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いきなり異世界と繋がっても、すぐには結婚できません!  作者: 七瀬夜香
候補者は誰のもの?
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「早く帰りたいとは思うけれど、少し準備があるから、部屋で待っていてくれるかい?」


玄関を入ると、レイは雑貨屋の紙袋から小さな箱を取り出すと、紙袋をフィリアさんに渡して、スチュアートさんと応接室に行ってしまった。

そして、私はフィリアさんと一緒に、自分の部屋へと戻った。

部屋に入ると、フィリアさんが紙袋を書斎机にそっと置いて、お茶の準備をしてくれた。


応接セットのソファに座って、フィリアさんのいれてくれたハーブティーを飲むと、何だか家に帰ってきたような気持ちになって、ホッとした。



「エリィ様、無事に候補者になられて、安心致しました。」

「はい…。ちょっとトラブルはあったんですけど、合格出来て良かったです。」

「あら、トラブルが?大丈夫でしたか?」

「私は特に何も問題なかったんですけど…。レイが、これから大変かも…?」

「あら、エリィちゃんが無事なら、レイはどうでもいいわよ。」


急に素のフィリアさんに戻ったので、ちょっとお茶を吹き出しそうになったのを、なんとかこらえた。


「でも、エリィちゃんが帰っちゃうのは、少し淋しいかな…。勝手に、妹が出来たような気持ちでいたから…。男ばっかりでむさ苦しいしね、ここ。」

「フィリアさん…本音がだだ漏れてます…。でも、私もフィリアさんに会えないのは淋しいです。」

「ありがとう、エリィちゃん。でも、一番会いたいのは、レオよねー…。明後日までは、宿舎で待機だから帰ってこられないのよね。」

「あの…もしよかったら、フィリアさんも座って下さい。一緒にお茶を飲めたら…と思ったんですけど、立場的に、ダメ…ですか?」



フィリアさんは、応接セットのテーブルの横にずっと立っているので、私としては座ってもらって一緒におしゃべりしたいけれど…。

侍女長さんって立場を考えると、よくわからないけど、ダメなのかも…。


「本当は、お客様と一緒に座ってお茶なんて、絶対ダメなんだけどね。こっそりお茶しちゃおうかな♪」

「内緒ですね♪」

「スチュアートにバレたら、大目玉だから。ちょっと待っててね。」


フィリアさんは、自分のティーセットをテーブルに置いてから、書斎机に置いた雑貨屋さんの紙袋を持ってきてくれた。

私にそれを渡した後、向かいの椅子に座った。


「レイからエリィちゃんへのお土産?」

「はい、ちょっと色々あって、それのお礼だって。」


フィリアさんは、そう言うと、私のお茶のおかわりと、自分の分のお茶を注ぐ。

私は、紙袋から、小さな箱を2つ取り出して、テーブルに置いた。

箱を開けると、それぞれ、夫婦鳥と獅子が、白い布に包まれて入っていた。


「あら、香木の人形ね。私も小さい頃、レオのお母様に頂いて、レオとおままごとして遊んだわ。今も部屋に飾ってあるけれど。こっちは、夫婦鳥なのね。」

「はじめにかわいいなと思ったのが青い鳥だったんですけど…。レイから、2羽でひとつだって聞きました。」

「こっちは獅子ね。…あぁ、なるほどぉ~。」


待って!フィリアさん!その満面の笑みは何ですか!?

台詞と笑顔があんまり合ってないです!


「獅子の妖精は、強く気高いことで有名なの。本物に出会うことは、そんなに無いけどね。でも、きっとエリィちゃんのことを守ってくれると思うわ。」

「そうなんだ…。お守りみたいに、持ち歩こうかな。」

「おうちに飾るのも良いけど、妖精に好まれるから、持ち歩いてる人も多いわよ。子どものおもちゃにもなるし。」

「学校に行くときに、バッグにいれてみようかな。いい香りもするし。」

「………エリィちゃん。もし良かったら、ひとつ提案があるんだけど…。」


フィリアさんは、フフフ…と手を口に当てて笑っている。

何か…たくらんでる…?


「夫婦鳥なんだけど、ひとつはエリィちゃんの手元に残して、もうひとつを、レオナルドにプレゼントしない?」

「へっ!?」

「ペンダントのお礼にって渡せば、おかしくはないでしょう?それに、香木の人形もお土産や、子どもへのプレゼントの定番だから、気軽に贈れるしね。」

「レオさんに…プレゼント…」


レオさんのことを思い出すと、帰りの馬車で見た夢がフラッシュバックして、一気に顔が爆発した。

それを見てフィリアさんが、またフフッと可愛く笑った。


「もちろん、エリィちゃんが夫婦鳥を離れ離れにしたくないようなら、無理にすすめたりしないから。」

「あの…………もし渡して頂けるようなら………渡したいデス…。」

「かわいく包装して、渡しましょう!あとはカードもね♪」

「えっでも、私、この世界の文字は書けないから、カードは…。」

「読めなくても、妖精の手助けがあれば、伝わるんじゃないかしら。エリィちゃんもそうやって本を読んだでしょ?レオも妖精には好かれるタイプだから、きっと大丈夫よ。」



フィリアさんは「少し待っててね♪」と言って、部屋を出ていった。

…プレゼント…レイに買ってもらったものなのに、あげてしまってもいいのかな…。少し罪悪感がわいてきてしまう。

でも、何か私も、ペンダントのように、レオさんの心に残りたいと…思ってしまう。


「別宅にあるものを、いくつか持ってきたんだけど、エリィちゃんの気に入るものがあるかしら…。」


ノックをして入ってきたフィリアさんは、色んな包装紙や袋、リボンやカードをかごに入れて持ってきてくれた。


「レイが来るまでに、準備してしまいましょう♪」

「ありがとうございます、フィリアさん。」

「かわいくラッピングしましょうね♪レオ、絶対驚くから。」


二人で顔を見合わせて、クスクスと笑い合う。

私は…これまで女の子の友達と、こんな風に過ごした経験がなかったから。

何となく…くすぐったい気持ちになっていた。



あまり悩める時間も無さそうなので、薄水色の小さな布袋と、白いリボンに、ラベンダーのようなハーブの飾りを選んだ。

カードには、


―ペンダントありがとうございました。とても嬉しかったです。

毎日着けて、大切にします。

ペンダントのお返しに、私が持っているものと、色違いの香木の鳥を贈ります。

もし良かったら、お部屋に置いてください。

絵梨衣―


と書いた。

そのカードと、夫婦鳥の赤い柄の鳥を木箱に入れて、選んだ袋とリボンとハーブでラッピングをした。


「できた…!」


コンコンッ!

そう声をあげて、フィリアさんと小さくハイタッチしていると、ノックの音がした。


「僕だ。入ってもいいかい?」


レイの声だった。

そう、ついに元の世界へ戻れる時が来たんだ…。

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