王様と私6
「ちょっと待って………。家庭がある人も召喚されるの…?」
「候補者は魔力のみで選定される。年齢も状況もそれぞれのようだ。」
そんな………家庭があって、それでこの世界の人と結ばれちゃったの!?
「…キイが暮らしていた国のことは詳しくは知らんが、あまり恵まれた環境では無かったようだな。俺が会った頃には、夫はずいぶん昔に亡くなり、自分も終わりを静かに迎えたいと…言っていた……。」
「召喚されたのは、キイさんが若い頃なのかな?それとも、30代とかそれ以上…とか?」
「……さぁな。とにかく、キイはこの世界で不老不死で暮らすより、エリイの世界で『命を終えること』を選んだということだ。他に聞きたいことはあるか?俺の可愛い巫女姫は。」
ニヤッとわらって、ルシェルが私を見つめる。
「別にあなたのものじゃないんで、私。」
「キイのように、家庭があっても心を通わせることもある。エリイがサフィーリア家の者達に惹かれていたとしても、心変わりも充分あり得るさ。聞きたいことがなければ、俺は仕事に戻る。」
「じゃあ…ひとつ聞きたいんだけど…。」
「何だ?」
「………実は婚約者がいます……とか、無いよね?」
レイの前例がある。
…ルシェルを好きにならなかったとしても、婚約者がいて、問題が起きるのは嫌だし…。
「今は婚約者はいない。しかし、何もせずに、ここまで生きてきたわけではないがな。未来の夫の過去が気になるのか?」
「未来の夫とか、勝手に決めないでくれる?気にならないから、大丈夫だし。ミエナさんに、他の場所を見せてもらってきまーす。」
なんか誤魔化された感じもするけど、これ以上ルシェルの手の上で転がされるのも不服なので、今度はそんなに甘くなかったお茶を飲み干して立ち上がる。
「ミエナさん、お願いします!」
「はい!お任せください!」
気合いを入れて言った私の言葉に、ミエナさんも同じように力強く返してくれた。
ミエナさんが扉を開けてくれたので、私はそこを出る前に、ルシェルを振り返ると、彼はこちらを真剣な眼差して見つめていた。
「よく見てきてくれ、ストリアの現状を。」
ミエナさんが一礼して、扉を閉めた。
…ストリアの現状…?
「ルシェル様があんなに楽しそうにされている所、久しぶりに見ました。巫女姫様、ありがとうございます。」
ミエナさんが、嬉しそうに私に頭を下げる。
「楽しそうって、完全にからかわれてただけだと思うけど…。」
「…元々気さくな方なんです、ルシェル様…。でも、先代の巫女姫様が亡くなられて、ストリアが大変な状況になってからは、常に私達国民の為に、忙しくされていて…。」
「…妖精の力が集まらないって言ってたけど、そんなに妖精がいないの…?」
「……そうですね…。今はまだキャパシティが大きい者は、蓄えていた魔力でなんとかなってはいますが…。それもいつまで続くかは…わかりません。」
「……魔力が足りないと、この世界の人は普通の生活も大変なんだよね、確か…。」
「……ルシェル様がおっしゃっておられたように、ストリアを見て頂くのが一番良いかと思います。巫女姫様がいらっしゃったとなれば、皆絶対喜びます!色んな意味で!」
…色んな意味とは…?
ミエナさんの翳っていた表情が明るくなったので、最後の台詞のことは一応スルーしておいた。
「じゃあ、とりあえずここから近いところを見て回ってもいいかな?」
「わかりました!まず、謁見室をご覧になりますか?ルシェル様はいませんけど。」
「謁見室とか入ったことないから、見てみたい!」
そうして、ミエナさんとのストリア探検を始めた。
謁見室は、特に豪華な調度品等もなく、ただ二つの焦げ茶色の木に彫刻が施された、重厚で大きい椅子があった。
勿論、ルシェルも誰もいないので、ただガラーンとしていて、ローブを着ていても肌寒いぐらいだった。
その他に、夜会等をするらしいホールも見たけれど、謁見室とは違って豪華だったが誰もいなかった。
ホールを出たあと、下の階へ向かう為に階段に向かう。
階段の前には頑丈な扉があるようだが、そこは今は開かれていて、階段は床と左右の壁はあるものの、上は透明の壁に覆われて外が見えていた。
壁があるってありがたいと思った…安心して降りられたし、今回は階段も広めだし、ミエナさんと話す余裕もあった。
「謁見室もホールも、誰もいないんだね。警備の人とか、騎士の人?とかいるのかと思ってた…。さすがに、階段の扉のとこには、2人いたけど、それがルシェルとミエナさん以外で初めて会った人達だったし…。」
「ストリアは魔術師の国なので騎士はいませんが、衛兵はほとんど皆、日常生活の手助けや、魔物の警戒にまわっています。」
「魔物!?」
「ストリアがある岩山は、魔物が多く住む土地でもあるんです。皆の魔力が減っているので、魔術で管理する障壁から魔物が入ることも増えてきていて…。ここは城の主要な場所が集まっているので、障壁もルシェル様の力もあり強固なんですが、下の居住地については、広さがあるので、どうしても綻びが出てしまうんです…。なので、衛兵やルシェル様直属の方々も、主に居住地をまわられています。」
「大変な…状況なんですね…。」
「そうですね…。ストリアは建国から、全てを魔力に頼って生きてきた国ですから…。」
ミエナさんがそういい終えた時、階段の終わりが近づいていた。
目の前に、閉じられた扉が見えてきた。
「ここからは、主にお客様をお迎えする場所になります。」