第22話 オタク神主に相談した
「鳥居ちゃんとミカエル君とピグモン君の3人とギクシャクしてしまったので関係を修復したいという事ですか。」
「うむ。先日はちょっと調子に乗ってしもうた。」
「ミカエル君は怒ってはいないようじゃが…ワシらの気持ちがな…。」
「薬師如来のボケのおかげでミカエル君が無事に目覚めて良かった…少々やり過ぎだったわ。」
「薬師如来はクソだがな。ミカエル君は良い子じゃ」
「…修復が必要なのはミカエル君ではなく、薬師如来さ……。」
「あ゛?」
「何か言ったか?」
「もう一度、言ってみるが良い。」
「ひっ!何でもありません……。」
オタク神主の声が震えている。
「え、えっと…3人とも子供で甘いものが好きなようなので、仲直りのスイーツでも作ってみては?」
祭神たちが絶望的な表情になった。
「あの…?」
「スイーツはちょっとな……。」
「アレだな。」
「うむ、アレだ。」
祭神たちがソワソワし、視線も定まらない。
―― 市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様は料理出来ない系女子だった。
「す!すみません!そもそも姫様ですから!お料理などなさるご身分ではないとは承知しておりますが、だからこそ3人も喜ぶかな〜なんて…。」
「う、うむ。」
「一理あるな…。」
「……か…ないか?」
「へ?」
「何かないか?」
「簡単で失敗知らずで美味な菓子のレシピじゃ。」
「早う教えろ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!僕もお菓子は作ったことがなくて…ちょっと検索してみますね。」
祭神たちがソワソワとオタク神主の手元を覗き込む。
「レシピ 簡単 スイーツ で検索…。あ、これ簡単そうですよ。マフィンなんて、どうです?混ぜるだけですから。」
「ほう!」
「良いな!」
「詳しく教えるのじゃ。」
「準備として、材料はすべて計量しておく。バター、卵は常温に戻す。薄力粉、ベーキングパウダーは合わせてふるっておく。オーブンを180℃に予熱してお…」
ダン!(テーブルを叩く音)
びくっ!
「混ぜるだけと言ったではないか!」
「はくりきこ とは何だ?」
「米津の歌詞はマフィンと関係ないであろう!」
「混ぜるだけのレシピでも計量は必要です。計量無しに、どのくらいの量を混ぜれば良いのか?どうやって知るのですか?」
「ぐぬぬ…。」
「薄力粉はタンパク質の割合が8.5%以下の小麦粉です。お菓子作りに適しています。」
「白い粉のことであったか…。」
「米津玄師が作詞作曲した楽曲は関係ありません。よねつ は予熱です。」
「そ、そうか。」
ジッと見つめ合う。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「もっと簡単なもの…。」
「既製品のもみじ饅頭に衣を付けて油で揚げるだけの“揚げもみじ”にしましょう。これより簡単はありません。」
オタク神主が祭神たちを順番に見る。
「はい。」
「はい。」
「はい。」
オタク神主が怖かった。
「買ってきましたよー!」
オタク神主の呼びかけに祭神たちが集まった。
「こしあんとアップルの2種類を買ってきました。もみじ饅頭を串に刺して衣をつけて揚げます。揚げたては中身が熱々トロトロで美味しいですよ。」
「早速、3人を呼ぶぞ!」
「待ってください!」
「待つ?」
「何故じゃ?」
「試しに作ってみましょう。つまり試食です。美味しく出来たことを確認してから招待した方が…。」
「くくく、必要ないわ!」
「揚げるだけじゃぞ!」
「失敗するなどあり得ぬ!」
―― 嫌な予感がした。しかし止められなかった。
「わあ!市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様の手作りお菓子!」
鳥居ちゃんの尻尾がブンブンだ。
「姫様ありがとう。」
「嬉しいです。」
ミカエル君とピグモン君も嬉しそうだ。
「揚げたてじゃぞ!」
どん!
オタク神主の予測を上回る焦げっぷりだった。
「いただきまーす!」
ばく!
鳥居ちゃんが元気良く食べた。
「い、いただきます。」
「……僕もいただきます。」
ミカエル君とピグモン君が時間をかけて1つの“焦げもみじ”を苦しそうにお茶で流し込み終わるまでに、残るすべての“焦げもみじ”を鳥居ちゃんが平らげた。笑顔キープで。
「ふう、お腹いっぱいです!市杵島姫命様、田心姫命様、湍津姫命様、ありがとう!」
「僕もお腹いっぱいです。」
「ありがとうございました!」
祭神の元を退出した後、ミカエル君とピグモン君が泣きながら鳥居ちゃんに抱きついた。
「鳥居ちゃん!」
「しっかりして!」
ゾンビのような顔色の鳥居ちゃんにミカエル君とピグモン君がすがりつく。
「2人とも、どうしたの?」
「ひっく…あんなに沢山食べて大丈夫?」
「ぐすっ…お腹は痛くない?」
「大丈夫だよ!」
「でも顔色が悪いから!」
「そうかな!?」
「お願いだから薬師如来様のところに行こう?ね?」
「という訳です。えぐえぐ。」
「鳥居ちゃんのお腹が…えぐえぐ。」
ミカエル君とピグモン君が泣き止まない。
「油でギトギトで苦かったけど、そういう味のお菓子なのかな?って。
市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様がお料理してくださったのは初めてだから嬉しくて……。」
ゾンビ色の顔で天然発言の鳥居ちゃん。
「鳥居ちゃん、揚げもみじはギトギトしていないし、苦くもなくて美味しいのが普通なのじゃよ。そもそもあの姫様たちは…。」
―― ぱたり。
鳥居ちゃんが倒れた。
「鳥居ちゃん!」
「しっかりして!」
薬師如来の長い話の途中で鳥居ちゃんが倒れた。
話が長いから!早く治して!と泣いて怒るミカエル君とピグモン君にポカ殴りにされ、急き立てられながら薬師如来は鳥居ちゃんを治療した。




