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「あ、間に合ってます。」


 突然、キラキラした笑顔で私を直視するレイに恐怖を感じて、新聞勧誘を拒否するような返答をしてしまった。


「エリーはね、とにかく芯が強くて素敵な女性なんだ!侯爵令嬢だから礼儀作法もダンスも何でもバッチリな上に、料理を始め家事や裁縫すべてが得意だし、「あなたを守るためだから」って、婚約が決まった直後から、僕の為に、僕の為にだよ、護身術や剣術を学び始めて、今じゃ剣術は僕と互角なんだ!それにね、銀色の美しい巻き髪に、エメラルドの瞳が、それはもう天から授けられた輝く星のような存在で、尊すぎる!しかも、乗馬も得意だし、常に国や世界のことを勉強していて、知識も豊富だから、一緒にいて飽きることがない…。抱き締めると壊れそうな細い肩を、そっと胸に抱き寄せる度に、僕はエリーをま」


「いや、もう本当にすいません。少しお話が聞いてみたいなと思っただけなんですけど、お腹いっぱいでこれ以上入りませんので、ストップでお願いしたいです…。」


 わんこそばを、もういりません!と蓋をしたのに、じゃあお口に直接どうぞ!ってされてる気分だったのが、そのまま言葉に出てしまった。

 たぶん、好きなアイドルへの愛を語ると、こんな感じになりそうな気がする。私も物語の主人公がたまらなくかっこよくて、ハマったことがあるから、気持ちはわからなくもない。


 そして、お茶を取り替えてくれていたフィリアお姉様は、満面の笑みでレイを見ている。目は笑ってない。

 それに気づいたのか、レイはサッと真顔になった。怖いよね…お姉様の笑顔、闇のオーラが伴ってるもんね。


「………まだまだ爪の先程もエリーの素晴らしさを紹介できてないけれど、そうだね、またの機会にしよう。」

「またの機会………」

 できれば無いといいな、その機会…。


「とにかく、僕はエリザベス以外と結婚する気はないんだ。だから、エリィさんには、まずは明日、塔の支部で候補者認定を受けてもらって、僕の寝室にある『扉』から『道』を自由に使って、元の世界…あの例のお風呂場の『扉』へ帰ってもらえたらいいかなと思ってる。」


 元通りの話し方になったレイは、そう言うとお茶を一気に飲み干した。


「明日帰れるの!?帰っていいの!?」

「帰らずここに居てくれても構わないよ、僕は。」

「いえ、帰ります。学校も無断で休んでるし、何日も不在じゃ、父や祖母が心配するから…。」

「それなら、問題ないと思うよ。ふたつの世界は、時間の進み方が違うようだからね。こちらの世界に丸1日いたとしても、10分も過ぎてないんじゃないかな。『双子の世界』という本は、まだ目を通してないかな?」


 レイは、既に闇のオーラは消え、普通の優しいお姉様に戻ったフィリアさんに、本棚のある奥の寝室から持ってくるように指示をする。


「エリィさんの世界と、こちらの世界は、お互いに影響を受け合いながら、でも同じ次元にはない世界らしい。そして、時間の流れ方が異なっていて、エリィさんの世界の方が早いんだ。屋台の新作を食べに来ていた女神ライザ様にも質問したことがあるから、間違いない。」


 屋台の新作を食べに来ていた女神様の言うことを、少し信じられないのは、私だけですかね…。


「お待たせ致しました。」

 フィリアさんが私に渡してくれた黒い装丁の本の文字を見つめると、『双子の世界』と書かれていることがわかる。


「その本に、エリィさんの世界とこちらの世界、ふたつの繋がる世界がどのようにライザ様によって創造されたのか。そして、どのような影響があるのか。大昔の研究者が、直接ライザ様からうかがって、まとめた本らしい。後書きに『美味しいお酒とおつまみをおごってくれるなら、酒の肴に話してあげると言われ…』とか書いてあったから、昔から気軽に世界に降りてこられていたのだろうな…。」


 それは本当に女神様だったのか!?心の中の疑問を、グッとこらえた。だって、読み終わった2冊の本の中でも、女神ライザ様は、大切な存在として書かれていたから。

 巫女姫制度を作ったことには文句があるが、創造した世界の人間と気軽に親しく接してくれるからこそ、皆から大切にされているんだろうし…。



「時間のずれについても、巫女姫様が行き来していた際の時の進み方を検証したものをまとめていたから、だいたいどれぐらいの差があるのか、目を通してみるといい。」

「ありがとう…。読んでみる。」

「まずは、明日朝一で、支部へ候補者認定を受けに行こう。強制的ではあれ、僕が作った『道』を通れるだけの魔力のキャパシティがあれば、間違いなく認定されるはずだから。」

「わかった。」

「元の世界へ戻った後のことについては、明日、認定を受けてから話し合えればと思う。明日までに色々、改めて考えをまとめたいとも思うし………。それでも………良いかな?」


 レイは、真剣な眼差しでこちらを見て言った。


「もちろん!それに、候補者に認定されないと、帰るも何もないもんね。」

「そうだね…。あぁ、もうこんな時間なのか。」

 レイはジャケットの内ポケットから、懐中時計を取り出していた。銀色の懐中時計を見つめるレイの目が優しくなったので、何となく私も懐中時計を見つめていると、「エリザベスより、愛を込めて」と頭の中に入ってきた。


「それ、エリザベスさんからの贈り物?」

「え………何でわかったんだ………って、まさか本の妖精か!?」

「たぶん?懐中時計を見つめてたら、頭で勝手にわかったから…。」

『レイそれ大好き!メッセージいつもみてる♪』

「…………これ以上、何か言われたら………明日立ち直れない気がするから………失礼するよ………。遅くなってしまったが、エリィさんもゆっくり休んでくれ………。明日は、朝食が終わったらすぐに支部へ行こう。じゃあ、おやすみ………。」


 私の目の前から声がしたから、力を貸してくれたのは、きっと手元に渡された『双子の世界』の妖精さんだったんだろう。

 再び真っ赤な顔をして、後はよろしくとフィリアさんに声をかけて、レイは部屋から出ていった。


「レイナード様って、ちょっといじめたくなるんですよね、かわいくて。頑張って、必死で強がってる感じが昔から変わらなくて……フフッ。」


 フィリアお姉様…それ、すごくわかります。

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