第51話 犬が来た
「そうは言っても…。」
「頼む。この通りだ。」
「うち、一般家庭ではないし……。」
「もしも馴染めなかったら諦める…。」
「……。」
「そんな訳で……。」
「断りきれず、ホームステイですか。」
「1週間だけ…。」
居心地の悪そうな住職の腕の中には白っぽい子犬がいた。
住職の友人の家で子犬が生まれ、もらってくれなければ保健所に…と脅されるように説得されたようだ。
そのように言われて断れる住職ではない。
「1週間、お預かりする間は順番でお世話しましょう。」
「残念ながら、この子がここに馴染めない可能性は高いですけどね。」
「お世話しながら貰い手を探すのが現実的ですね。」
「すまん。」
人外が多すぎる環境なので動物には落ち着かないことだろう。
「僕ら、実家で犬を飼ってたことがありますからね。」
「この子のお名前は?」
「メイちゃん。秋生まれなので、もみじ→ メイプル → メイちゃん らしい。」
「メイちゃん!女の子ですか。」
「メイちゃーん。」
柴をベースにスピッツが混ざったようなルックスのメイちゃんは可愛くて、メタボ先輩とのび太後輩はデレデレだ。
「メイちゃんのお家を決めないと。」
「出来るだけ仏像様たちから遠い場所にしないと。」
―― そんな場所、あっただろうか…。
とりあえず妥協できるギリギリのスポットをメイちゃんのお家に定めた。
「あとは専用のご飯用の器と飲み水用の器を用意して。」
「1週間は短くて淋しいけど。」
「もっと早く実家に帰る可能性もあるな。」
淋しい予感に2人でため息をつく。
しかし予想に反してメイちゃんは、あっという間に大聖院に馴染んだ。
正式に引き取られることになるだろう。
「かわいいね!」
鳥居ちゃんとメイちゃんの尻尾がグルグルだ。
「僕も抱っこしたいな!」
「そら、優しくな。」
十一面観音菩薩からメイちゃんを受け取るミカエル君。
「わあ、小さくてかわいいな。ふわふわだね。」
ミカエル君がデレた。
「僕、メイちゃんのお父さんになってお世話する!」
「じゃ、じゃあ朝晩のお散歩を任せてもいいかな?」
「うん!」
子犬パワーに翻弄され、初日のお散歩で息も絶え絶えなメタボ先輩とのび太後輩に、ミカエル君は救いの天使に見えた。




