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温かいお野菜たっぷりのスープと、昨日の朝食べたサンドイッチにフルーツと、豪華な朝ごはんを部屋で食べた後、フィリアさんと広間におりる。
朝ごはん………レイにからかわれた、あの苦いカップケーキもあったけど………残しました………ごめんなさい。
レイはまだ広間には来ていないようで、フィリアさんが、広間の横にある応接室に案内してくれる。
部屋にあるより格段に豪華で、座り心地も最高のソファに座る。
「もういらっしゃるかと思いますので、少しお待ち下さいね。」
フィリアさんがそう言って、ソファの後ろの壁際に下がると、フィリアさんと同じメイド服を着た、私より年下に見える侍女さんが、ニコッとしてテーブルにお茶を用意してくれた。
そこに、何回か見かけた執事さんが、ソファの横に跪く。
「失礼致します。ご挨拶が大変遅くなり申し訳ございません。わたくしは、別宅にて執事をつとめております、スチュアートと申します。」
銀色の髪に、温和なおじいさん、といった雰囲気のスチュアートさんは、跪いたまま両手を胸にあてて、頭を下げた。
「神崎絵梨衣です。こちらこそ、きちんとご挨拶もせずに、申し訳ありませんでした。」
慌てて立ち上がって、腰を折ってお辞儀をする。
「とんでもないことでございます。レイナード様より、大変失礼なことをしてしまったと、おうかがい致しました。重ねてお詫び申し上げます。」
「あの、大丈夫ですので!こちらこそ、レイナードさんにも、フィリアさんにも、とてもお世話になりました。ありがとうございます!」
私がそういい終えて、スチュアートさんと一瞬見つめあい、お互いに「フフッ」と笑い合ってしまった。
「おはよう。お待たせして、申し訳ない。エリィ。」
広間の方から声をかけられ、振り向くと、濃紺の長めのジャケットに、白いスラックス姿のレイがいた。
「なんだか、スチュアートと楽しそうだね?」
「おはよう、レイ。」
レイが応援室に入ってきたので、スチュアートさんは立ちあがり、一礼してフィリアさんと同じく、壁際に移動する。
「その顔を見ると、あんまり寝られなかったのかな?」
「……全然寝てないです……。」
「そんなに時間はかからないが、馬車の中で眠ればいいよ。スチュアート。」
「かしこまりました。」
レイがスチュアートさんを呼ぶと、スチュアートさんは一礼して、広間の方へ行ってしまった。
「さて、では巫女の塔のフレール支部へ向かおうか。おや…?」
レイが、私の胸のペンダントに気付き、じっと見つめる。
「あ、これは…。」
思わず、ペンダントトップを隠すように握りしめてしまった。
「……なくさないよう、大切にしてあげてくれ。」
レイはそう言って、優しく微笑んだ。
「さぁ、行こうか。」
「うん…。」
そう言うと、レイがエスコートをしてくれた。背中に手をあててエスコートされても、レオさんの時のようにドキドキはしない。
…大切にしてあげてくれってことは、私がレオさんから貰ったってわかったのかな…。フィリアさんが話したとか…?
広間を抜け玄関にでると、2頭の白い馬がひく、プリンセス映画に出てきそうな馬車が待っていた。
思わず、おぉぉぉぉ!本物だぁ!と、心の中で叫んでしまった。
「お手をどうぞ、エリィ。」
乗り込む時もまた、レオがエスコートしてくれた。
中は、詰めれば向かい合わせで3人ずつは座れそうな広さだった。
進行方向と同じ向きの席に座らされる。
席は少し硬めの座面のソファになっていて、そこには、たくさんのクッションが用意されて、綺麗に畳まれた薄手のブランケットも置かれていた。
「ありがとう…。なんか、お姫様になったような気分…。」
「お姫様?女性が馬車に乗るのをエスコートするのは普通だけど…。あぁ、エリィの世界では、馬車はあまり乗らないのかい?」
「乗らない。メリーゴーランドぐらいしか、乗ったことない。」
小さい頃、父に遊園地に連れていってもらったら、いつも、メリーゴーランドの馬車が乗りたいって、何回も乗ったっけ…。
…大丈夫…きっともうすぐ帰れる…。
「スチュアートに、クッションとブランケットを用意させたから、着くまで休んでるといいよ。1時間もかからないはずだから。」
「さっきスチュアートさんは、これを準備しに行ってくれたの?」
「あぁ。先代の当主から仕えている、大ベテランの執事だから、スチュアートは。一言で察してくれるよ。」
信頼度がすごい。でも、別宅にいるってことは、スチュアートさんはもう、ご当主様達には仕えてないってことなんだろうな…。
まだ閉められていない馬車の扉から、顔をのぞかせて、スチュアートさんを探してみると、玄関の扉の前に立っていた。
「スチュアートさん!ありがとうございます!」
少しだけ声を張ってお礼を伝えると、スチュアートさんは、ニコッと笑ってくれて、軽く腰を折って一礼をした。
…スチュアートさん、ちょっと亡くなった祖父に似てて、ほっこりしちゃうな…。
「さて、出発しようか。」
「うん!」
レイの声を合図に、私は座り直し、馬車の扉が閉められた。
向かうのは、巫女の塔の支部…。
そこで候補者と認められれば、私は元の世界に帰れるはず…。




