王様と私3
「本当に…………死ぬかと思った………。」
「慣れちゃうと、いい眺め~ぐらいで普通になるんですけど、初めての方には大変でしたでしょうか?」
「あれは、いい眺めとかそういう話じゃない気がする…。」
どうやら、私がいた部屋は、城の一番端の離れだったらしく、普段は王様しか使わないらしい。
岩山の頂上に作られていて、あの廊下のような通路しか入れるところがないので、出入りするには必ず、空中散歩をしなくちゃいけないそうで…。
障壁があるから落ちないとは言われても、透明だから触らなければわからないし、空中に浮いた通路を歩くとか、もうどこかのタワーのアクリル板の上を歩くとかより、何万倍も怖かった…。
……気絶しないで、廊下の先の大きな建物まで来れた自分を、誉めてあげたい…。
「あの、もしかしてこちらの国は、全体的に今みたいな感じだったりする?」
だとしたら、お散歩楽しくない。心が折れる。
「あそこは特別ですが、作りとしては似たような感じです。岩山の上に城と居住地があるので、建物と建物は、空中回廊で繋がっていたりしますね。さすがに、あそこまで一本道のところはないです。」
「そうなんだ…。」
ホッとしたような、してないような…。
でも、お散歩やめて戻りますってなると、またあの道を戻らなきゃいけないし。ムリムリ。
「こちらの建物には、この最上階にルシェル様の私室や謁見室、会議室、ホール等があります。城のメインの場所ですね。下の階には、応接室や客間、お客様用のダイニング、その下には食堂や居住地があります。」
「ルシェル様っていうのは、ここの国の王様…ってことでいいのよね…?」
「そうです。幼くして先代の王様とお妃様が亡くなられて、後を継がれたんです。」
「大変なんだね、彼も…。」
まだあんな幼さの残る少年なのに、王様として国をまとめるなんて、すごいなと思う。
生まれた直後に母を亡くした私と、比べ物にならないぐらい…。
「ストリアは王族や貴族、平民等、階級はあっても、ただの肩書きなんです。あってないようなものなので、皆、ルシェル様とも気兼ねなく接していますよ。ルシェル様も、話し方はクールなんですけど、責任感の強い優しい方なので。」
廊下を歩きながら、ミエナさんが優しい表情で話している。
きっと、本当に気兼ねのない関係なんだろうなと感じた。
「たぶんいらっしゃると思うので、まずはルシェル様の私室に向かいますね。謁見室にいらっしゃることは、ほぼないので。」
「うん、お願いします。」
あんなことをされて、顔を合わせにくいな…とも思うけど、連れてこられた直後のことは、よし…水に流そう…。
少年で責任のある立場で、よくわからずに先走ったのかもしれないし…。
「ここがルシェル様のお部屋です。ルシェル様、ミエナです。」
先ほど通ってきた空中の廊下から、そんなに遠くない場所に、ルシェルと呼ばれる彼の部屋はあった。
彫刻がほどこされた落ち着いた茶色の重厚な扉を、ミエナさんがノックすると、「入れ」と声がした。
「失礼します。ルシェル様、巫女姫様をお連れしました。」
「あぁ、もう立ち直ったのか。」
私室というより、完全に執務室となっているようだった。
入ってすぐに、応接セットとして、ソファとテーブルは置かれ、その向こうには、書類が山積みの机に、私が候補者の試験を受けた時のような、大きな水晶玉のようなものが置かれている。
私とミエナさんは、その執務机の前まで入っていった。
彼は、執務机に座って書類に何かを書きながら、チラッとこちらに顔を向けてそう言った後、また仕事を続けている。
「立ち直ったって…。とりあえず、さっきのことは無かったことにしとくね。」
「さっきのこと?あぁ、契りをかわそうとしていたことか。気が変わればいつでも言ってくれ。そうすれば、防護魔術も発動しないからな。」
「ちょっ……!あなた、子どもだからって、契りをかわすってことがどういうことか、わかってないのかもしれないけ…」
「誰が子どもだ。」
「あなたのこと!どう見たって子どもじゃない!まだそんな年で、王様にならなきゃいけないのは、大変だと思うけど、それでも」
「誰が、俺が子どもだと言った。」
「えっ?だからあなたが子どもだって言ってるの!」
全くこちらを見ることなく、淡々と進む目の前の少年の回答に、私は大人げないなと思いながら、イラッとしてしまう。
「あの……巫女姫様…?ルシェル様は、子どもの時に王位を継がれましたが、もう子どもではいらっしゃらないですよ…?あ、今は見た目は子どもですけど…。」
私の横に立っているミエナさんが、申し訳なさそうに私に話しかけた。
「あぁ。この姿しか見ていなかったか。今は、生命力や魔力を維持するのに、姿を幼く戻しただけだ。」
「へっ…?」
「ルシェル様は、御年150歳の、立派な大人でいらっしゃいます…。」
「あ、そうなんだ…。」
「さすがに身体の年齢を変えられるほどの魔術は、ルシェル様ぐらいの魔術師でないと無理ですけどね。」
「へー…すごい人なのね………。ん?」
「どうかしましたか?」
「さっき、何て言ったかな…?ミエナ…さん?」
「立派な大人でいらっしゃいますよってことですか?」
いやいやいやいやいや、ありえない、いや、この世界ならありえるのかな?
目の前にいるのは、どうみても10歳前後の子ども。
見た目は子どもで、中身が大人とか、どこかで聞いたような話だけど、ちょっと待て。
「150歳って言っ……てないよね?聞き間違いだよね?」
「俺は150歳だが、それがどうかしたか、巫女姫。」
なんでもありなのか………この世界!!