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「取り急ぎ、休みを貰っている騎士団に連絡が必要でね。お待たせてしまって、申し訳ない。では、僕の部屋に行こうか。」
レイは私の部屋の扉を開けたまま、入らず外で待っている。
包装したプレゼントは、フィリアさんが「お預かりしますね。」と言って、受け取ってくれた。
「エリィさんの荷物は、フィリアに用意してもらうから大丈夫だ。さぁ、どうぞ。」
私は特に何も持たずに、扉を出てレイの側に歩み寄る。
レイは、そっと私の左手を下から掬って、エスコートをしてくれる。
「フィリアと楽しそうにしていたみたいだね。外まで楽しそうな声が聞こえていたよ。」
レイが微笑みながら、レイの部屋の扉を開いた。
先に部屋に入るよう促されて、エスコートされたまま部屋に入る。
「ちょっと、色々とね。」
「女同士の秘密なのかな?」
「まぁ、そんなとこかな。」
いつかは絶対にレイにバレちゃう話だけど、わざわざ私から言うのもおかしいかなと思い、さらっとごまかしてみた。
「…このまま、もう寝室まで行っても構わないかい?」
レイと私は、寝室へと続く扉の前で立ち止まる。
フィリアさんは、手に何個か荷物を持って、少し後ろに立って控えている。
「うん、大丈夫…。」
「わかった。」
名残惜しい気持ちもあるけれど、この1泊2日の不在で、どれぐらいの時間が経っているのかもわからないし、早く帰りたい気持ちが勝っている。
本に書かれていたような時間の流れであれば、きっと10分も経っていないはずだけど、実際どうなのかわからない。
レイが、私の手を離し、寝室への扉を開けて先に入った。
私もレイの後ろに続くと、昨日の朝に来た寝室のベッドと簡易の応接セットの間の絨毯に、青白く光る魔法陣の様なものが見える。
魔法陣は、人ひとりが立つのにちょうどぐらいの円形だった。
「昨日は、あんなのなかった気がする。」
「あぁ、使おうとしなければ、勝手に起動はしないからね。あとは、エリィさんの魔力が溜まったことで、見えるようになったこともあるかもしれないね。」
「あそこに入れば、元の世界へ戻ることができる。」
「入るだけでいいの?」
「帰りたいと願えば、魔力を使って魂が引かれるよ。入るか、魔法陣に触れるだけでいい。」
「エリィ様。こちらに、エリィ様のお荷物を全てまとめております。お持ち下さい。」
フィリアさんが、手持ちがついた、少し大きめのかごを私に渡してくれた。
その中には、白い布で包まれたものと、レイから貰ったお土産の紙袋に、レオさんからのプレゼントの包装も全ておさめられていた。
たぶん、布で包まれたものは、私が来ていたパジャマ兼家着だと思う。
「ありがとうございます、フィリアさん。」
「また、一緒にお喋りできたら嬉しいわ、エリィちゃん。」
「はい…。」
少し淋しげな瞳のフィリアさんの言葉に、また来ます、といえない自分がいる。
また会いたいけれど、わからないから…。
元の世界へ帰れれば、全部夢のような話だったんだって、思うかもしれないから。
「エリィさん。同意を得ずに、こちらの世界に来てもらって、僕の都合に巻き込んでしまって、本当に申し訳なかった。」
「出会いは不審者でも、一途な優しい人ってわかったから…。気にしないで、レイ。」
「………もし………エリィさんさえ良ければ、たまにこの世界に来てくれると嬉しく思うよ。」
悲しみなのか、諦めなのか、色んな感情が混ざった表情で、レイは言った。
正直、今は「また来るね」とは約束できない…。
レイは、異例の候補者になってしまった私のことで、恐らくこれから、たくさんの関係者から、注目を浴びることになるだろうな…。
それはきっと、レイのお母様も望んでいることだと思うから…。
「レイ、あんまり無理しないでね。エリザベスさんとお幸せに。」
「ありがとう、エリィさん。」
「プレゼントは、必ずわたくしから渡しますので、ご心配なく。」
「レオさんに、よろしくお伝え下さい…。」
フィリアさんは、優しく微笑んで、こくっと頷いてくれた。
レイは、まだ複雑な表情をしたまま、私を見ている。
「戻るかい…?」
「うん…」
「僕は…今回は見送りに行けないけれど、問題なくエリィさんのお風呂場には着くと思うから。」
「レイ、ありがとう。」
「こちらこそ、ありがとうエリィさん。」
「またね、エリィちゃん…。」
「また………いつか……」
私はかごを両手で胸に抱えて、少しずつ魔法陣に近づく。
『帰りはこちら~♪』
『エリィ、きっとまた来るよね~♪』
『気をつけて帰ってねー!』
周りで、姿は見えないけれど、妖精さんたちの楽しそうな声が聞こえる。
「よし………。二人とも、本当にありがとうございました。」
魔法陣の一歩手前で立ち止まり、後ろにいるレイとフィリアさんに、もう一度、頭を下げてお礼を言う。
「それじゃあ、さようなら。レイ、フィリアさん。」
「僕の大事な巫女姫様…また会える日があることを…」
「夫婦鳥の片割れは、明日、ちゃんとレオに渡すからね!」
「ありがとうございます!」
最後のお礼を告げて、私は魔法陣の中に足を踏み入れた。
と同時に、目の前に見えたのは、お風呂場のドアだった。
「へっ…………あっ……帰ってきた………?」
お風呂場の床に座り込んで、思わず床を手で撫でる。
床は濡れていて、水色のドレスも水で濡れてしまった。
かごは知ってしっかり抱えていたので、無事で良かった…!
それにしても、こんなに床が濡れてるってことは、パパ戻ってきてる!?
時間の進み具合がわからないので、急いでリビングに向かった。
日本の家の中では、ドレスでは異常に動きにくかった。
「今、何時………?」
ダイニングテーブルにかごを置いて、急いでテレビをつける。
日付はレイが現れた日で、時間は、もうすぐ朝の6時になろうかというところだった。天気予報をやっていて、週間予報を見ても、間違いなく「昨日のままの日」だっ。
「………全然時間が経ってない……。」
たぶん、10分も経ってないと思う。
あちらの世界で、2日間過ごしたとは思えない。
「本に書いてたことは、本当だったんだ…。」
急に全身から力が抜けて、思わずリビングのラグに座り込んでしまう。
夢だったのかも…いや違う…本当にあったことだ…。
思わずペンダントを握りしめた、その時だった。




