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第31話 天狗とメタボ先輩と餃子

「天狗?」

メタボ先輩が居酒屋チェーンのWebサイトを示す。


「明るく広々とした店内と値ごろ感ある豊富なメニューがお財布に優しい、カジュアルで日常的にご利用出来る、大手居酒屋チェーンの和食れすとらん旬鮮だいにんぐ天狗ではない。ワシは山の神の天狗だ。寝ぼけているのか?」

チャラいけど本命には一途なピュアボーイ風のイケメンに進化した天狗がムッとしている。


「メタボ先輩、神社仏閣対抗ボーリング大会の打ち上げの会場探しのことは一旦忘れて下さい。」

「金曜日だから、どこもいっぱいで…それに甲殻類のアレルギー持ちとかナマモノが嫌いとか、人数が多いとこだわり条件も増えて大変なんだよ…。それで、いろいろ調べていたんだけど大手のチェーンて、アレルギーとかそういうものへの体制が出来上がっててすごいのな!大部屋もあるし。」

「ほほう、どれどれ。」

天狗がメタボ先輩のパソコン画面を覗き込む。


「アレルギーが気になる方へというページがあるのか。

……これは凄いな!蕎麦アレルギーだったら“そば”にチェックして検索ボタンをポチッとすると、そばが未使用のメニューを表示してくれるのか!アレルギーは命に関わるからな!

おや!通販サイトへのリンクもあるではないか?ポチッとしてみよ。…ほほうワインを売っているのか。

む!なんだこの750mlで約4000円のオリーブオイルは。この居酒屋チェーンは安さが人気の理由なのであろう。4000円あればお腹いっぱいになれるぞ…。

むむむ!メタボよ、餃子だ!この餃子のバナーをポチポチせよ!……うむ、1個あたり29.8円の冷凍餃子か。ユーザーが、このチェーン居酒屋に求めているのはこういうものだろう?

……それにしても美味そうだな。これはビールが進むやつだぞ。」

「はいはい、注文しますよー。天狗様は何個食べますか?」


うぬぼれて高慢になることを天狗になるというが、この天狗は調子に乗りやすい性格だった。当初の目的を忘れ、頭の中は餃子でいっぱいだ。

メタボ先輩はメタボ先輩で、“餃子は野菜が入っててヘルシーだから痩せちゃう〜”と自分を甘やかし始めた。

「天狗様は当初の目的を思い出して!メタボ先輩はダイエットを思い出してー!」


「そうであった!メタボよ、まずは餃子の注文を確定せよ。……うむ、さすがメタボは話の分かる先輩じゃ。

それでワシの用事じゃが、先ほどこの自慢の翼で自在に空を飛び回っていたところ、西の方で鹿がうずくまっておったのだ。怪我か病気か…、気になってのう。

一番最初に見かけた のび太に声を掛けたのじゃが1人で近づいてはいかんからな、そなたにも声をかけにきた。他の者にも声を掛けて、早う見に行ってやってくれぬか?」


「案内してください!」

天狗の話が終わるより早く立ち上がったメタボ先輩が走り出した。


寺院の者や神社の関係者や鳥居ちゃんとミカエル君を巻き込みながら現場に向かうと、後脚をかばうようにヒョコヒョコ歩く鹿がいた。

メタボ先輩の迅速かつ的確な行動で獣医による診察が行われた結果、大きな怪我ではないと分かった。


診察の終わった鹿は鳥居ちゃんとミカエル君に大人しく撫でられていた。

「大人しく診察されて良い子!」

「早く元気になるといいね。」

鹿も2人に撫でられて嬉しそうだ。



その週末、鳥居ちゃんとミカエル君を招待して餃子パーティーが開催された。


「アジアのラビオリ美味しいね!茹でずに焼いてあるのって、皮がパリッとして良いね。ソースと和えてあるんじゃなくて、自分で合わせるのも楽しい!」

ミカエル君がご機嫌で餃子を頬張る。

醤油に酢とラー油を自分好みに合わせるのも気に入ったようだ。

美味しそうに食べるミカエル君と鳥居ちゃんを見て、焼き係のメタボ先輩が嬉しそうだ。


「鳥居ちゃんとミカエル君、こちらもどうぞ。餃子チャオズの本場、中国では焼き餃子ではなくて水餃子なのよ。」

中国四大仏教の聖地である普陀山で製作された仏像で、中国出身の子育て観音がお手製の水餃子をミカエル君に勧める。

「皮がモチモチで具がたっぷりジューシーで美味しいね!」

「ほほほ。鳥居ちゃんは焼き餃子よりも水餃子の方が好きなようね。」

子育て観音が胸を反らす。

「焼いたのも美味しいよ!全部美味しい!永遠に食べていたいな!」

笑顔で頬張る鳥居ちゃんの尻尾がブンブンだ。


「こちらもどうぞ。」

チベット仏教のマニ車の化身であるマニがモモを勧める。モモは、広くチベット文化圏で食べられる小籠包のような蒸し餃子だ。中国の水餃子よりも皮が薄く軽食扱いで、いくらでも食べられる。

鳥居ちゃんとミカエル君が美味しそうにモモを頬張る。


「落ち着け、みんな大事なものを忘れているぞ。」

ボリウッドのアクションヒーロー、ヴィディユット・ジャムワル (Vidyut Jammwal) 似のムキムキなイケメンの阿弥陀如来が大皿を持って割り込んできた。


ドン!

中にスパイスで風味づけした野菜の具を詰めたカレー味の餃子、サモサだった。

「揚げたてだから熱いぞ!」

鳥居ちゃんとミカエル君と仏像たちから歓声があがる。美味しい!という声に阿弥陀如来の筋肉が弾む。


「みんな凄いね!仏像と共に餃子が世界に広まったんだね!」

生まれたてで世間知らずな鳥居ちゃんが、キラキラと仏像先輩たちを見あげる。


「うん、そうだな。」

「我らと共に餃子は世界に広まったのだ。」


――  仏像たちが嘘をついた。悪気は無かった。

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