王様と私1
新章です♪
「あぁ…。この姿で何か問題があるのか?」
「あるある!ありまくりでしょ!?」
10歳前後だろうか、まだ幼さい顔立ちを見ると、明らかに若作りな青年ではなかった。
………いや、さっきまでの姿だと、顔はハッキリ見てないけど、成人男性だと思ったんだけど……。
「契りを交わすのに、姿は問題ないだろう。さぁ、世界を救うためだ、巫女姫。」
少年の姿に似つかわしくない話し方で、ベッドに倒された私の上にまたがっている彼は、私の頭の両脇に手をつく。
………まてまてまて、これは大問題だから。絶対ダメだから。
そもそも、いきなり会った相手と契りを交わそうとか言ってる時点で、子どもも大人も関係なくダメだから!
「いやいやいや、問題あるある!」
「問題ない…」
彼が右手でそっと私の髪を掬った後、指が私の唇をそっと撫でる。
なんだ!このこなれた感はなんだ!
「ねぇ、あの僕?ちょっと落ち着いて話でもしよっか?ね?」
「契り終われば、ゆっくりと話してやる。話す力が残っていればな…。」
「はぁ!?いやいやいやいや、ちょっと待って!ねぇ、僕!?」
彼の手が口元から、鎖骨にうつり、そこからゆっくりと私のドレスの胸元へうつろうとする。
そして、彼の顔が少しずつ近づいて来た時……
「ちょっ………もう!待てって言ってるでしょーがーっ!!!!!」
私がそう叫んだ瞬間、青白い光が広がり、上にいた少年がベッドの足元の外へ吹っ飛んだ。
「えっ!?な………に………?」
「…っ!防護魔術…か。本人のものではないな…。」
私の身体全体から溢れだしていた青白い光が、胸元のペンダントに収束していく。
吹っ飛ばされた彼は、床に敷かれた絨毯の上に座りこんではいるが、特にどこかぶつけたような様子はなかった。
「そのペンダントに、防護魔術を仕込んでいたのか…。俺の前の召喚者の仕業か…?俺に気付かれない魔術を仕込むとは、中々の魔術師だな。」
「え、ペンダント……?」
今はもう光のおさまった、レオさんから貰ったペンダントを、思わず握りしめる。
「興がそがれたな…。まぁいい。姫もすぐには扉を通れはしないだろう。この城の中であれば、好きに過ごしてくれて構わない。」
「興って…え…城…?」
「過ごしていれば、気が変わることもあるだろう。姫が俺を拒むようであれば、防護魔術を解除せねば、触れることもできん。」
彼はそう言って立ち上がると、何かの魔法なのか、ベッドに置いていた杖を瞬時に自分の元に移動させた。
「あなた…いったい…なんなの…?」
「あぁ、自己紹介もまだだったか。俺はストリア魔術王国の国王、ルシェルリール・ストリアだ。あぁ、身の回りに不便だろうから、後で侍女をよこす。」
彼はそう言って、振り向きもせず部屋から出ていった。
「待って……。今、国王って言ったよね?あんな子どもなのに?」
起きあがり、思わず心の声が出てしまった…。
家に帰れたと思ったら、またこっちの世界に連れてこられて、しかも、少年に押し倒されて、操を奪われそうなるとか…。
「頭がおかしくなりそう………!」
あまりの変化の忙しさに、思わずベッドの上に突っ伏してしまう。
2日間を異世界で過ごしたかと思ったら、家ではほとんど時間が経ってないし、と思ったら、またわけのわからないところに連れてこられるし…!
「もー!巫女姫候補者って、なんなのー!ライザ様のバカーッ!」
思わず、この制度を作った女神様に文句が出てしまう。
そして、突っ伏しながらも、胸元のペンダントをギュッと握りしめる。
私を助けてくれたのは、レオさんなのかな…。
そう思うと、嬉しくて顔が火照ってくるのがわかった。
……会いたい………レオさんに…。
「失礼致します。あの…王様より巫女姫様のお世話を仰せつかりました。」
ノックのあとに、扉の外から女性の声が聞こえた。
どうぞ、と答えると、私の髪の色に良く似た、ショートカットの女性が入ってきた。年頃も、私と同じぐらいのように見える。
とても緊張しているようで、両手を胸の前でがっしりと組み合わせていて、少し震えているようにも見える。
「あっ…わたくし、ミエナと申します。あの、城には侍女のような者が今はおりませんので、わっわたくしが…。」
「あの、ミエナ…さん?そんなに緊張することはないと思うんですけど…?」
「すいません!普段は、研究所の助手なので…。」
「そうなんですね。あの、私も巫女姫候補者とか呼ばれたりしてますけど、普通の学生なので、気にしないで喋ってもらえたら嬉しいです。」
「えっ!学生さんなんですか!?私もまだ、魔術学校の学生なんです。卒業前の1年間は、王立魔術研究所に研修に入ることになっていて、それで…。」
学生という言葉に共感してくれたようで、ミエナさんは少し緊張が解れたようだった。
それにしても…王様がいて…侍女はいないっていうのも、不思議な話なのかも。
レイとレオさんの家でさえ、フィリアをはじめとした侍女さん達がいらっしゃったし、本当にお城なら、侍女や使用人のような人がいそうな気がするし…。
「もしかして、こちらは皆さん、『自分のことは自分でする』って感じだったり…します?」
「あ、はい!そうなんです!先代の国王様と王妃様がいらっしゃるまでは、国王付きの侍女はいたんですけど、今はルシェル様しか王族がいらっしゃらないので…。貴族も平民も関係なく、ストリアの国民は、どこでも生きていける様に、何でも自分で行えるように育てられるんです。あ、勿論、ルシェル王もです。」
緊張がかなりとけたようで、ミエナさんは色々と説明をしてくれる。
あの少年は、ルシェルと呼ばれているらしいこともわかった。
「あの、とりあえず、座って色々話を聞けると嬉しいんだけど、良いかな…?」
私はベッドから降り、部屋に用意された丸い猫足のテーブルと、そこに4脚用意された椅子のひとつの側に立って、ミエナさんに向かって頬笑む。
…我ながら、突然のことに対応できる肝っ玉が座ったなと驚いてるけど…。
「あっ!はい!勿論です!あの、お茶をご用意しますね!」
ミエナさんは、満面の笑みで答えてくれた。