貴女は私の巫女姫様 1
目の前には、いわゆる乙女ゲームに出てきそうな、王子様か貴族様かというような、コスプレですか?としか思えない、たくさんの刺繍や宝石等のポイントがついた白いジャケットに、同じく白のスラックスなのだろうか、普通のスーツではない服装の男が立っている。
水に濡れた艶やかに輝く金色の髪に指をつっこみ、無造作にかきあげる。
「全く…着いた途端に水が落ちてくるとは、いったい巫女姫はどんな場所にお住まいなのだ。」
眉間に皺をよせながら、透き通るような、そして、吸い込まれそうな、深く濃い碧い瞳がキョロキョロとお風呂場を見る。
そして、その碧い瞳が真っ正面で凍りついている私の瞳をとらえた。
「おや、レディがいらっしゃるとは気づかず、大変失礼を致しました。人を探しに転移してきたのだが、どうやら出る場所を間違えてしまったらしい。申し訳ないが、何か拭くものを貸して頂けないだろうか。この世界では、簡単に魔法を使うことができないものでね、服を乾かすことができないんだ。」
後ろで出続けているシャワーから離れるように、目の前の彼は一歩扉の外にいる私に近づいて、申し訳なさそうに何かを話している。
「しかし、なぜこのような、水の流れる狭い場所に転移の扉が繋がったのか…。参ったな。転移の扉は、同じ場所にしか繋がらないというのに…。毎回びしょ濡れにならなければならないではないか。全く…道は巫女姫様の魔力に引かれるというのではなかったのか?」
シャワーの後ろ、大きな鏡を振り返りながら、目の前の彼は腕を組ながらぶつぶつと話している。
シャワーのしぶきの後ろをよく見ると、鏡全体から、うっすら青白い光が出ている。
目の前に立つ、ずぶ濡れの彼の後ろにある鏡を凝視していると、突然目の前に碧い瞳が現れた。
「どうかしたのか?いや、突然このようなところに人が現れれば無理もない。…ん?あなたからは魔力を感じるな…。あなたは魔力をお持ちなのか…?この世界では、魔力を持つ人間は限られていると過去の記述にはあったが…。道は魔力の強い者が存在する場所に繋がるというから、あなたの魔力に引かれたのかもしれないな。」
私から目をそらし、腕組みをしながら、また何かをぶつぶつ言っている。そして何かを納得したのか、柔らかな笑顔で再度私を見つめた。
「………………………………」
「………………………………おや?この魔力は…。」
無言で固まったままの私を見る、目の前の彼の目が、気付きから驚き、そして歓喜の表情に変わった、その瞬間、
「まさか、あなたが巫女姫様!?」
「うるせぇぇぇ、不審者ーーーー!!!!」
歓喜の表情で、両腕を私に伸ばしてきた、なんか一人でぶつぶつ喋り続けていた彼に、祖母直伝の技をお見舞いした。