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残念な異世界召還~異世界転移ってもっと楽しいもんだと思ってた~

帰還者のための異世界講座~当面の生活編

作者: 青木泊

お蔵入りからの救済第2弾。

前回の作品に、感想というかご意見?をいただきました。

その時いただいたご意見を反映させておりませんが、反映しない理由なども含めて先の感想に返信してあります。

もし同じ方がこちらをお読みになって、再度同じ意見を書き込もうと思われたのなら、そのまえに前回の感想返信をご覧いただけるとありがたいです。

「さて、それじゃあそろろろ今後の生活についての話しに入ろうか。」

「お願いします。」


 それからのお姉さんの話は

・帰還者はこの世界に慣れるための訓練施設ここで暮らす(有料)。

・衣食住は施設内で最低限揃う。

・施設では、最初は農業と酪農と勉強の三つを行う。

・一日のスケジュールは、農業・酪農・勉強のうちどれかを半日ずつ行い、夕方以降は自由時間。

・農業・酪農は歩合で給料が出る。施設暮らしの基本料金はそこから天引き。

・農業・酪農・勉強は、不公平が無いようにローテーションで回す。

・休日もシフト制で組まれているので安心。

・自由時間と休日の外出は注意事項を守ること。

・何か意見要望があれば、担当窓口へ。

 こんなだった。


「勉強って言っても世界に慣れるための訓練だから、最初は語学と一般常識が主だね。ある程度学んで、成績が良い人は他の勉強や仕事を選択する余地が与えられます。」

「…それって実地より座学ってことですか?なんかずるい…っていうと違うか。とにかく不満が出たりしないんですか?」

「んー、そういう意味の不満は特に出ないかな。」


 お姉さんは少し考えながらつづけた。


「『勉強』とか『成績が良い』って言い方で誤解を受けるけど、さっきも言ったけど『世界に慣れる訓練』だからね。農業・酪農はあっちと同じ部分が多いから、こっちにきたばかりの帰還者でもできる。でももっと複雑なことは、ある程度読み書き常識が備わってないと、やりたくてもできないんだよ。」

「そう言われればそうかも…?」


 微妙に納得がいかないけれども、理屈は合っている気もする。

 私たちの世話をしてくれる人達はほぼ帰還者だというから、真面目にやっていれば働き者アピールはできるが、それだけではこの世界に馴染む助けにならないのだろう。


「農業・酪農が性に合ってる人は、そのままそっちに進める。向いてない人はある程度言葉を覚えた段階で違う仕事を教わって、そっちに移行できる。一般教養が充分身に着いたら施設をでて独り立ちしちゃうから、そういう人からは不満は出ない。

 勉強が上手くいかないって人は、どんなに不満だって結局どうしようも無いんだよ。例えばお金を渡して街で好きに過ごさせてみても、満足に買い物すらできないんだから。」

「なるほど…」


 確かに、それじゃあ自活なんて夢のまた夢だ。


「先に外出の注意事項を伝えておくね。

①敷地を囲む塀の外に徒歩で出ないこと。

②少し離れた場所に大きめの街があるので、街に行く場合は必ず定期馬車を使うこと。

③街に行くには言葉をある程度覚えてから行くこと。

④ちゃんと帰って来ること。

⑤知らない人に関わらない・悪さをしない。

こんな感じ。」

「④⑤子供か。」


 思わず突っ込んだ。なんだこれ。


「だって③を守らない人結構多いんだもの。結果迷子になって帰ってこれないとか、定期馬車に乗り損ねて帰ってこれないとか、そのへんの人に絡んで警察沙汰になるとか。」

「…こっちにも警察あるんですね。」

「一番に突っ込むところそこなんだ。『警察』っていうか、感覚的には日本の市役所の職員に近いかな。」

「言葉を覚えてないのに外出とか、他人に絡むとかって、ちょっと意味が分からない。」

「うんうん、君は冷静な子だね。」


 なんだか満足そうなお姉さん。

 これはそういう人に迷惑かけられた経験があるな?


「まず、迷って帰ってこれない人は、割とそのまま行方不明。」

「ええ!」

「なんでかと言うと、こっちは電話みたいな連絡手段が充実して無いからね。事件に巻き込まれたり一人で行き倒れたり。探しに行くにも人手不足だし、結果的にそのまま消息が途絶えるわけ。」

「えー、なんか冷たくないですか?」

「これが日本なら非難されるね。でもこっちだと世の中全体的に厳しいんだよ。これくらいは基本事項として自分で気を付けてもらわないと、この先一人で生きていけないと思う。」

「うーん。」

「で、警察沙汰になった人は、『意味が分からない言葉をしゃべってるやつは大体帰還者』って思われてるから、ここに連絡が来て回収するパターンが多いかな。」

「あー。」

「ただねー、帰還者って足元見られるんだよね。」

「へ?」

「良いカモだと思われてるってこと。こっちが悪者扱いされてるけど、実は相手が絡んできて金品巻き上げられてた。とか。」

「ひどい!そんな強盗みたいなのあるんですか!」

「帰還者は言葉が通じないから、加害者が被害者面して逃げちゃえば絶対つかまらないって思われてるんだよね。」


 異世界の治安悪すぎやしないか?


「そんなわけで、③④⑤はかなり大事なんだよ。安全のためにも言葉を覚えてない人は街に出ないこと。迷わないように気を付けること。なるべく知らない人に関わらないこと。」

「すごく良く分かりました。」

「うんうん、理解が早くてうれしい。ちなみに①②は魔物とか盗賊とかの対策だね。敷地内と馬車は色々対策済みだから基本安全。何も守りがないところに迂闊に出るなっていうことだね。」

「自己防衛が重要なんですね。」

「そういうこと。」


 私は慎重というよりビビりなので、こんなところで迂闊なことやらかす人の神経は良く分からない。

 異世界怖いよ異世界。


「じゃあ話を訓練に戻すけど、ある程度一般教養が身についたら次の段階に進めます。講師を呼んで教わったり、街でバイトをしてみたり。」

「ふむふむ。」

「最終的に自活できると判断されたら、施設を巣立つことになる。ちなみに過去の帰還者は

①街で仕事を見つけて自活する 65%

②この施設に就職して帰還者のお世話をして暮らす 5%

③戦い方を身に着けて冒険者になる 5%

④魔法の道(学者的な立場)に進む 2%

⑤異世界の技術をこっちで流行らせて大儲けして左団扇 1%

⑥その他 22%

くらいの内訳かな。」


「魔法…」

「やっぱりそこ気になる?」

「はい。2%しかいませんけど、私にも可能性ってあります?」

「それは私からは何とも言えないなー。」


 こちらには『魔法』がある。私たち帰還者を召還したのも当然魔法だ。

 なんと、適性があれば魔法も教われるらしい。


「魔法の適性を見る機会が何回かあってね、そこで見込みがありそうなら魔法の授業に参加できる。」

「へー。適性ってどうやってみるんですか?」

「そうだなー。呪文を唱えるだけで発動する魔法がいくつかあるから、それで威力をみたり、基礎を教えてどの程度理解できるかで判断したり?」

「2%しかいないってことは、適性がある人って少ないんですか?」

「授業を受けてみたけど、初歩の魔法を習って終わりって言う人は3割くらいいるかな。ちゃんと理解できて、本気で研究とか学問に打ち込むような人が2%だね。」

「じゃあ、攻撃魔法を習って冒険者になるとか…」

「それは私が知る限りいないなー。」

「いないんだ…」

「だって攻撃魔法ってかなり高度な方だから、ちゃんと理解してがんばって勉強しないと使えないんだよ。で、本気で勉強を始めると、攻撃魔法より研究系の方に興味が行く人が多いみたいで。」


 結果、わざわざ攻撃魔法を覚えて危険な冒険者になろうとはしない。と。


「堅実ですね。」

「冒険者なんて本気で命がけだからね。」

「さっきの内訳の①が圧倒的に多いのは…」

「一番無難なところだから。」

「夢が無い。」

「何度も言うけど、物語みたいな『特殊スキル』とか無いからね。訓練して『身に着けた技術』だけ。魔法だってちゃんと特訓しなきゃ使えない。意識したり一言呟くだけで発動して、勝手に効果が出るようなものは一切無いの。冒険者になる人も、剣だの弓だの相当苦労して鍛えた末に旅立ってるんだから。だからこそのこの割合。」

「夢がないー!」

「嘆いてもこれが現実です。ちなみに、②が5%なのは結構人気で競争率が高いからだね。なかなか空きができないから、期待しない方が良い。」


 残念過ぎてひたすら嘆くけれど、お姉さんは淡々としている。

 悲しい。


「…この⑤と⑥ってどんなのですか?」

「えーと、⑤で有名なのはここにある『紙』だね。割と初期の帰還者が和紙を作って、そこから発展して今のこの紙らしいよ。当時は国からたんまり褒章もらったって。」

「おお!異世界転生ものでよくある展開!」

「そういうので上手く立ち回って仲介人を立てられれば、言葉も常識も無くてもどうにかなるってわけ。あとは、石鹸がバカ売れして、かなり儲けたって聞いたな。」

「へー、じゃあ何か便利なものを作れれば結構簡単に楽できるかもってことですか?」

「いやぁ、ちょっと考えて思いつく物は出尽くしてるんじゃないかな?私個人としては、日々の生活であまり不便を感じてないんだよね。」


 まだ作られて無いものを考えるのが難しいと思う。と言われてしまった。あと、特許みたいな制度もないとのこと。

 さらに、こっちには『電気』が無いそうで、最近の人は便利な家電を作ろうとして動力が無くて無理。というパターンが多いという。

 発電するにも知識と道具が必要なわけで、仮に知識があっても、道具を原材料から作り出すことになるわけで。今まで実現できる帰還者はいなかったようだ。

 ついでに、蒸気機関に手を出した帰還者も居ない模様。

 というわけで、手動でどうにかできる物はあらかた再現されて出回っているらしく、この施設にも手動で回す洗濯機とかがあるそうだ。


「あれ?こっちって魔法があるんだから、魔力が動力になったりしないんですか?」

「それは場合によるね。魔法が難しいってことは、魔力の扱いも難しいってことだから。何に使うとしてもコストがかなり掛かるんだよ。」

「どこまでも夢が無い…」


 聞けば聞くほど都合が悪い方に転がっていく気がする。

 魔法なんて夢の塊のはずなのに、なんて残念なんだろう。

 やっぱりとんとん拍子に進む異世界満喫ライフは、小説の中だけなんだなぁ。


「あとは…あ、元オペラ歌手が吟遊詩人になって、日本語のまま歌って生活してるって。」

「え、すごい!じゃあ、そういうの目指す人多いんじゃないですか?向こうのアイドルグループみたいなのやったり…」

「こっちには無かった芸を披露するのは悪くないかもね。でもあんまりおすすめはできないかなぁ。」

「何でですか?」

「その人は『元オペラ歌手の男性』だから、声の良さが一番の成功ポイントだったんだよ。しかも、施設を出るときは失敗したら野垂れ死ぬ覚悟してたって言うし。」

「それはまた壮絶な。」

「いや、甘く見てると結構本気で野垂れ死にするからね?さっきも言ったけどこっちはかなり厳しいから、日本みたいな生活保護とかないんだよ。

 その人は身一つでどうにかできた、本当に特殊な例なわけ。だからおすすめはできない。」

「かなり根性無いとできませんね…」

「そういうことだね。あとは…これは、話さない方が良いのかな…」

「なんです?」


 なんだか言いづらそうにするお姉さん。

 少し考えてから、ためらいがちに口を開いた。


「あんまり言うべきじゃないのかもしれないけど…どうしても言葉が覚えられなかったりして、勉強を諦めちゃう人も中にはいるの。⑥はほとんどそういう人。」

「…諦める?」

「そう。農業・酪農の給料は、必要最低限やってれば施設で暮らす分はギリ稼げる。で、勉強は全然真面目にやらないわけ。」

「うわぁ。」

「タダ飯ぐらいじゃ無いのが逆に質悪いよね。そういう人は専業農家・酪農家に強制転職になる。」

「成績が悪いと罰則があるってことですか?」

「罰則とは違うね、一時的なものじゃ無いから。そういう人は、ここから出て行ってもらうの。もう勉強は無し。そして戻れない。」

「え!厳しくないですか?」

「頑張ってるけど上手くいかないのか、完全手抜きなのかはちゃんと見極めてるよ?」


 言って肩をすくめる。

 何か嫌なことでもあったのか、だいぶ苦い表情だ。


「農業・酪農はちゃんとできてるんだから、それ専門になっても問題ないでしょっていうことで。言葉が分かる人の農園に従業員として派遣するの。

 この施設ね、あんまり余裕ないんだよ。新しい帰還者は定期的に来るし、自分の生活費は稼いでるって言っても、ずっと居て貰っちゃ困るわけ。とにかく勉強やる気ないなら出てって、自分に出来ることをやって生きろと。」

「それは確かに…」

「そもそも、この施設は昔の大貴族の子供が帰還者だったから、その人の発案で作られたんだよ。その貴族が代々厚意で支援してくれて、それでかなりギリギリやってる状態なの。見放されたら多分終わりだと思う。」

「世知辛い!」

「だから不真面目なのは本気で困るんだよ。そういう人に施設を食いつぶされるわけにいかないの。」

「な、なるほど…」

「と、いうわけで大体の説明は終わり。今日はこれから寝起きする部屋に案内して、みんなに紹介するから。あとは自由時間で、活動は明日からね。ちゃんとやる気を出して頑張ってくれることを期待してるよ!」

「…精一杯やろうと思います。」


 良い笑顔なのになんとなく怖い。そんなお姉さんに連れられて、施設内を移動する。

 がっかりな異世界に、重いため息がとまらなかった。

というわけで、異世界講座第2段。

いわゆるご都合主義を全部取っ払って、でも野垂れ死にしない程度には保護された納得いく環境ってどんなだろう?と考えた結果が一連のシリーズです。

書きたいこと・思いついたことは粗方書いたので、多分これで打ち止め。

お話しとも呼べない代物ですが、ここまで読んでくださってありがとうございました。

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