王様と私9
「あの…では、エリイ様とお呼びしてもよろしいですか?」
「勿論!でも、様とかいらないよ?ほとんど同い年だし…。」
「さっ…さすがにそれは出来ません!巫女姫様ですから!」
ミエナさんが、両手と顔をプルプルして、全力で無理だと言うので、そこは諦めることにした。
「ミエナさん。お茶飲んで、ね?」
「はい…。ありがとうございます…。」
そう言って、彼女はゆっくりとカップを口に運ぶ。
口をつけた…と思ったら、一気に飲み干して、大きく息を吐いた。
「ミエナちゃん、そんなに心配だったら、行ってみたら?」
「えっ!?それは出来ません!私はエリイ様の側にいないといけませんから…。」
「じゃあ、私も一緒に行けば、問題ない?」
「それも絶対にできません!!エリイ様を連れて、魔物がいるところなんて、絶対ダメです!!」
両手と顔をブンブンふって答えるミエナさん。
そうだよね…。
何も出来ない私を連れて、大変な場所へ行くのは、邪魔もいいところだよね。
「そうねぇ~。干渉しないのが私のモットーだけど、ミエナちゃんが困ってるなら、特別にお手伝いしてもいいわよ?」
「えっ!?ライザ様が女神のお力をお貸しくださるのですか!?そんな畏れ多いこと…!ありがとうございます!!」
ライザ様の言葉に、ミエナさんは立ち上がって涙を浮かべてお礼を言う。
「いやいや~、さすがに直接力を貸すことはできないわよ?ただ、絵梨衣ちゃんがストリアの現状を知りたいっていうなら、絵梨衣ちゃんを守ることには力を貸したげる♪」
「あ………。そう……ですよね……。」
「えーっと……。じゃあ、ミエナさんとライザ様と一緒に、私は行っても良いってことですか?」
恥ずかしさと落胆が合わさった表情で、再びソファに座るミエナさん。
そうだった。ライザ様は、この世界で起こることに干渉はしないと言ってたから、直接、人の運命に関わるような手助けをしたりはしないんだった…。
それなら、私はいいんだろうか…?巫女姫候補者だから…?
「絵梨衣ちゃんが行きたいなら、あたしは止めないわ。巫女姫候補者が、この世界のことを知るのは、大切なことだと思ってるから。」
「あの……ライザ様にエリイ様をお任せして、私だけ行ってもいいでしょうか?」
「それは仕事の放棄だな、ミエナ。」
ミエナさんと私が、その声に驚いて後ろを振り向く。
振り向いた真後ろ、私とミエナさんが座るソファの背もたれに手を置いて立っていたのは、黒いローブを着た、相変わらず少年姿のルシェルだった。
「ルシェル様!」
「ルシェル!」
ミエナさんは急いで立ち上がり、ルシェルの側に駆けつける。
ライザ様は特に驚きもせず、笑顔で蜜酒のおかわりを注いでいた。
「ストリアで最も大切な客人を、女神様に押し付けるようなことを、俺が許すと思うか?ミエナ。」
「…申し訳ありませんっ!」
ルシェルは特に声を荒げるでもなく、ミエナさんに淡々と言った。
「ライザ様も、女神の気まぐれは困る。大方、蜜酒作りの名手であるミエナの母親を手助けしようというところか…。」
「やっぱりわかる~?でも、絵梨衣ちゃんにストリアの現状を見てほしいって気持ちは、ルーと同じだと思うわよ?」
「…なら、俺が共に行こう。それならエリイが来ても問題はない。」
「………ルシェル様っ!ありがとうございます!」
ミエナさんは、ルシェルに深くお辞儀をする。
ルシェルは大きくため息をついた。
「応接室にいたミールが、一向に来ないと連絡があったから、様子を見に来て見れば…。」
「あの、ちょっと聞いてもいい?」
「何だ?」
「扉が開く音とかしなかったんだけど、どこから入ってきたの?」
「主要な場所には、俺しか使えない移動用の魔術を組み込んでいる。そこに行きたいと思えば、ほとんど魔力を使用せずに瞬間的に移動が可能だ。」
「………何でもありなのね、魔術って…。」
「研究の結果だな。さて、すぐに移動するが、本当にエリイも来るのか?」
「邪魔にならないなら、行きたいと思ってる。」
「では、エリイはこちらへ来て、俺の杖を掴め。ライザ様は来るのか?」
ソファから立ち上がって、ルシェルがいつの間にか、どこからか出して左手に持っていた杖につかまる。
召喚された時にも持っていた杖だけど、そういえば少年姿だと、身長と同じぐらいの長さだった。
「ルーが行くなら、あたしはここでまったり飲んで、勝手に帰るわ~♪行ってらっしゃ~い。絵梨衣ちゃん、色々…見てきてね。」
蜜酒がたっぷり注がれたグラスを持ったまま、ライザ様はにっこり笑ってウインクをした。
…飲む気満々だわ、この女神様…。
「ミエナ、つかまれ。ライザ様、あまり飲み過ぎると、次のお酒の醸造まで時間がかかることをお忘れなく。」
ミエナさんが、私と一緒にルシェルの杖を掴んだ。
「行くぞ。」
そう言うと、ルシェルは何かを呟きはじめた。
そして、ライザ様が手をふっていたのが見えたと思った、その時、目の前に現れたのは、普通の街中の様な場所だった。




