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「え…………朝………?」
ついさっき寝つけたところなのに、暗かった部屋が、今は窓からの朝日がさし込み、私とベッドも明るく照らし出している。
………まぶしい………眠い………おやすみなさい………
………まだ大学まで、時間あるし………
………アラームかけてたかな………
………なんかいい匂いがする………もうちょっとだけ……
「って、違う!!!!!」
「エリィ様、おはようございます。」
家じゃなかった!と、ガバッと起き上がったら、目の前には優しく微笑むフィリアさん。
「ゆっくり………は、休まれてない様ですね?」
「………ほとんど………眠れなかったです………。」
フィリアさんから気の毒そうに言われて、両手で顔を覆う。
朝が弱くて、寝起きがボーッとしてるのはいつものことだけど、今日は、ボーッとどころではない。目が開かない………。
「あらあら…。まずは目を覚ましましょうね、エリィ様。」
その後、まずは冷たいハーブティーですわ、とか、さてお顔を温かいタオルで…とか、さぁ湯浴みをいたしましょう連れてかれたりと、あれやこれやとされるがまま、準備をされる。
「今日も素敵ですよ、エリィ様♪」
気がつけば、鏡台の前で、おろされた長い髪に白い髪飾りが飾られ、薄い水色のドレスを着せられていた。胸元大きなレースのお花と、白い小花の刺繍がスカートにほどこされていた。
………いつの間に…………。
「朝食はこちらにお持ちして、お食事が済みましたら、広間に参りましょう。」
すぐにお持ちしますねと言って、フィリアさんは一礼して寝室から出ていった。
「あ…そうだ、ペンダント…。」
まだ眠いけれど、一応起きた頭の中に思い浮かんだのは、レオさんから貰ったペンダントだった。
ベッドのサイドテーブルに置いた小箱から、そっとペンダントを手に取って首からかけると、フワッと香りが広がる。
…レオさんの香り…そう思うだけで、あっという間に顔に熱がのぼる。
カードを読むのはやめとこう。朝から顔が爆発したら、倒れるかもしれない…。
昨日の夜、カードの言葉に、充分悶絶し、プレゼントにずっとドキドキしたままで、このままじゃダメだ!と、仕方なくペンダントを外して寝ようと思った。
でも、目を閉じるたびに、レオさんに抱き締められた感触が蘇って、あーっ!てなりながら飛び起きて、これはもう無理だな…と諦めて、本を読むことにした。
フィリアさんが、レイと話していた時にテーブルに置いてあった本を、ベッドの枕元に重ねて置いてくれていたので、まだ読み終えていなかった『双子の世界』に目を通すと、やはり内容は、『時間の流れの比較』と『この世界の成り立ち』がメインだった。
時間の流れについては、ディナーの前に読んだ内容の、色々な例が書かれていて、やはり元の世界とこちらの世界では、時間経過に差があるということは、よーくわかった。
巫女姫になれば、こちらの世界では年を取らないなら、なぜ巫女姫が亡くなって、代替りが起きるのか…とか疑問はあったけれど…。
世界の成り立ちについては、巫女姫の歴史で少し書かれていたけれど、それについて詳しく書かれていた。
女神ライザ様が、ふたつの世界をお作りになられた。この世界と、もうひとつ次元の違う世界。ふたつの世界は『双子の世界』と呼ばれ、お互いの世界に影響を与えあう。
片方の世界が荒れると、それがどのような形かはわからないが、もう片方の世界に影響を与える。その影響を安定させ『双子の世界』を管理するのが、巫女姫という存在らしい…。
あとは、こちらの世界には、妖精の存在があるが、『機械』や『科学』等が特に発展していないこと(全く無いわけではないらしい…)や、あちらの私の世界には、妖精や魔力の概念がなく、人の作り出した物の進化がすごいこと等が書かれていた。
本を読むほどに、色々な疑問がわき出ては来るけれど…。
「色々考えても仕方ないよね…。」
私は今日、元の世界に帰る予定で。
この先巫女姫になってもいいと思ってるのか、二度と関わり合いたくないと思ってるのか、それだって、まだなんとなく自分のことだっていう実感がないまま、ここにいる。
「レイも、私と結婚をする気は無いって言ってたしね…。元の世界に戻れば、それでおしまい……だよね。」
ペンダントトップを、優しく握りしめる。
そう、帰ればここに来ることはないから。
…レオさんに…………会うこともないから………。




