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王様と私8

「巫女姫様も、どうぞこちらにお座りになってください!」

「あ、はい…失礼します。」


興奮がおさまらない様子のミレフレルさんが、ライザ様向かいの、3人ぐらいは余裕で座れそうなソファを勧めてくれる。

…女神様を差し置いて、こんな大きなソファに座って良いのかな…まぁ、でも座らないと話も進まないよね…。

ミレフレルさんが、めちゃくちゃ見てるし…。



「絵梨衣ちゃん、さっき来たばっかりなんだっけ?」

「そうです。レイのところから我が家に戻れたと思った、そのすぐ後に連れてこられました…。」

「あぁ、それで中がドレスのままなのね。ローブすっごく重いでしょ?脱いじゃったら?」


確かに、部屋の中は暖かいので、ローブだと少し暑いくらいだった。

ローブを脱いで、かなり重たいそれを、軽く畳んで横に置いた。

そこにすかさず、ミレフレルさんがローブを回収していって、入ってきた扉近くのクローゼットにかけた。

…早い…っていうか、ずっとキラキラした瞳で見られてる…。


「ストリアの話は、ルーやミエナちゃんから聞いた?」

「ほんの少しだけ…。大変な状況なんだってことは聞きました。」

「そっか。じゃあ、城の中を散策始めたばっかりってとこだったかしら?」

「はい。」

「ルーは結構、女の子に慣れてるタイプだから、ガツガツ来たでしょ?大丈夫だった?」


ライザ様は、相変わらずニコニコして話している。

……これは、たぶんお見通しのやつだ…。


「大丈夫でした。()()のおかげで…。」


胸元のペンダントを、優しく握りしめる。

これがなかったら、無理矢理なにかをされることはないだろうとは思うけど、なにかはされてた気がする。


「レオナルドも、心配性よね~。レイナードが何かした時に、義弟もぶっ飛ばすつもりだったのかしらね。」

「レイが何かすることは無いと思ってたんじゃないでしょうか。」

「まぁ確かにね~。あ、そういえばミール?」

「はい、蜜酒でしたら今用意をしておりますが、ライザ様。」

「あなた、行かなくていいの?農園。障壁綻んで、急ぎで呼ばれてたんじゃなかった?」

「あ………………………………」

「居住地の綻びに手一杯で、人が足りないから、私の相手してる場合じゃないんです!って言ってなかった?さっき。」

「や………………………………」

「農園、魔物入っちゃうんじゃない?」

「はっ!!!!!!!やべぇ!かぁちゃん達に怒られる!!巫女姫様!申し訳ございません!失礼致します!ライザ様、飲み過ぎないでくださいねーっ!!!」


ミレフレルさんは、叫びながら部屋から出ていった…。

…なんか、途中で素が出てた気がするけど…。


「ミールは魔力は強いんだけど、あの突っ走って他のこと抜けちゃうところが、まだ若いな~って感じだわ~。」

「少ししかお会いしてませんけど、何となくわかります。」

「たぶん、絵梨衣ちゃんと同じぐらいだったんじゃないかなー。魔術学校で成績優秀で、仕事も真面目だって、ルーが側近にしたのよ、確か。」

「じゃあ、ミエナさんとも同じぐらいの年なんだ…。」


そんな話をしていると、部屋の奥の扉から、女性ふたりとミエナさんが戻ってきた。

ミエナさんは、シルバートレーにティーセットやお菓子のようなものを持っていた。

ひとりの女性は、やはりトレーに可愛い小さなグラスと、細長い透明の瓶をのせている。

たぶん、あれが蜜酒なんだろうな。

ティーセットは私の目の前に、蜜酒のセットはライザ様の目の前にトレーごと置かれた。

トレーを持っていなかった女性は、私の側に来て跪いた。


「お待たせして申し訳ございません。緊急の連絡が参りましたので、私共は失礼致します。ミエナは巫女姫様のお世話を任されておりますので、こちらにおります。何なりとお申し付けください。」

「わかりました。ありがとうございます…。」


緊急とは、さっきのミレフレルさんが焦っていた、農園のことなのだろうか?

もうひとりのトレーを持っていた女性は、お茶のセットを置いたあと、私の後ろに控えていたミエナさんの側に来ていた。


「ミエナ、合図があった時には、すぐに巫女姫様を塔の部屋へお連れしてね。ライザ様は心配いらないから。ご自分の身はご自身でお守りになられるから。」

「は…はいっ!わかりました!」


ミエナさんは、緊急した面持ちで返事をする。

これは、本当に何か緊急事態が起きているのかも…。


「では、失礼致します。」


ふたりは扉の横のクローゼットから、白地に赤の刺繍のローブを取り出し、それぞれ手に持ったまま、小走りで部屋から出ていってしまった。


「何か…あったの?」


ミエナさんを振り返って聞いてみる。

ミエナさんは、相変わらず緊張しているようだった。


「……農園の綻びがあって、そこは運良く魔物に見つからなくて、何とか農園の人達で修復できたそうなんですけど、農園で働く人達の居住地で、別の綻びが見つかったらしくて、そこから魔物が入ってしまったみたいで…。」

「えっ!?魔物!?」

「あの!この階まで魔物が入ってくるようなことは無いと思うんです!ルシェル様の力も届きやすい場所だし、農園にも勿論、力の強い魔術師がたくさんいるので…。なので、巫女姫様は、ここにいらっしゃれば、大丈夫なんです…。」

「ミエナさん…?」

「ミエナちゃん、絵梨衣ちゃんの横に座ったら?いいわよね?絵梨衣ちゃん。」

「勿論!ミエナさん、座って座って!」


ミエナさんは、ライザ様の優しい声にも、未だに緊張した面持ちのまま、遠慮がちに私から少し離れた横に座った。


「あの…すいません…。巫女姫様や女神様と同じお席につかせて頂くなんて…。」

「ライザ様は、屋台の焼き鳥食べて皆とおしゃべりするような、楽しい方だし、私はただの学生だから、気にしないで。」

「そうそう♪不安なことがあるなら、気にしないで話しちゃいなさいな。」


ライザ様は、そう言い終えると、目の前の瓶から蜂蜜色の液体をグラスに注いで、口にする。

不安なこと…?確かに、先ほどまでのミエナさんとは違う様子だけど…。


「あの……今回綻びがあった農園は…、この応接室の下の下の階層なんですけど…。そこは、農園と、そこで働く人達が住む居住地になってるんです…。その居住地に……父と母が住んでいて……」

「えっ!?さっき、その居住地に綻びが見つかったって言ってなかった?」

「そうなんです…!まさか、あそこに綻びが見つかるなんて…。今までなら、綻びは、居住地に住む人で充分修復できたんですけど、たぶん農園の維持だけで精一杯のはずだから…。ミールが向かってくれたから、大丈夫だと思うけど…。ミールも、ここのところ働きづめだから心配で…。」

「そうだったんだ…。」


3人の間で、しばらく沈黙が続く。

私は、沈黙に耐えられなくなって、ミエナさんが持ってきてくれたお茶をティーポットからカップにいれて、そっとミエナさんに差し出した。


「私がいれたから、正しいお茶の入れ方かどうかわからないけど…。」

「あのっ!ありがとうございます、すいません…巫女姫様…。」

「ミエナさん、私のことは、エリイって呼んでもらえたら、すごく嬉しいかな。」

「そうそう、相手への呼び方は、関係性を変えるからね~。」


そう、少し勇気を出して呼び方を変えたら、心の壁も少し無くなるかもしれないから…。

今のミエナさんには、それが必要な気がした。

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