王様と私5
「遅くなってしまって、申し訳ありません。」
「すごく最高のタイミングでした!ありがとう!ミエナさん!」
私のソファにいたルシェルは、既に執務机に戻っていた。
…逃げ足が早い…!
「俺について、エリイが知りたいと思うことは、何でも教えよう。まず、子どもの姿なのは、先程も説明したが、魔力と生命力を維持する為だ。成長と共に、体内に蓄える魔力は増える。俺は特に魔力のキャパシティが大きく、足りない分を妖精だけでなく、周りの人間からも吸収する。そうなると、嫌でも足りないストリア中の魔力を、俺が全て吸収してしまうことになるからな。」
ミエナさんが、まず私にお茶を淹れ、そのあと、ルシェルの執務机にもお茶を用意する。
「吸収…?こっちの世界じゃ、身体にも妖精が宿るんでしょ?その力を吸収しちゃうってこと…?」
これまで聞いた話や、読んだ本の情報から考えると、こちらの世界では、人間の身体にも妖精が宿っていて、主に力を蓄えることに特化してるという話だったような…。
「あぁ…。最近のストリアの研究は、人の身体に宿るものは、妖精とは違うものではないかという説で進めているな。俺も、若い頃に、身体に宿る妖精の声を聞いて、魔力の受け取れない原因を研究したことがあるが、妖精の声は表面的に宿るものしか聞こえず、体内の妖精と対話が出来ているのかはわからなかった。今も研究は続けているが…。」
「もしかして、妖精に嫌われると病気になるっていうのは、違うんじゃないかって研究してたのが、ルシェルなの…?」
「…もう130年以上前の話だ。サフィーリア家の召喚者から聞いたのか?あんな異端な研究を読んでいた者がいたのだな。」
そう言うと、少し嬉しそうにルシェルは微笑んだ。
「人に宿る妖精については、ストリアでも研究を続けている。話がそれたが、魔力が充分に戻れば、俺は成人の姿に戻る。」
「150歳のおじいちゃんに…?」
「プッ!」
おじいちゃん発言に、執務机の側に控えていたミエナさんが、口を押さえながら吹き出した。
ルシェルは、大きなため息をついた。
「はぁ…………。老人の姿にはならない……。一番魔力のキャパシティが大きい年齢、だいたい全ての成長が落ち着く30歳前後の姿で、見た目の成長が止まる。そこに戻るだけだ。」
「そうなんだ…。」
「老人の姿で愛を囁かれるのがお好みだったか?俺の巫女姫は。」
そう言って、ルシェルがニヤッと笑う。
椅子の背もたれに深く腰掛けて、脚も組み、腕も組んで、その態度は少年には似つかわしくなかったけれど、中身が30前後なら、なるほどな…という雰囲気だった。
「そういうわけじゃないわよ!?でも、150歳なんて、私の世界じゃそこまで生きられる人はほとんどいないから…。」
「魔力の概念が無いのだったな、エリイの世界は。」
「うん…。」
「巫女姫になり、こちらの世界にいれば、その魔力によって巫女姫は不老不死となる。魔力があれば、俺のように魔法で姿のコントロールも可能だ。見た目の年齢を気にする必要など無い。」
そうか…。やっぱりこの世界にいれば、巫女姫は不老不死なんだ。
「聞いてもいい?」
「何だ?」
「不老不死になるなら、どうして前の巫女姫様は亡くなったの…?」
「……先代の巫女姫のキイは、巫女姫になってからの時間のほぼ全てを、エリイの世界で過ごしていたからだ。巫女姫になろうと、あちらの世界では普通の人間だ。魔力の存在がないから、不老不死にはならない。」
「亡くなった巫女姫様は、キイさんって方なのね…。知り合いだったの?先代の巫女姫様と。」
「キイは、全くこの世界に来なかったわけではない。時々、こちらの世界に住む者に会いに来ていた。その際に、話を聞くことができた、それだけだ…。」
ルシェルは、そう言うと、少し遠くを見つめた。
なにかを思い出しているのかもしれない。
「じゃあキイさんは、召喚した人と夫婦になったのに、私達の世界に帰っちゃったんだね…。」
双宝珠なるものに力を与えるかなんかをすれば、あとは自由だとしても、愛し合った相手と離ればなれでの生活とか、悲しすぎる。
「キイは、元々エリイの世界で家庭を持っていたそうだ。夫と…子どもは確か3人いると言っていた。」
「へっ!?」
それって不倫…不倫ーっ!?