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ブックマーク、ありがとうございます♪

 目の前に………レオさんの顔が近づいてくる………。

 彼の右手が、私の耳元の髪をかきあげて………。








「レーオーナールードーーーーーーッ!!!!!」






 ガシャーーン!と大きな音と共に、ガラス扉が開け放たれて、闇の魔王が降臨した。

 レイの時と比べ物にならない…もう背中に黒い翼も見えてきてる………。

 そう、フィリアお姉様です………。


「…お時間でございますよ?愛馬も首を長くして待ってますから、早く宿舎にお戻りくださいませ?」


 めちゃくちゃ怒ってる。満面の笑みだけど、目がもう人外の光り方してる!

 それなのに、レオさんはなぜか私を抱き締めなおした。


 やめてください、本当にダメです、レオさん、それ。フィリアお姉様、もうドラゴンとかに変身しそうです。



「…止めてもらえて良かったよ。」


 レオさんは、私にしか聞こえない声でそう呟くと、さっと私を離してくれた。


「お姫様はお返しするよ、フィリア。」


 そう言って、「風よ!」と叫ぶと、レオさんはバルコニーから飛び降りた。

 下からした時と同じ方法なのだろう、フワッと着地をして、くしゃっと笑って手を振った。


「おやすみ!エリィ!」


 そう言うと、石畳のロータリーにいた黒い馬のたてがみを、何度か撫でると、そのまま馬にのり、振り向かず本宅の方へ走り去ってしまった。



「おやすみなさい………レオさん………。」


 遠くに見えるだけの彼を目で追って、自分の両手で頬を包み込む。まだ、レオさんの温もりが残っている気がする。


「………もう少し、我慢強いかと思ってたのに…全く。」


 私の横に並んだフィリアお姉様、もとい、既に闇のオーラを納めて、いつもの優しいフィリアさんに戻った彼女は、もう小さくなってしまったレオさんを遠くに見ながら言った。


「ごめんなさい、フィリアさん。私が、あの…。」


 なんだかわからないけれど、レオさんにもフィリアさんにも申し訳なくなってしまい、フィリアさんに頭を下げる。


「エリィ様が謝るようなことは、何もありませんよ!レオなら、もう少し自制がきくと、買い被っておりました、わたくしの責任ですから。」


 はぁ………と大きくため息をついたフィリアさんは、中に入りましょうと、片手を背中に添える。

 すごい音で、おもいっきり開けられたガラス扉を、私が部屋に入ると、静かに閉めた。

 …割れてなくて良かった…。


「もう、お休みになった方がよろしい時間です。夜が明けるまで、6時間程しかありませんから…」


 そう言って、ベッドの側の椅子に案内された。

 応援セットのテーブルから、温かいハーブティーを持ってきてくれたので、ソーサーごと受けとる。


「もしかして…私がレオさんに会えるように、バルコニーを勧めてくれたんですか?」

「…旦那様とレオナルド様が、本宅にいらっしゃると、スチュアートから聞いたもので、もしかしたらと思いまして。」

「そうなんですか…。」


 ハーブティーを飲むと、なぜかレオさんに抱き締められた時の香りを思い出して、思わず赤くなってしまう。


「…座らせて頂いても、よろしいですか?エリィ様」

「え?あっ、もちろんです!どうぞどうぞ!」


「ありがとうございます。」と言って、フィリアさんは、私の斜め前にあるスツールに座る。


「レオナルド様…。レオに…会いたいだろうなと…思ったの。」

 フィリアさんが、レイやレオさんに話している口調で、私ににっこりと話してくれる。

 なんだか、また仲良くなれた気がして、すごく嬉しくなる。


「レオなら、ここに来るきっかけがあれば、絶対にエリィちゃんに会いにくる…。もし会えなくても、きっと何かしら、あなたと繋がろうとするはずだと思ったから。」

「そんなことは…ないと思いますけど…。」

「わざわざ旦那様…あ、レオとレイのお父様ね。用事が終わって、宿舎に一緒に帰る旦那様に言い訳をしてまで、別宅によるなんて面倒なことしないわよ。旦那様は、騎士団の統括隊長で、騎士団すべてを取りまとめていらっしゃるから、レオにとっては父親の前に上司なの。騎士団は、時間にも細かいし厳しいの。だから、こんな時間に宿舎から抜けて来ること自体が、異例なのよ。」

「てっきり、こちらにも何か用事があったのかと思いました…。」


 …庭を見つめる後ろ姿のレオさんが、頭をよぎる。


「用事はあったみたい。」

「え?」


 そう言うと、フィリアさんは、テーブルの上に置かれていた、包装された手のひらに乗る小さな箱とカードを持ってきた。

 それを、私が座る椅子の横にあるサイドテーブルに置くと、私の持っていたハーブティーを受けとる。


「レオからのプレゼント♪」

「えっ…?」

「『明日帰ると聞いたから、嫌じゃなければ貰ってほしいと伝えてくれ』って。」

「………あっ!もしかしてレオさん、知ってたんですか?私がレイの連れてきた候補者だって…。」

「お客様の事情は、主にお伝えするのが侍女長の役目ですから。それでは、わたくしはこれで失礼致しますわ♪」


 優しい笑顔で、ひとつウインクをして、フィリアさんは一礼をする。

 そして、私の飲んでいたハーブティーと、テーブルのティーセットをワゴンに乗せて、寝室の扉の前で立ち止まり、私を振り返った。


「…バルコニーに出ても、エリィちゃんとレイが、お互いに気がつくかどうかは賭けだったの。何かが、二人を引き寄せあったのかもしれないわ。例えば、妖精さんとかね?おやすみなさい♪」



 そう言い残して、フィリアさんは部屋を出ていった。

 妖精さん…?確かに、レオさんが私に気づく前に、何かに話しかけられたような反応をしてたから…それかな?

 それよりも、プレゼントが気になって仕方がない。


「パパとおじいちゃん以外からの、初めてのプレゼントかも…。」


 手の平におさまる、小さな箱。

 青いリボンをそっとほどき、包み紙だと思った、水色に白い小さな花の刺繍がされた布を丁寧に開く。


 出てきたのは、蓋のついた小さな青い箱。

 中をそっと開けて、入っていたものを、優しく手に取る。


 それは、銀色のペンダントだった。

 レースのように透かしの花の装飾になったケースが、ペンダントトップになっている。その中には、ポプリが入れられているようだった。


 …優しい香り…。

 あれ?でもこの香り、どこかで…。


「あっ………!レオさんの香りだ、これ…。」


 抱き締められた時に包まれた香りを思い出して、急に顔が爆発した。ペンダントをつけるたびに、この香りで爆発してたら、1日で天に召されるかもしれない。

 今日の湯船の香りとも少し似ているので、もしかしたら、秘密のお庭のハーブなのかもしれない。

 ペンダントは少し長めで、留め具を外さなくても頭からかけることができた。ペンダントトップが、ちょうど心臓の高さになった。


「そうだ、カード…。」


 カードは、小さな白い封筒に入れられていた。開けると、カードが1枚。

 文字を読む為に、じっとカードを見つめると、頭の中に言葉が流れてくる。



『エリィの心に 少しでも香りが残るように レオナルド』



 ひゃぁーーーーっ!!!!わぁぁぁーーーーっ!!

 なんかもう、心の中に叫び声しか出ません!!!!

 もう、これ以上顔は爆発できませんっ!!

 これは、もしかして、いやもしかしなくても………

『少しでも 俺の香りが残るように』ってことなのかっ!?



「残りまくりです………レオさん……!」


 カードとペンダントトップを一緒に、手のひらで包み込み、胸に押し当てた。

 ドキドキがおさまらなくて、とても眠れる気がしなかった。

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