王様と私13
「ここに来て初めて、妖精さんの声を聞いたかも…。」
「岩山の妖精は、あまり人と関わらない。気まぐれで、気難しい。そのせいで、この土地は元々人が住まなかった。」
「わしらは、長い長い時をここで静かに暮らしてきた。女神様に仕えることが、わしらの使命。全ての妖精が、人間の力になるなど、傲慢も甚だしい。」
丸い猫足テーブルの上にいるらしい岩山の妖精さんと話す為に、私とルシェルは椅子に座る。
声を聞く限り、妖精さんは一人しかいないようだった。
「あの…初めまして。絵梨衣と言います。ごめんなさい、私は妖精さんの姿が見えなくて…。」
「おぉぉぉ!エリイと言うのか!何とも心地よい魔力じゃ~。そうか、見えんのか…。では、これでどうじゃ!!!」
テーブルの上に、大きな銀色の光が現れる。
「見えたかのぉ~?光が見えたかのぉ~?」
「見えました!綺麗な銀色の光!」
「それはわしらの魔力の輝きじゃー!美しいじゃろぉ~!」
「…エリイには優しいのだな、岩山の妖精は。」
「お前にも優しくしとるぞ。」
「…ストリアの国民すべてにも、優しくしてもらえたら助かるんだが。」
「若くてかわいい者らには、目をかけとる。」
「…………茶の用意をしてこよう。」
ルシェルは、大きなため息をついて部屋から消えた。
…待って!姿が光だけの人と二人きりは、声が聞こえてもどうしていいわかんないから!
「えっ!ちょっと!?えっ!?」
「エリイは、ルシェルに興味はないのか?」
「あの………実はですね……フレールで、その…。」
「ほぉ!そうかそうか!それなら、その者と早く契るがええのぉ。」
「ちぎっ……いやいやいや、ただちょっと気になる人が出来たってだけなので!!」
ペンダントを握りしめながら、ちょっと前のミエナさんのように、全力で首をふる。
「そうかぁ…?巫女姫にならんと、気になる殿方とも離れることになるぞ?」
「あ………そうですね……。」
…そうだった…。候補者は、巫女姫が決まった後は帰ることしか出来ないんだった…。
「まぁのぉ……巫女姫とならなかった候補者が、召喚した人間と結ばれることもあるが…。」
「えっ!?それって、あり得るんですか?」
思わず、ペンダントを握る力が強くなる。
「あるとも!なんじゃ、ルシェルは話しとらんのか?」
「…話してないとは、何のことだ?」
「ふぁっ!ルシェル!」
お茶セットとお菓子をのせたトレーを持ったルシェルが、いきなり部屋に現れた。
「エリイ、こやつは候補者の息子じゃ。」
「えぇっっっ!!?」
「隠していたわけではない。話す必要が無かっただけのことだ。」
トレーをサイドテーブルの上に載せ、そこから手際よく、私と妖精さんの分のお茶、自分のお茶と、お皿に盛られた焼き菓子を用意して運んできてくれる。
「おぉ!わしらの好物、蜜入りクッキーじゃないか!」
「ライザ様が、蜜酒の為に蜜を集めて来ていたらしい。かなり持ってきたらしく、キッチンの者が大喜びしていた。それを使ったらしい。」
「ありがたいことじゃ…。しかし、蜜酒がお好きじゃのぉ、ライザ様は。」
「あのっ!お話中なんですけど、聞いても良いですか?」
椅子に座ってお茶を飲むルシェルと、飲んでいるのかいまいちよくわからない妖精さんは、ライザ様の話で盛り上がっていた。
…話の邪魔をしちゃうかもだけど…。でも、どうしても聞きたい!
「ルシェルのご両親は、ルシェルが幼い時に亡くなったと聞きましたけど、その…候補者だったお母様は、元の世界に戻らなかったってことなんですか?」
「……ふむ……わしが説明しても良いが…。」
「はぁ………。わかった、俺が説明する………。」
ルシェルは大きく息をついた。
「俺の母は確かに、元々巫女姫候補者だった。召喚者は、婚約者を亡くしたばかりの俺の父親、先代の国王だ。」
「こやつの父親のルーベンリースは、病で幼なじみの婚約者を亡くしてなぁ…。深く深く悲しんでおった…。」
…病…。それが、ルシェルが病と妖精について研究したきっかけなのだろうか…。
「婚約者を亡くして数年経ってから、巫女姫が亡くなり、扉の儀式を行うよう通達が来たそうだ。ストリアは魔術師の国だ。扉の儀式を行える人間は、他国より多い。しかし、国内での巫女姫絡みのいざこざが起きるのを危惧した父が、王たる自分のみが召喚を行うと決めたらしい。」
「候補者の取り合いになることで、国民同士が争わない様にってことね…。」
「ストリアは、他国と必要な交流しかしない、岩山に閉ざされた国だ。それは魔術の研究を進めるには良いが、国外の刺激に国民は弱くもある。国の中に、巫女姫候補者が何人も現れれば、世界は救えてもストリアが滅びる可能性もあるだろう。」
「その刺激に、しっかりやられたのが、ルーベンリースじゃ。」
「召喚した候補者と、恋仲になったってこと?じゃあ、何でその候補者は、候補者で終わっちゃったの……?」