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第52話 天狗とメタボ先輩の通販

「メタボ先輩。」

「天狗様じゃないですか、どうしましたか?」


「メイちゃんだ。」

山の神である天狗は動物好きだ。


「早速会いに来てくださったんですね、可愛いですよね。ここには馴染めないだろうな…って思ったんですが、誰に会っても尻尾を振って愛嬌をふりまいて。」


当初の不安を余所にメイちゃんは大聖院だいしょういんの子になった。


「うむ。それでなメイちゃんの為に通販で可愛いベッドを買いたいと思ってな、発注を代理で頼めないか。」

「もちろん構いませんよ、こちらから選んでくださいね。」


メタボ先輩がペットグッズ専門のネットショップを開いて天狗にPC前を譲る。


「あご乗せベッドだと!」

天狗の目がカッと見開かれる。


「メタボよ!これはメイちゃんを100倍可愛く見せるベッドだぞ!」

「そうですね、あ!機能面も大切ですよ。抗菌で防臭とか。」

「うむ。」

「メイちゃんはまだ子犬なので大きくなっても使えるサイズで。」

「うむ、重要だな。」


「……買いすぎじゃありませんか?」

「何を言う!クッキーもジャーキーも全部必要だ!」


広く信仰を集める天狗はお金持ちだが親バカの才能があるな…と思うメタボ先輩だった。


「週末には届きますからね。」

「うむ。それでな、今のはメイちゃんのための買い物だ。」

「はい。」

「ワシらのための買い物もある。」

「何をお探しですか?」


「先日の餃子パーティーは楽しかった。」

「そうですね、皆さんがご家庭の餃子を持ち寄って。それぞれに個性があって美味しくいただきました。」

「また、ああいうポトラック・パーティーのような催しをやりたい。」


「餃子以外で?」

「餃子以外で。」

「……。」

「餃子パーティーは、いずれまたやりたい。しかし次は餃子以外がいい。」


「そうなると…麺類?」

「餃子と似ているから…。」

「カレー?」

「阿弥陀如来だけがイキイキとしている様子が眼に浮かぶから嫌だ。」

天狗がプイっとした。

「……。」



結局ただのポトラック・パーティーになった。ただしご飯のおとも縛りだ。


「新米の季節ですからね!」

「うむ。この発想は素晴らしいな!さすがメタボ先輩だ。」

「お米も新米で何種類か取り寄せましょうね。」

「うむ。たくさん炊こう。」

「それで我々は何を取り寄せましょうか?」



天狗の財力にモノを言わせて日本全国の海産物を取り寄せた。

ご飯といえば丼だから新米で海鮮丼に仕上げるのだ。

「小ぶりなお茶碗に酢飯をよそって、ウニ、イクラ、ホタテ、ネギトロ、甘エビなどを乗せた贅沢丼だ。」


「日本のお寿司!具沢山で美味しいね!」

ミカエル君が海鮮丼をかき込む。鳥居ちゃんはウニが美味しいと嬉しそうだ。


「ミカエル君と鳥居ちゃん、こちらもどうぞ。」

中国出身の子育て観音が炊きたてご飯と本場の四川麻婆豆腐を勧めてくる。


「子育て観音!ワシにもくれ!」

「ワシにも!」

「こっちもだ!」

子育て観音の四川麻婆豆腐は食欲そそる見た目と匂いで堪らんやつだった。実際に食べてみるとレンゲが止まらない美味さだ。

大人の仏像達が、ガツガツと音を立ててかきこむ。


「ふう。辛いね、汗が出てくるよ。」

「…。」

しかし子供の身体のミカエル君には少し辛かったし、鳥居ちゃんには食べられないほど辛かった。

四川麻婆豆腐のお皿に顔を近づけたら湯気で涙が溢れて、鳥居ちゃんのお耳が倒れてしまった。


「もしかして鳥居ちゃんはカレーも無理かな?」

インド出身の阿弥陀如来が自慢のチキンカレーを差し出すが、大人用に合わせたスパイスは鳥居ちゃんには早過ぎたようだ。


「せっかく作ってくれたのにごめんなさい。」

鳥居ちゃんの耳と尻尾が下を向く。

「ワシらこそすまんの…。」

「鳥居…。」

阿弥陀如来や、鳥居ちゃんの生みの親である祭神たちも心配顔だ。


「鳥居、天狗の海鮮丼を頂こうではないか?鳥居はウニが気に入ったのであろう?」

湍津姫命たぎつひめのみことが、ひょいっと鳥居ちゃんをお膝に乗せて、後ろから鳥居ちゃんの顔を覗き込む。


「待たせたな。」

どん!


不動明王が湍津姫命たぎつひめのみことと鳥居ちゃんの前に置いた大皿には、いなり寿司が山盛りだった。


「こちらが つや姫、裏返しのはミルキークイーンだ。どちらも新米だ。」


「いなり寿司!」

鳥居ちゃんの耳がピコン!と立ち上がった。

「いただきます!」

鳥居ちゃんが元気よく食べ始める。

「美味しい!」


「不動明王…あ、あ、あ、あり、ありありありがとう。」

湍津姫命たぎつひめのみことが鳥居ちゃんの耳や頬をモミモミしたりグニグニしながら、ぎこちなくお礼を言う。


「な、なななな、なあに気にするな。」

不動明王もまたぎこちなかった。

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