第12話 鳥居ちゃん、誕生(回想)
「そうですか、ミカエル君が気絶してしまい、いまだに会話ひとつ成立していないと…。」
「すぐに打ち解けられるものと思っていたのじゃが…。」
不動明王たちの愚痴…いや、相談相手は大聖院の僧侶や厳島神社の神主たちだった。
「ねえ、お不動さん。」
「なんじゃ?」
「大聖院さんのところには、アンパンマンやウルトラマン、バルタン星人とかピグモンとかの石像もいるでしょう?小さな子には人気だし、彼らを遣わしてみたらどうかな?」
「それはいいな!」
早速試してみるので、明日また集合な!と言い残して不動明王が元気よく帰っていった。
翌日現れた不動明王の表情は暗かった。
「もしかして…。」
「だめじゃった…、怯えられた。特にピグモンはダメじゃった。アンパンマンたちは落ち込むピグモンを慰めるのに忙しい…。」
「ピグモン…。」
相談相手の一人である神主はオタクだった。
ピグモンが悲しんでいると知り動揺した。
ウルトラ派か?ライダー派か?戦隊派か?と聞かれたら、迷わずウルトラ派と答えるほどにはウルトラシリーズが好きなので心配でならない。
「石像や仏像全般が怖いものと思い込んでいるのかも。」
十一面観音菩薩や阿弥陀如来たちが、不動明王をジト目で見る。
「な、なんじゃ。」
「不動明王が最初に怖がらせたから!」
「む、むう…。」
「ほらほら、喧嘩しないで。」
「そうそう、ミカエル君を歓迎したいって目的からズレているよ。」
「す、すまぬ。」
「我らの出番じゃな!」
「市杵島姫命様!田心姫命様!湍津姫命様!」
「今日も神々しい!」
市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様は厳島神社の祭神だ。
「何か解決策をお持ちでしょうか?」
「うむ。」
「いまいる仏像たちでダメなら、新しく作れば良いのじゃ。」
「ミカエルは子供なのじゃろう?こちらも同じ目線で仲良くなれるお友達を遣わそうではないか。」
―― おお!
―― さすが市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様だ!
―― なんとクレバーな!
会議室が活気を取り戻した。
僧侶や神主たちの賞賛に胸を反らす三柱。
「それで、どんなお友達でしょうか?」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
祭神たちがお互いをチラチラ見る。
「あの…?」
「それを考えるのは其方たちじゃ!」
―― 出た。神様の無茶ぶり。
会議室が沈黙に包まれる。
「ほれ、何かアイデアを出さぬか!」
「そ、そうは言っても…アンパンマンがダメなら、どうしたら…。」
「あのー、意見、いいでしょうか。」
「おお、其方は若手ナンバーワンのオタク神主ではないか!」
「構わぬぞ!」
相談相手の一人であるオタク神主は神様にもオタクとして認識されていた。
「まず、伝統的な仏像や石像の見た目は怖いと思いこまれているので現代風で。」
「ふむふむ。」
「アニメ的な要素を取り入れてみてはどうでしょうか。」
「ふむ、例えば?」
「まずはミカエル君と同じくらいの年齢で。」
「打倒じゃな。」
「性別は女の子で。」
「構わぬが何故じゃ?」
「ミカエル君はフランスから来たので、女の子が好きかなーって。」
「それは偏見ではないか?でも構わぬぞ。」
「でも日本の神社仏閣的な要素は絶対に欲しいので…。」
「当然じゃな。」
「現代風な巫女さんの女の子はいかがでしょうか。性格が良いというのは絶対で!」
「‥‥うむ、少し待っておれ。」
市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様が何か相談している。
3柱の頭上に光が集まり…中から女の子が出てきた。
巫女服を着て、キツネ耳とキツネ尻尾を付けた女の子だ。
―― おおー!
―― さすが市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様だ!
―― かわいいな!
僧侶や神主たちの賞賛に胸を反らす三柱。
「鳥居の化身だから名前は鳥居じゃ。」
「市杵島姫命様、田心姫命様、湍津姫命様、可愛い名前をありがとう!」
―― かわいい名前?
「あのー。」
「なんじゃ、オタク神主?」
「…キツネ耳とキツネ尻尾が付いていますが、厳島神社は稲荷神を祀っていないですよね…。」
「細かいことは気にするな!」
「可愛いじゃろう!」
「はい、すっごく可愛いです!」
「そうじゃろう。」
―― 市杵島姫命様と田心姫命様と湍津姫命様が良いなら、良いんじゃね?




