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雑貨屋さんには、他にも動物や鳥のモチーフのものがたくさん置かれていた。
そういうモチーフを扱っているお店なのかもしれない。
「ありがとう、レイ。」
「エリィさんの世界では、妖精は遊びに来ないけれど、飾ってあげてくれたら、いつか妖精が宿るかもしれないね。」
「そうだね、宿ったら嬉しいなぁ。あ、そういえば、リボンはエリザベスさんに?」
「あぁ、もちろん!エリザベスの髪に似合う、素敵なリボンだなと、店に入った時から思ってたんだ!赤に白銀の鳥の刺繍なんて、エリザベスの銀色の髪と揃って、美しく飛ぶに違いない!本当は一からデザインを考え、既製品でなく唯一のものを贈りたいが、エリザベスに似合うなら、それは運命だと思うからね!」
「うん、きっと似合うから、ほらそろそろ馬車来てるかもしれないから、外に出ようよ。」
「そうだね、時間もちょうど良いかもしれないからね。」
お店の人に挨拶をして、レイが扉を開けてくれると、目の前に馬車が待っていた。
「ごちそうさまでした!ものすごく旨かったです!」
「あんな食べごたえのある焼き鳥初めてでした。満腹です、ありがとうございます!」
御者さん達が、そう言って、馬車の上から頭を下げてくれた。
そうか、ジャンボな焼き鳥は、肉体派の御者さん達には良いのかもしれない。
この馬車駐車場みたいなところで、売ればいいんじゃないかな…ジョーおじさん。
「さぁ、戻ろうか。サフィーリア家に。」
「うん。」
レイにエスコートされて、行きと同じ席へと座る。向かいには、同じくレイが座った。
「あ、そういえば…。レイに聞きたいことがあるんだけど。」
「突然だね、何なりとどうぞ?」
「ここの世界って、病気になったときはどうしてるの?ライザ様が、レイに聞いてみてって言ってて…。」
「あぁ、どんな病も、原因は妖精から忌み嫌われ、妖精から魔力をもらえないから起こることだと思われているよ。」
「病院とか、お医者さんに診てもらったりとかはしないの?」
「病院?お医者さん?というのが分からないんだが、先ほど行った塔の支部に行って、巫女姫に祈ったり、妖精の好む薬草や食べ物なんかを、魔術師が精製したりして、飲み物にしたり、強い香りを肌身離さず持ち歩いたりするね。」
「それは、どんな病でもってこと?」
「そうだね。病の原因は、妖精の力が離れ、妖精から力を貰えなくて魔力が枯渇することだと考えるから、いかに妖精から力を貰える状態にするのかが問題だね。」
病院がない…。医者がいない…。
そうか、私の世界で言うなら、遠い遠い昔か、森深く住む民族達のような感覚なんだ。
魔力と魔術に頼ることが当たり前で、病もそれに頼るんだ、きっと…。
たいていの病気は、時間の経過で回復するし、ハーブなんかを使ってるなら、アロマテラピーや、漢方に似た効果が期待できてるのかもしれない。
けど、もっと大きな病気は、そんなことじゃ治らない。それか、妖精の力がたくさん集まれば、病気を治すことができたりするんだろうか?それとも、治す魔法を使える人がいたりするんだろうか?
「魔法で治したりは…できないの?」
「魔法で治せるのは、怪我だね。人に宿る妖精に何かをお願いするのは難しいから、外に接している妖精達の力を借りて、多少の怪我なら治せる。ただ、命に関わるような傷は、魔力のキャパシティが多いものにしか難しいね。一度にたくさんの魔力を必要とするから。」
「そうなんだ…。ねぇ、もしかして、レオさんのお母様も…病気で…?」
「そうだね…。少しずつ妖精の力が受け取れなくなったと聞いている。元々、ハーブなんかも詳しい方だったみたいだけどね。裏の庭も、病気になる前から育ててらっしゃったそうだし、妖精の好むポプリも手作りで愛用されていたそうだが…。なぜ力を受け取れなくなったのかは、わからないそうだ。」
おそらく、何かの病気だったんじゃないだろうか…。
レイの話を聞く限り、病にかかると、人に宿る妖精は、外部の妖精の力を受け取りにくくなるのではないだろうか。
ここからは私の仮定だけど、人間の中に宿る妖精とは、細胞一つ一つに本当に小さく存在して、外部の妖精の力を受け取っていて、魔力を蓄えるんじゃないか…。
それが、病気で細胞が弱ってしまうと、魔力を受け取れる細胞が弱くなるか少なくなって、魔力が受け取れない状態になるんじゃ…?
病気さえ治せば、魔力を受け取れるようになるんじゃないのかな…。
「エリィさん?どうかしたかい?」
「あ、えっと、病気の原因が、魔力が受け取れないこと以外にあるとかって考えたりはしないの?」
「うーん…。どこかの国の魔術師が、病の原因は体の中にあるのではないかって研究してたとか…かなり昔の文献で読んだ気がするけれどね。結局、妖精の力を借りなければ、体の中の声も聞くことはできないから、諦めたんじゃなかったかな…。」
「そっか…。巫女姫が、私の世界から来てるなら、病院や医者の存在を教えててもおかしくないもんね。」
「その、病院や医者というのは、どんなものなんだい?」
「病院っていうのは、医者っていう病気を調べて治す方法を考える人がいるところでね。病気にかかった人が、病院に行って医者にみてもらって、どうやったら病気が治るかを相談して治療するんだけど…。こんな説明でわかる…?」
「………今の話を聞く限り、こちらの世界での『魔術師に相談する』のと似たような感じかなと思うよ。魔術師は個人で仕事をする人もいれば、魔術の研究をする魔術協会に所属する人、あとは塔の支部に所属する人もいるから、病気の時は、そういう所に相談に行くことが多いから。」
なるほど。個人の開業医、大学病院、都道府県の総合病院みたいなものかな。
「私の世界では、妖精はいないし、魔力や魔術や魔法もないから、病気は病院に行って、医者に診てもらうことがほとんどなのよ。病気には色んな原因があって、それぞれ得意な医者に診てもらって、原因を調べて、こちらでいう薬草を精製したもののような薬を飲んだり、色んな治療をするの。」
「そうだったね。エリィさんの世界には、魔力が存在しないから妖精も存在しないんだったね。だとすれば、病気は妖精から魔力を受け取れないことが原因というのは、当てはまらない…。」
「ライザ様のお話だと、魔力や妖精が存在するかしないかが、こちらの世界と私の世界の違いだってことだったし、人間はライザ様を元にして生み出してるなら、身体の作りは同じじゃないのかな?」
「では、なぜ魔力が受け取れなくなるのか…。この世界では魔力がなければ生活は難しい。ほとんどのことを、魔法や魔術に頼っている。」
「そこがきっと、この世界と私のいる世界との、大きな違いよね…。」
そうだ、きっと。一番の違いは、魔力の存在だ。私達の世界では魔力は存在しないから、病気と魔力は関係してないはず。
それなら、医者がいれば救える人もいるんじゃ…。
でも、医者をこの世界に連れてくることは出来ないよね。
………巫女姫候補者が…巫女姫が医者か医療関係者なら………。
――あぁ、それでライザ様は、レイに聞くように言ったんだ。
…私が、看護師を目指す大学生だから。




