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王様と私4

「はぁ……。ミエナ、お茶の用意をしてきてくれ。巫女姫に説明をしよう。いつまでも騒がれては仕事にならないからな。」

「わかりました、ルシェル様。巫女姫様、少し失礼いたしますね。」


目の前の彼は、仕事の手を止め、すべてひとりがけになっている応接セットのソファに座った。

ミエナさんは、お茶の準備をする為に、部屋から出ていってしまった。


「座らないのか?」

「えっ…あぁ、失礼します…。」


少年の姿なのに、威厳を感じさせるのは、王様だからなのか、中身がすごいからなのか…。

私は、ボーッと立ったままだったので、彼の向かいのソファに座る。


「改めて自己紹介をしようか。俺は、ルシェルリール・ストリア。ストリア魔術王国の王だ。ルシェルと呼ぶといい。」

「あ、私は神埼絵梨衣です。エリイって呼ばれることが多いです。」

「俺の巫女姫は、エリイというのか。可愛い名前だな。」


彼はソファにもたれながらそう言うと、突然優しく頬笑み、そして、すぐに先ほどまでの無愛想な表情に戻ってしまった。

急なギャップに、思わず顔が火照ってしまった。


「ルシェル…さん。」

「ルシェルでいい。エリイと俺に身分差など無い。いずれは夫婦になるんだからな。」

「勝手に決めるな!って………その話はとりあえず置いといて、ルシェル…。あなたが150歳って言うのは、本当なの?」

「そうだ。先代の巫女姫が…キイが亡くなって、ストリアには妖精の力が届きづらくなった。さすがに俺でも、扉の魔法を使うには、かなりの魔力を使用する。しかし、俺の魔力のキャパシティを補充するだけの妖精の力が足りない。」


確かに、意識すれば、フレールなら常にたくさんの妖精の声が聞こえていた。

でも、ここに来てからは、その声を聞いていない気がする。


「確かに…ほとんどいない気がする…。」

「巫女姫になれば妖精は見えるが、候補者の段階では、妖精が見えるかどうかは候補者により異なるらしい。エリイは見えるのか?」

「私は見えないけど、声なら聞こえるみたいなの。でも、ここの部屋にも…ほとんど声はしてないかも…。フレールにいた時は、どこに行っても騒がしいぐらいだったから。」

「フレールにいたのか?…なるほど…。貴族2人が召喚に成功したと報告があったうちの片方か…。1人は、軟禁状態らしいと聞いているからな、もう1人がエリイか。」

「軟…禁?えっ!!閉じ込められてるってこと!?なんでそんな酷いこと!」


ルシェルの淡々とした話に驚き、私は思わず立ち上がる。


「まぁ、軟禁は妥当な手段だろう。巫女姫に恐れは感じさせず、『自分しか頼れる人間がいない』と依存させるのが、一番手っ取り早いのではないか?強引に契りを結んでも、真実の愛を交わしたことにはならない。それなら、まず心を強引に結び、次に心を結ぶのが、賢い方法だろう。」

「じゃあ………あなたもそういうつもりだったってこと?」


先程とは違い、静かに怒りが込み上げてくる。

酷い方法を淡々と語る目の前の男は、見た目は少年でも、やはり子どもではなかった。

中身は間違いなく大人だ…。

それでなければ、こんな酷い方法を淡々と語ることができるはずがない。


「俺は理にかなった方法を話しただけだ。俺がそうだと、誰が言った。」

「でも、襲おうとしたじゃない!着いた早々!!!」

「強引に契りを交わそうとするわけがないだろう。少しからかっただけだ。」


またしても、ニコッと笑う目の前の彼。


「嘘つけ!!!笑ってごまかされないからっ!!」

「嫌がられたらやめるつもりが、まさか防護魔術がかけられてるとは思わなかったな。まずは、その防護魔術を解除できるまで、魔力を回復させる必要があるからな。それまでのお楽しみだ。」

「誰も楽しみにしてないし!!!ペンダントには絶対触らせないし!!!」

「よほど大切な人間から貰ったと見えるが、フレールの召喚者か?」


ルシェルの視線が胸元を見つめ、思わずギュッとペンダントを握りしめる。


「違うわよ。あなたには関係無い…。」

「……フレールもう1人の召喚者と言えば、世にも名高いサフィーリア家の者だったはずだ。」

「………サフィーリアの人って、そんな有名なの?」

「大昔から、文武両道で特に軍事関係に強い家だ。自国でなくとも、魔物が出た際は、必ずサフィーリア家の人間が、騎士団を仕切って出陣するからな。今の当主は、特に優秀だと聞く。」


…他国にまで名前が広がるほど有名なんだ…サフィーリアの人達って…。


「長男のことも何か言っていたな、フレールから戻ってきた者が。…確か『姿を見るだけで子どもができそうだった』とかなんとか。」

「…………レオさん………」


すごいこと言われてるよ…レオさん……。

……でも、ちょっとだけわかる気もする…。

ペンダントを握りしめた手を少し緩め、それを見つめると、思わず頬が緩んだ。


「贈り主は長男か。」

「えっ!なんで!?」

「…召喚者ではなかった気がするが、まぁ真実の愛を交わすのは、この世界の者なら誰でも問題ない。」

「わースルーされた…。」

「報告を受けた時間を考えれば、エリイはさほど長くは滞在していなかったはずだな。しかし、他に意中の者がいようが、時間をかければ…俺にも可能性はあるだろう。」

「え…?」


ルシェルは、急に立ち上がると、私のひとりがけソファのひじ掛けに腰かけた。

そして、私の髪を一房手に持ち、それに優しく口づける。

その手をソファの背もたれに置くと、反対の手で私の頬を包み込む。


「ちょっと…!」

「……俺は、触れることも許されないか?」


姿は少年だけれど、切ない眼差しで私を見つめる彼は、何とも言えない艶やかな空気をまとっている。

…ダメだ!大人の姿なら、すぐ拒絶できるのに、姿が姿がだけに、かわいそうな気がして、何か嫌って言いづらい!


「エリイ…」

「あの…ルシェル…?」


頬の手が、胸元でペンダントを握る私の手にそっと移動する。

私の手を、少年の手が上から包み込み、そして離れていく。

その手は、私の太ももに乗せられようとして…。


コンコンッ!


「ルシェル様、お茶をお持ちしました。」

「チッ………」

「…ルシェル?あなた今何かしようと」

「入れ」


ミエナー!!

救世主は、ミエナだった。

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