第28話 メタボ先輩のダイエット
先輩の悩みはメタボだ。
今年も人間ドックの季節がやってきたが気が重い。今年は人間ドック直前に飲み物をすべて胡麻麦茶に変えてみた。ネットで箱買いしたら、ちょっと安かった。
ゴクゴクゴク。
―― けっこう飲みやすくて美味いな!
「メタボ先輩、美味しいお茶を味わうのではなくて、病気を防いで健康的な生活をキープするのが目的ですよ。」
後輩坊主の、のび太が現実を突きつけてくる。
ちなみに、のび太は大聖院で1番の若手で、厳島神社のオタク神主のようなポジションだ。のび太はもちろんあだ名で、由来は丸い眼鏡だ。
それはともかくメタボ先輩を悩ませている日本でのメタボリックシンドロームの診断基準は…
● おへその高さの腹囲が男性の場合は85cmを、女性の場合は90cmを超える。
● 高血圧・高血糖・脂質代謝異常の3つのうち2つに当てはまる。
以上の条件に当てはまるとメタボリックシンドロームと診断されます。
「腹囲の基準をクリア出来ないと諦めて、胡麻麦茶で高血圧をなんとかしようとしていますね?」
―― ぐぬぬ…図星である。
「特定保健用食品」とは、食事の習慣や運動習慣を含めた生活習慣を改善し、健康を維持・増進する際に《《手助け》》となるものであって、運動もせず食事も偏ったまま“これで全部解決だー”なんて使い方は間違っているし、そんな使い方でメタボ回避は無理ですよ。」
―― ウチの のび太が理屈っぽい。
メタボ先輩が渋い顔でのび太を見る。
ドラえもんに頼るのび太の弱々しくも可愛らしい要素が皆無だ。
「どうしたの!?」
元気いっぱいな鳥居ちゃんが現れた。
ミカエル君は実家のモン・サン=ミッシェルに帰っており、1人で退屈していたのだ。
「鳥居ちゃん、ミカエル君は帰省中だったかな?」
「うん!本体のお手伝いだって!」
「そうかー、早く帰ってくるといいねー。」
「うん!それよりも何か困ってたみたいだけど、どうしたの?」
メタボなお悩み相談タイム。
「運動するといいの?」
「そうだね、あとは栄養バランスが良い食事を控えめに取ることかなー。」
「野球は?」
―― ふ。
のび太が笑った。
「鳥居ちゃん、メタボ先輩の野球は運動じゃないんだよ。野球ごっこね。それに1番の目的は打ち上げだから。」
「とっても楽しそうだったよ!」
「うん、楽しいのは良いよね。でもあんなに沢山ビールを飲んで油っこいものばかり食べていては健康には良くないんだよ。」
「健康に良くないと、どうなるの?」
「病気になる。」
「それだけ?」
鳥居ちゃんの眉間に、“なーんだ!それだけ?”と言わんばかりにシワが寄る。
「メタボが引き起こす病気は怖いんだよ。」
メタボリックシンドロームに由来する生活習慣病の説明タイム。
ぺたん。
じわあ…。
鳥居ちゃんのお耳が倒れ、お目目に涙が溢れた。
ぎゅ!
鳥居ちゃんがメタボ先輩の手をにぎった。
「メタボ先輩が病気になったら嫌だよ。ずっとここで一緒に居たい…。」
「鳥居ちゃん…。」
メタボ先輩も泣きそうだ。
「もし…ミカエル君が戻って来る前にメタボ先輩が死んじゃったら……、う…ひっく。」
―― そんなに急変はしない…と思う…たぶん。
メタボ先輩の生活が少しだけ変わった。
来年の人間ドックでは、ちょっと良い結果が出るかもしれない。
「僕、けっこうメタボ先輩のことを尊敬しているんです。」
「そうなのですね。」
「けっこう本気で心配して、なんとか本気になって貰おうと説得を頑張ったのに。」
「そうですねえ。」
「僕の説得より幼女の涙でコロリと…。」
「はいー。」
その夜、大聖院の愚痴聞き地蔵は同僚である のび太の愚痴を遅くまで聞かされた。




