貴女は私の巫女姫様 3
「っ!!!まぶしっ!」
思わず目を閉じた私が、次に目を開けた時に見たのは、なんだかとにかく、ヨーロッパの宮殿かどこかですか?と言うような調度品が並ぶ、広い部屋だった。
「え、どこ!?いや、うちのお風呂どうなった…?」
いや、お風呂なわけがない。わかってる、わかってはいるけど、頭がついていかない。
映画で見たような、何だかすごい装飾のついたクローゼットとか、天蓋がついてる大きすぎるベッドとか、壁紙なんかキラキラしてる?カーテンすっごい豪華…。
とにかく、今いるここが何なのか、現状を把握しなければと思い、男の手を離し、立ちあがってまわりを見渡す。
ベッドがあるってことは、たぶん寝室みたいなところなのかな?でも、こんな豪華な寝室、うちには勿論無い。ソファやテーブルもあるし、とりあえず凄く広い。
「うっ…………」
そうしていると、下から小さなうめき声が聞こえた。不審者の男の意識が戻ったらしい。
「ここは…………?」
倒れた状態からゆっくりと起き上がり、片足を立ててそっと立ち上がる。
男は片手で目の当たりを押さえながら、大きくため息をこぼした。
「僕の寝室…。あちらから帰ってきたのか…?僕は帰りの扉を開いた覚えはないが、いったいなぜ…………ハッ!!!」
ハッ!て言った。この男、ハッ!ってハッキリ言った。ハッ!て効果音的なものじゃなかったんだなーとか、そんなことを思っている私の顔を、深い碧い瞳を大きく見開いて、どんどん顔色を青くして見つめている。
「あっあっあっあな………あなあなあなあなあな…………」
あな?真っ青の顔をして震えながら、目の前の男は穴を連発しながら、少しずつ後ろに下がっている。
「あなあなあなあなあなた………ささささささささっきの……………!」
どんどん後ろに下がっていくなー。あ、窓にぶつかった。あと、両手で足の付け根の間を必死で押さえてる。
「さっき、あなたを倒した女ですけど、何か?不審者さん。」
目は決して男から離さず、ニッコリと笑ってみせる。敵からは絶対目を離さないと、危機迫った状況でも、余裕の笑みを見せてやれと、祖母から何度も言われてきたもので。
「いいいや………先ほどは………こちらも突然失礼した………。まさかレディにこんなところを蹴りあげられるとは…………おもわなかった………もので………」
少し気を持ち直したかな?と思った男だが、先ほどの私の技を思い出したようで、少し涙目になっている。私がやったことながら、ちょっと気の毒かも。
「とととにかく、私の部屋に戻ってきたようだ。いつまでも、レディを立たせたままにするわけには行かない。侍女にお茶を用意させるので、ソファに座って待っていてくれ。」
涙目ながらも、しっかり気を持ち直したらしい。そして「風の妖精よ、乾かしてくれ。」と一言呟いた。
すると、先ほどのシャワーで濡れていた男の髪や服が、一瞬で乾いた様子を見せる。
「え…?一瞬で乾いた?」
驚きをそのまま声に出すと、男は「あぁ、そうか、あちらの世界では魔法は使っていないんだったか。しかし、魔力があるのに魔法を使わないと言うのは、せっかくの魔力が…」とか、またひとりでぶつぶつ言いはじめている。
…ひとりで色々つぶやくの、癖なのかな?この男…
「おっと失礼。本来なら、初対面の、しかも婚約者以外のレディを寝室に招き入れるなど、あってはならないことだが、申し訳ないが特別な事態だ。貴女がこちらの世界に来られたことについては、思い当たるところがある。長くなるだろうから、お茶と軽食でもとりながら、説明しよう。」
男は、私と男の間ぐらいにある応接セットのようになっている場所の、二人がけのソファを手でさし、優しく笑って「どうぞ」と言っている。ただし、窓からは離れていない。すごい距離感。
しかし、不審者の部屋と言われ、しかも寝室とか言われ、私の警戒心はまだまだフル状態。さすがに、じゃあ失礼して…と座るのもと迷っていると、
「突然知らない場所に来てしまえば、とまどうのも仕方ないことだ。気が向いたら座ってくれれば良い。僕は侍女を呼びに行くので、部屋から出なければ自由にしていてくれ。ここは君のいる地球とは違う世界だ。危険な世界ではないが、勝手に外に出ると、魔法を使えない人間の命は、保障できないのでね。」
20歳前後かなと思われる、金髪碧眼のすらっとした、とんでもない美形の不審者は、何故か私の後ろにあるであろう扉へ向かうのに、窓から壁際を通って、私を避けるように扉から出ていった。