顔をして。」

「“もみまんソフト”の前に、誰も来なさそうな場所で折り入って話があります。」

「随分と真剣じゃな、聞こう。」


祭神様たちが絶対に来ないだろうスポットに不動明王を誘うことに成功した。


キョロキョロと周りを見渡していたオタク神主が不動明王を振り返った。

「お不動さん!」

「な、なんじゃ。」

「鳥居ちゃんとミカエル君のお出かけの時に島民の皆さんに姿を見られますよね?」

「護衛じゃけえの。」


「お不動さんはイケメンなので島民の女性たちから“カッコいい”とか“イケメン”とか囁かれていることに気づいていますね?」

「そそそ、そうだったかいのう?」

とぼけ方がわざとらしい。


「気づいているのは見え見えです。」

「……はい。」


「お不動さんは、元々イケメンなので目立つのは当然だし仕方ないことです。」

「そ、そうか?そうかぁ?」

嬉しそうな声がちょっとイラッとくるな。


「ですが、見られる角度を変えたり、自慢のポーズでイケメンぶりを見せつけるのは、やり過ぎです。」

「……。」

「他の仏様たちはいいのです。島民のギャルにウィンクするくらいまではオッケーだと僕は思います。

ですがお不動さんが、名前も知らない不特定多数の女性に向けてカッコいいポーズを決めるのは控えて欲しいのです。

もしも、そんな場面を目撃されたり、詳しく描写したネット上の情報を見られたら大変な事になります。」


「ワシが重要文化財だからか?」


「違います。湍津姫命たぎつひめのみこと様がヤキモチを焼いて拗ねて大変なことになるからです。」


ぼんっ!


不動明王の脳天が爆発した。

耳も首も真っ赤だ。


「な!ななななななな!?」

「お控えくださいますね?」

「ふぉおおおおおおおお!」

「お不動さん?」


「……わかった。」

消え入るように小さな声だった。


「良かったです。では少しお待ちくださいね、心配している先輩たちにグループLINEで報告しちゃいますから。」


オタク神主による上首尾の報告が終わる頃には不動明王の顔色が普通の色に戻っていた。


「お待たせいたしました。それでは、“もみまんソフト”を食べて、フィナンシェの材料を買って帰りましょう。」

オタク神主に笑顔が戻った。



「僕、“もみまんソフト”初めてなんです!スプーン代わりに名物の杓子せんべいもついてくるらしいですね。」

「…うむ。」

任務を終えて晴れ晴れとしたオタク神主と、大人しい不動明王。いつもと逆だ。


「食べてみると滑らかで美味しいソフトクリームなのにもみじ饅頭の味がするそうですよ。こしあん味というのではなく、もみじ饅頭の味なんだそうです。不思議ですよね!」

「ほお、それは楽しみじゃのう!」


不動明王はスイーツの話題でいつもの調子を取り戻した。


「……うん。僕はやっぱり“バニラのせもみまんソフト”にします。バニラと比較しながら味わ…。」


お店のショーウィンドウの前でウキウキと不動明王を振り返ったオタク神主は信じられない光景を見た。



地元女性に向けて決めポーズの不動明王。


そんな不動明王を見てプルプルと震える湍津姫命たぎつひめのみこと様。


湍津姫命たぎつひめのみこと様の横で頭を抱える市杵島姫命いちきしまひめのみこと様と田心姫命たごりひめのみこと様。


祭神様たちに連れられてきたと思われる鳥居ちゃんとミカエル君。


「先輩たち…姫さまたちを引き止めるって約束したのに……。」

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