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第44話 テレビにハマったミカエル君

ミカエル君がテレビにハマった。


鳥居ちゃんとミカエル君には、ためになる番組しか観せないようにしようという僧侶・神主たちの頑張りは長く続かず、アニメやスポーツ中継、お笑い、邦画に洋画、MTVなどを一緒に楽しむようになった。


MTVの時間になると、普段は忙しくてなかなか会えないピグモン君がMTVを観にくるのも嬉しかった。


「かっこ良かったね!」

「うん。活動休止が2013年だったから6年ぶりの新曲だよね。」

「ドラマチックな展開の曲だよね、PVも凝ってるね。」

ミカエル君とピグモン君はジョナス・ブラザーズの新曲「Sucker」が気に入ったようだ。

ジョナス・ブラザーズを知らない鳥居ちゃんはニコニコしている。


「この曲は全米シングルチャート初登場1位を記録しただけでなく、ジョナス・ブラザーズにとって初めての1位なんだよ。

グループとしてチャートに初登場で1位を獲得したのは、史上2組目でね。

「僕、知っているよ!1組目は1998年にリリースされたエアロスミスのI Don’t Want to Miss a Thingでしょう!」

「そうだよ、さすがピグモン君!」

「映画アルマゲドンの主題歌だよね。」

「そう、でも僕はDream onの方が好きだなあ。」

「僕は、この一曲!っていうんじゃなくて、この一枚!かな。アルバムPUMPが大好きなんだ。」

「Young Lust のイントロが聴こえてくるとアガるよね!」

音楽好きな角刈り先輩とピグモン君が興奮気味にお喋りするが、角刈り先輩もピグモン君も、それぞれ仕事があり、慌ただしく出掛けていった。


「私、次はお料理番組を観たいな、これ!」

鳥居ちゃんが番組表を広げてみせる。

鳥居ちゃん、ミカエル君、オタク神主、不動明王の4人が見守る中、『もてなし家族に福来る!平野○ミの早わざレシピ第6弾』の放送が始まった。


「制限時間内に14品の“おもてなし料理”を作るだと!?69分で14品とは…。」

「すごいよね!」

驚く不動明王と感心する鳥居ちゃん。

「平野レ○さんは、美味しいアイディア料理で有名なんだよ。手軽に作れるレシピも多いしね、簡単そうで美味しそうな料理が出てきたら再現してみようか?」

「わあ!楽しみ。」

料理上手なオタク君にミカエル君が期待を寄せる。



「青汁、ミルク、オリーブオイルを混ぜるだけのドリンクか。栄養バランスは良さそうだね。うまく味を整えたら冷製スープになるかも。」

この直後、ポジティブなオタク神主の発言を台無しにする演出が放送された。


「長ネギをストロー代わりにしてる…。」

鳥居ちゃんとミカエル君が黙る。


「ワシは飲まんぞ!」

拳を握る不動明王。

「再現しませんから…。」

オタク神主も青ざめている。


飲まされる共演者の顔色が悪い。

きっとネギの青臭い香りしかしないのだろう。


残り13品に不安しか感じない。しかしこの番組から目が離せない。


「おい……熱いという理由で自分で調理せず、共演者に調理させているぞ。この料理愛好家は自由奔放だな!」

不動明王の発言に対し、『あなた達だって相当ですよ』と言いたい気持ちを、グッと堪えるオタク神主。


そして「くるくる角煮」のシーンで事件は起こった。 主役である料理愛好家が電子レンジで温めた豚肉を取り出しながら……


「このチン汁よ。これが美味しいのよ!」

と言いよった。


慌てたアナウンサーが「レンジでチンした豚肉の肉汁」と言い直してフォローするも、「チン汁?」「チン汁!」と喜んで声に出す共演者たち。子供か!


お茶の間が凍りついた。


ぽん。


不動明王がミカエル君の肩に手を置く。

「ミカエル君、レンジでチンした食材から出た肉汁のことは肉汁と呼ぶのだぞ。」

「僕は大丈夫、こう見えて実年齢は数百歳だから…。」

そう答えながらミカエル君が鳥居ちゃんを見る。


「オタク君!チン汁が美味しいんだって!」


手遅れだった……。


もともと豚の角煮は鳥居ちゃんの大好物だ。

今日の番組で紹介された薄切りの豚バラ肉を、くるくる巻いて作る時短の角煮レシピに鳥居ちゃんは夢中で尻尾をぶん回していた。


「鳥居ちゃん、あれはレンジでチンした肉汁だよ。肉汁。ね?」

「え〜、作った人がチン汁って言ったよ。」

「お肉から出た肉汁は肉汁。ね?」

オタク神主が優しく言い聞かせる。


「ひっ!」

「どうしたの?」

ミカエル君の悲鳴に、チン汁のことを忘れて振り返る鳥居ちゃん。


「インスタントコーヒーや生クリームを使ったカフェ・オ・レ パスタだって…。」

「美味しいのかな!」

チン汁を忘れた鳥居ちゃんがはしゃぐ。


「鳥居ちゃん、スイーツ好きなワシが言うから信じてくれ。このパスタは食べる人を選ぶ料理だ。コーヒーは苦いから、きっと子供のミカエル君と鳥居ちゃんの舌には合わぬ。いつもの美味しい角煮を作ってもらうと良い。な?」

不動明王が頼もしい。

オタク神主が眩しそうに不動明王を見る。


「じゃあ私は不動明王様がカフェ・オ・レ パスタを食べるところを見てるね!」


―― なんだと…?


「大人には美味しいんでしょう?それに、ほら!きっとインスタ映えで素敵だよ。パセリ(おっ立て用)だって!」


―― おっ立てだと…!?


材料一覧に『パセリ(おっ立て用)』と書いてあり、出来上がり映像にはパセリが刺さっていた。


「……。」

「……。」

「……。」

「カッコいいね!」

無言の3人とキラキラな鳥居ちゃん。


「わあ、見て!おっ立てピータン豆腐だって。」


―― さらに、おっ立てだと…!?


番組が終わる頃、鳥居ちゃん以外の3人のライフはゼロだった。



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※お話の都合で実際の番組と料理を作った順番を入れ替えています。ご了承ください。

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