第46話 不動明王のお取り寄せ
「ルビーチョコレート?」
「そう。ホワイトチョコレートが登場して以来80年ぶりの新フレーバーのチョコレートとして注目の商品だよ。」
「ホワイトチョコに着色したのではないか、よく見かけるぞ。」
「違うんだ。着色料もフルーツのフレーバーも入っていない、ルビーカカオという品種の豆から生まれたチョコレートなんだよ。」
ここで初めて不動明王がカッと目を見開いた。
「メタボ先輩!」
「ビター、ミルク、ホワイトに続く第4のチョコレートって話題なんだ。出荷量は開発元の予想の20倍だって、凄いよね。」
「メタボよ!」
焦れる不動明王をスルーして話し続けるメタボ先輩。
「でもね、第4のチョコレートはもう一つあるんだ。それがブロンドチョコレート。同じくらいの時期に両方とも、第4のチョコレートでーす。って名乗っちゃったからどっちも引っ込みがつかないみたいだね。」
「メタボ!」
不動明王をスルー。
「こちらはフランスのヴァローナ社が作り出した偶然の産物であるブロンドチョコレート。
生産途中で炉に入れたまま忘れられて放置されたホワイトチョコが、美しいブロンド色に変化していたことがきっかけで誕生したらしいよ。」
「ほお!ホワイトチョコをキャラメリゼしたということか!」
「商品化に7年かけたんだって。」
「人間にしては、掛けたな!」
「一方のルビーチョコレートは2017年にスイスのチョコレートメーカーであるバリーカレボー社が発表したんだけど、南米で栽培されているルビーカカオという特別なカカオ豆が原料だって。
約10年をかけてルビーカカオの自然のピンク色をチョコレートに加工しても残すことができるようになったそうだよ。」
「10年か!」
「その後いろいろあってルビーチョコレートの大々的な商品展開が決まって、僕らでも買えるようになりました!」
「メタボ先輩!」
「うん、今回はこの2種類を取り寄せてみようと思うんだけど、どうかな?」
「賛成に決まっているだろうが!!」
早く早く!と急かさせながら注文が確定した。
「なんじゃ、集まれ集まれとうるさいのう。」
「甘い香りがするのう。」
不動明王の呼びかけで仏像や祭神たちが集められた。もちろん鳥居ちゃんとミカエル君もいる。
「世間で話題の第4のチョコレートと呼ばれるものを2種類ほど取り寄せたから、みんなでワイワイと食べ比べをしたくてな。」
その後メタボ先輩から説明タイムを経て試食開始だ。
「美味しいね!」
ブロンドチョコレートを食べた鳥居ちゃんが尻尾をぶん回す。
「キャラメルのようなビスケットのような…香ばしい香りがするね。甘さの中にほのかな塩気も感じられるような…うん、美味しい!」
ミカエル君も気に入ったようだ。
ホワイトチョコは甘すぎて苦手だという仏像からの評価もそれなりだった。
「さて、次はルビーチョコレートだよ。」
「これも美味しいね!」
鳥居ちゃんが尻尾をぶん回す。
「最初はホワイトチョコレートのような優しい香りがくるんだけど、後からフルーツのような風味が追いかけてきて…フルーツよりもコクを感じるな。これが原料となるカカオ豆の香りなのかな。いいね。」
こちらもミカエル君から高評価だ。
「これだけでは物足りないであろう。ワシの手作りガトーショコラだ。味わえ。」
粉糖で薄化粧し、甘さ控えめなホイップが添えられたガトーショコラを不動明王がサーブする。
最近メキメキとスイーツ作りの腕を上げた不動明王がウキウキだ。どちらかというと、こちらを試食させたかったのは見え見えだ。
コトリ。
不動明王が湍津姫命の前に置いた皿が、明らかに他と違う。
ベリー系のフルーツでデコレーションされ、本命用としか思えない一皿だ。
「其方はいつも口うるさいからのう!これで文句は無かろう!」
耳を赤くした不動明王が、あらぬ方向を向いたまま言い放つ。
「ふ、ふん!誤魔化されてやるとしようかのう!」
湍津姫命のセリフもまた、さり気なさゼロ%だった。
「ねえ、もしかして……?」
「かれこれ500〜600年間ほど、このじれじれな茶番が続いているな。」
メタボ先輩の疑問に答える仏像たちは、お腹いっぱいという表情だった。