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いきなり異世界と繋がっても、すぐには結婚できません!  作者: 七瀬夜香
候補者は誰のもの?
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「はい、お待たせー!特製チキンサンド&色々サンドにー、特製フルーツティーねー。ライザ様には、麦酒と、いつものつまみだねー!」


大きなトレーを持ったジョーおじさんは、お皿にたっぷりのったサンドイッチと、私とレイに、それぞれアイスティーを置いてくれた。

そして、ライザ様には、完全に大ジョッキサイズのビールにしかみえない飲み物と、一口サイズのタパスのようなものがたくさん乗った皿を置き、空のグラスを持って戻っていく。


アイスティーやサンドイッチ、ライザ様のおつまみを見る限り、元々、おしゃれなカフェで食べられそうなものを出している屋台なのかもしれない。



「とりあえず、乾杯しましょうか!」


大ジョッキを持って、ニコニコ顔のライザ様はウインクをひとつ。


「はいはい、アイスティー持って持って!カンパーイ!」

「あ、か…乾杯…。」


私とレイは、言われるがままにグラスを持って、大ジョッキと乾杯をする…。レイは、笑顔を浮かべてるだけだけど…。


「あの…ライザ様にお聞きしたいことがあるんですが…。」

「どんなことでも、気にせずどうぞ~。」

「ライザ様が、この世界を作られたっていうのは本当なんですか…?」

「ええ、そうよ?この世界っていうか、正確には『双子の世界』ね。あなたの世界とこちらの世界は、同じなのよ。それを創造したのは、あたしで間違いないわ。」


大ジョッキを飲んで、手元のタパスを口にいれて、また大ジョッキを…って、ここは居酒屋だっただろうか……。


「私の住んでいる世界も、ライザ様が作られたってことですか?」

「そういうことね。絵梨衣ちゃんが聞きたいことは、きっと、なぜこの世界の人は、私が世界を創造したことを知ってるかとか、なぜ巫女姫のシステムが必要なのかとか、そんなかんじかしら?」

「…!そうです…女神様だから…心の中も読めたりするんですか?」

「読まなくても、それぐらいは聞かれそうだなってわかるわよ、一応ね。ただ『心の中を読む』わけじゃないわ。世界で生きるすべての人間の『心の中』も私の見守る世界の一部分だから、知ろうと思えば、勝手にわかるってことね。それと似た力が、あなたにもあるでしょ?この世界に来てから。」

「………あ、妖精の力を借りて、本が読めること…ですか?」

「そういうことね。妖精は、神様ではないけれど、私の小さな小さな小さな小さな分身とでも思ってもらえたら、わかりやすいかもね。ねぇ、そのチキンサンド食べてねー!ここはチキンサンドがいっちばん美味しいの!」


ライザ様は、ゲームの説明と解説をするような、軽い話しっぷりなので、なんだか世界のことを話しているようには思えない。

ライザ様にすすめられて、お皿から一つ手に取る。

ひと口食べてみると、フワフワの小さめのコッペパンに、揚げたチキンのが入ったものだった。ソースが甘辛くて、すごく美味しい。

横に座るレイは、私の後にお皿から手に取っていた。


「わっ!おいしい…!」

「ねー?おいしいでしょー?」

「ここはさー、ちょっと小さめのかわいい食べ物が、美味しいのよー!なのに、ジョーが、ちょっとワイルドなもんも出したい!とか言い出してさぁ~。他のいくつかの店で、ジャンボ焼き鳥が流行ってるもんだから、流行りに乗ろうとしちゃって…。」

「ライザ様、あのー…」

「あぁ!ごめんね。世界創造のことを簡単に説明するとね、あなたの世界とここの世界は、同じ次元には無いけど、お互いに力が干渉し合う世界なの。狭間の次元で繋がった、一つの世界なのね。ここまで、OK?」

「なんとなく…」

「僕は、これまでの歴史書や研究書で、そのことは知っています。ライザ様から、直接うかがったこともありますので。」


私も、似たようなことは、レイの家の本で読んだけれど、実際聞いてみると、信じられない部分が多い。


「どちらの世界の人間も、あたしをもとに産み出してるんだけどね、こちらの世界では、唯一創造神があたしであり、神の力の恩恵で、魔力が存在して魔法が使えるの。絵梨衣ちゃんの世界では、創造神がいることは明かさず、魔力も魔法も存在させないことにして、人間自身の力を使って、どう世界が成長していくのを見てる。」

「そんなことは、初めておうかがいしました!ライザ様!驚きしかありません!」


初めて聞いた内容があったようで、レイが隣で大興奮している。

確かに、世界の創造の説明を、しかも異世界の説明まで、こんなに詳しく神様から聞けることはないと思う…。


「見てる…んですか?世界を…。」

「えぇ、それが神様の仕事…。うーん仕事っていうか…趣味かな。」

「…趣味なんですか?世界を作るのが…?」


相変わらず、レイは大興奮で興味津々でライザ様の話を聞いているけれど、私は自分の世界が趣味で作ったと言われてることに、何とも言えない怒りが込み上げて来ていた。



「趣味で作った世界を見て楽しんでるなら、どうして苦しい、辛い思いをしてる人を、助けてあげないんですか?神様なんですよね?現に、レイだって、すごく苦しい状況で…私を…」

「エリィさん、それは僕の問題で、ライザ様に話す必要はない。」

「だって…」

「神様だから、どうして助けなきゃいけないの?」

「えっ…?」


ニッコリ笑ってそう言ったライザ様に、私は絶句してしまう。

私が口を開けて呆けている間に、大ジョッキを飲み干して、ライザ様は、ジョーさんにおかわりを頼んだ。


「ちょっと~二人とも!しっかり食べて聞いてちょうだいね~。足りなきゃおかわりできるし、他にも色々あるからね♪勿論私のおごりだから!」

「え、あの、ありがとうございます…。」

「まずね、あたしは、この『双子の世界』には、力を使って、何かを変えたり、運命に干渉せずに見守りたいと思ってるの。あと、趣味って言ったのはね…あたし達が不老不死だからなのよ。遠い遠い昔に生きていた人間が、不老不死になった、それが神様なんだけど…」

「なっ……………………!!!!」


レイは決して知ることがなかったであろう神様の話に、感動で震えていて、言葉が出てない…。

そこに、ジョーさんが大ジョッキを持ってきて、ライザ様の空いたジョッキと交換していった。

ライザ様は、並々とつがれた大ジョッキを、グイッと気持ち良さそうに飲んで、テーブルに置いた。



「長い長い時を、あたし達は、別に飲まず食わずでも、寝なくても、ずっと今の姿のまま生きていける。そして、何も必要のない世界で、いつの間にか…誰かが世界を育てることを始めたのよ。自分達が昔、住んでいたような世界をね。」

「それが、この世界と私のいた世界なんですか…?」

「そう、この世界と絵梨衣ちゃんの世界は、表裏一体っていうのかなぁ。そういう、正反対の設定から生まれた世界同士が、どのように影響しあって成長していくのかを、見てみたかったの。でもね、あたしはこの『双子の世界』だけじゃなくて、今はあと1個、別の世界を管理してる。他の神様も、一人で何十個も創造して、なんとなく成り行きを見守ってる人もいれば、ひとつだけを大事に見守ってる神様もいる。」

「お話の途中、大変失礼しますライザ様。そのような大事なお話を、僕達のようなものにしていただいても………よろしいのでしょうか?」


軽く淡々と、この世の秘密の話をするライザ様に、レイは興奮しながらも、少し恐れているみたいだった。

確かに、こんな話を自分達が信じる神様からいきなりされたら、もう自分はここで終わるんじゃないかって気持ちになるかも…。


「大丈夫大丈夫~。この世界の人は信じるだろうし、絵梨衣ちゃんの世界の人は、漫画か小説の話でしょ?って空想の話にするかしらねー。レイナードと絵梨衣ちゃんが信じるかどうかは、自由だけど。さて、話を戻すけど、だからあたし達は、それぞれ自分の思うままに創造した世界を見守ってるの。何もかもが理想通りいくように、積極的に干渉していく人もいれば、世界によってそれぞれ違う方法をとる人もいるし、中には創造した世界で、ただの人間として、一緒に生活している人もいるわ。でも、それは仕事じゃないの。ただ、長い時間を生きていく為の、趣味みたいなものなのよ。そして、あたしはこの世界の運命に、干渉はせずに見守りたいと思ってるから、誰かが不幸でも、悲しんでいても、助けるつもりはないわ。」

「そんな………。でも、商品には干渉してますよね…?ここのジャンボ焼き鳥とか…。」

「それは、神様としてじゃなく、個人としてよ。あとね、あたしは自分の作った世界で、美味しいお酒と食べ物を食べるのを、何より楽しみにしてるの!だから、美味しいものを生み出す為の手伝いなら、いくらでもするわ!もちろん、力を使って無理矢理変えるようなことはしないけど。アドバイスだから、ア・ド・バイ・ス♪」



力強く語るライザ様に、いやそれ干渉してますよね…と言いかけたけれど、それはグッと飲み込んだ。

レイについては、もうライザ様の話をありがたそうに聞き入っているので、反論も何もなさそう…。


「自分の作った世界なのに、助けてあげないなんて酷いと思われるかもしれないけど、あたしは、双子の世界を、運命の流れるままに育って欲しいと思ってるの。滅びの道を進もうとも、それは仕方のないこと。ただ、ひとつだけ滅びを逃れる方法を作った。それが『巫女姫制度』ってことね。」

「それって、巫女姫に選ばれた人に責任押し付けすぎゃないですか!?急に全く知らないことだらけの違う世界に呼ばれて、世界を安定させろだの、結婚しろだの、おかしくないですか!?」


本を読んだ時にわいて出た怒りが、止まらずに出てしまう。

レイからしたら、女神様に何てことを!と思ってるかもしれない。


「候補者に選択肢は与えてるわよ?別に巫女姫にならなくったってかまわないんだし。絵梨衣ちゃんも、今のところは巫女姫になるつもりないでしょ?それならそれでいいの。他にも候補者はいるんだから。あなたがやりたくないなら、責任を持つ必要はないわ。そのことは、絵梨衣ちゃんも何となくわかってるんじゃない?…だからこそ、腹が立つんでしょ?あたしに。こんな制度を何で作ったんだ!って。」

「その通りです。何でこんな勝手な、それに人の恋心を操るような制度なんかをって思ってます…。」

「あたしがはじめに設定した巫女姫とは、かなり環境が変わっちゃってるからね~。そこも、双子の世界の流れが変えていったものだから、あたしは何も言えないのよ~。無責任とか言われそうだけど、それが選んできた道の結果だから。」

「そんな…。」

「あら、話が長くなっちゃったわ、ごめんね。しっかり食べられた?おかわり頼む?」

「ライザ様、お気遣いありがとうございます。この後、エリィさんを元の世界へ送り届ける予定なので、そろそろ失礼致します。」


怒りのぶつけどころを失って、うつむいてしまった私のかわりに、レイがライザ様に挨拶をしてくれた。



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