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王様と私15

「おぉぉぉぉ!ライザ様じゃぁぁぁ!」

「いつもありがとねー!私の可愛い子♪」


テーブルが光輝いたかと思うと、嬉し泣いて叫んでいる様な妖精さんの声が聞こえる。


「貴女はいつもいきなりだな、ライザ様。」

「まだ絵梨衣ちゃんがいるみたいだったから、ちょっと顔出しに来たのよ~。じゃ、よろしく!」

「………蜜酒ですね。…エリイに余計なことを吹き込まないように…」

「はいはーい♪」


ルシェルは再び、一瞬で姿を消した。

恐らく、ライザ様の蜜酒を取りに行ったんだと思われる。


「ライザ様の恩恵で、クッキーを頂きましたぞー!そうじゃ!他の者も呼び出さねばな!」


そして、また光輝く妖精さん。

すると、どこからともなく、たくさんの声が聞こえてくる。


「ライザ様が来てる?本当だわーっ!」

「ありゃー、この子は巫女姫候補者かぁ?なんちゅー魔力じゃ、心地よいのぉ。」

「女神様と候補者が共におるとは、楽園でありますな!」


等々、私には姿が見えないものの、相当数の妖精さんがいるらしかった。


「あらあら、珍しいわねぇ。岩山の子達が、こんなにたくさん集まるなんて♪いつもありがとうね♪」

『わーーーーっ!!!』


ものすごい喜びの雄叫びと、部屋の中すべてが光で輝いたので、目が開けていられないぐらいだった。


「こんなに妖精さんはいるのに、何でストリアの人達には魔力が足りないんでしょうか…。」

「岩山のこの子達はね、基本ひとりでいるのが好きなの。長い長い時間を悠々自適に過ごすから、人とあまり関わりを持たないわね。巫女姫の管理がないと、気に入った人間にしか魔力は渡さないのよねぇ。」

「フレールの妖精さん達とは、違うんですね…。」

「フレールは、温暖な気候で、特に植物の妖精の数は多いわ。けれど、植物は命の短いでしょ?」

「摘んだり、刈り取ったり、枯れてしまったりってことですか?」

「そういうこと。長く生きる子もいるけれど、植物では珍しい。でも、岩山を作り出している、ひとつひとつの鉱石は、風化したり加工されない限り、永遠に生きていくの。作り出す魔力も多いわ。でも、長く生きてる分、素直に魔力をほれほれと渡してはくれないの。」

「ルシェルは気に入られてるから、魔力を貰えてるってことですね。」

「あとは、ミエナやミールね。勿論、巫女姫候補者は例外無く貰えるわよー?候補者に選ばれたってことは、巫女姫として妖精達に愛される魔力を持ってるってことだからね♪」


ライザ様は、妖精さん達を見回し、よしよししているような仕草をするたびに、キラキラと光が強くなる。


「そうそう!僕たちはエリイにはあげるよ?」

「わしだって、あんたにならいくらでも渡してやるぞ。欲しければじゃがな。」

「絵梨衣ちゃん、試しにお願いしてみたら?元の世界に帰る魔力なんて、あっという間に戻るわよ~。」

「えっ!?そうなんですか?」


もし、今すぐ帰れるなら、出来れば帰りたい…。

ストリアの現状が気にならないわけではないけれど、一度家に戻って、これまでのことを落ち着いて考える時間も欲しい。

椅子から立ちあがり、部屋全体に向かって深く頭を下げる。


「岩山の妖精さん達、少しだけ私に力を分けてもらっても…いいですか?」

「「「はーーーーい!」」」


そう言った瞬間に、部屋全体がまた光輝いた。

そして、フレールの本の妖精さん達に魔力を貰った時のように、光がひとつにまとまり、私の中に吸い込まれていった。


「今、絵梨衣ちゃんの魔力は満タンよ?自分でわかる?」

「……何となく、さっきまでより身体がポカポカする…ような…。」

「よし!じゃあ、こっちに立ってみてー。」

「はい…」

「そこ、ルシェルの扉の魔法の魔法陣の上だからね。帰りたい!って強く思えば帰れるわよ。」


そうライザ様が言った瞬間に、ルシェルがトレーに蜜酒とグラス2つを持って戻ってきた。


「何をしている…?」

「やったー!!!あたしの蜜酒ちゃーーーん♪」

「何だ…岩山の妖精達がこんなに集まるとは…ライザ様が呼んだのか?この魔力の量は…何だ!?」


ルシェルがトレーを置いた瞬間に、ライザ様はニコニコで蜜酒を手酌で飲み始める。


「わーい!ルシェルだー!」

「久しぶりねぇ、ルシェル。あらぁ、あなた魔力足りてないじゃない。ちょっと分けてあげるわね。」

「わしの推しはミエナじゃから、ルシェルにはやらーんぞー。」


私には見えないけれど、恐らくルシェルのまわりにすごい人数の妖精さんが集まっているらしく、ルシェルには珍しく、かなり慌てた様子を見せていた。


「ルシェル、巫女姫のこと…ストリアの事も含めて、ゆっくり考える時間が欲しいの。だから、ごめんなさい…帰るね。」


そう言い終えると、魔法陣が青白い光を浮かべる。

レイの部屋から帰るときは、元々こうなっていたところに入れば、一瞬で浴室だった。

今回は、光を浮かべてもすぐには移動しないらしい。


「待て!ストリアには時間がない!」

「ライザ様、妖精さん達、ありがとう!ルシェル…本当にごめんっ…!」

「エリイ!!!!」


そうして、私の身体は魔法陣の光に包まれて消えた。


*****


「ライザ様…余計なことを吹き込むなと言ったはずだ……。」


未だに妖精に囲まれたままのルシェルは、ライザ様に冷たい視線を向ける。


「絵梨衣ちゃんにとっては、余計なことではないわよ?世界を知ることも必要だし、力の使い方を知ることも大切なこと。私は候補者達には優しいの♪」

「俺があちらの世界に行く魔力が溜まるには、まだまだ時間がかかるというのに…。」

「私と絵梨衣ちゃんの魔力に引かれて来た、今ここにいる愛し子達の力を貰いなさいな。みんなー!ルシェルが蜜入りクッキーごちそうしてくれるらしいわよ♪」


頭を抱えるルシェルのまわりでは、妖精達が小躍りしながらルシェルにまとわりついていた。


「クッキーたべたーーーーい!」

「ルシェル!早くクッキーー!!」

「はぁ………わかった……。ホールに用意しよう……。ライザ様もそちらへ。」

「何だかんだ言って、ルシェルは優しいのよねぇ~♪」


今度は魔法で移動せず、空中の廊下への扉を開くルシェル。

まず、蜜酒の瓶を抱えたライザ様が通り、その後に妖精達が続く。

絵梨衣には光でしか見えていなかったが、妖精は子どもの姿の者から、老人の姿の者まで、合わせて数百人が部屋の中でひしめき合っていた。

ストリアの城の中で、こんなに妖精の姿があるのは、巫女姫が健在だったとしてもあり得ないことだった。


「まさか…女神が蜜を取ってきたのは、この為だったのか…?」


最後の妖精が、ウキウキと部屋を出ていくのを見送りながら、ルシェルの呟きは、誰もいなくなった部屋の中に吸い込まれた。

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