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「そんな甘い考えで、あの奥様が諦めるわけないじゃない!今日なんか、レイが巫女姫を連れてきた時の為に、レイと巫女姫の邪魔をしないように地下に愛の巣を作ってあげるとか、媚薬を用意するから娼館の詳しい人間を呼びなさいとかって、ニールスに言いつけてたわよ?」



 地下の愛の巣…………娼館から媚薬………恐ろしい単語が並んでますね。ぶっ飛んでる感じなのね、レイのお母様…。


「フィリア!お客様の前だぞ、控えろ。」

「はぁ?その、大切なお客様を、甘い考えで傷つけてるような人に仕えてる覚えはありませんけど。」

「そういう問題じゃないだろ!体裁って言葉を知らないのかよ!」

「体裁なんか気にしてたら、エリィちゃんにもっと酷いこと言うでしょ!?」

「あのー…………」

「だいたいフィリアは、いつも小うるさいんだよ!僕のやることなすこと、あれやこれや毎回つっこんでき…」

「えぇえぇえぇ!そりゃいっっっつも詰めが甘いから、つっこみたくもなるわよ!だから今回だって、妖精のこと忘れてたんでしょうが!」

「えーっとー…………」

「そっ…だっ…てそれは、いつも側にいるのが当たり前なんだから、忘れても仕方ないだろ!」

「本の妖精は情報が豊富だって、誰よりもあなたがわかってたでしょ!?いっつも本持ち歩いてるんだから、エリザベス様とやってることだって見てるに決まってるじゃない!」

『ラブラブ~♪エリザベスとレイはラブラブ~♪』

『いつも、ぎゅってしてるー!』

「わぁぁぁーっ!ちょっ!やめろやめろ!」

「レイ…あなた…まさか結婚前のご令嬢に、やらかして………ないわよね………?」


 目の前で、完全に姉弟ケンカと化してしまった二人のやりとりを、止めることもつっこむこともできず、呆然と見守っていたんだけど…。

 妖精さんのかわいい暴露に、フィリアさんの頭に闇の2本の角が…!闇のオーラがっ…!ヤバい!これはレオさんの時より、ヤバい気がする!

 目の前で立ち上がっているレイも、マズイと思ってるんだろう。目を見開いて、顔面蒼白になっている。私に怯えていた時より、格段に恐れている。


「なにもしてないなにもしてないなにもしてないなにもしてないなにもしてない…」

『ベッドでぎゅっぎゅー♪楽しそう~♪』

『いつもくっついてるー♪レイ嬉しそう~!僕も嬉しいー♪』

 頭を高速でフリフリしながら、呪文のように唱えるレイに、妖精さんが可愛く追い討ちをかけている。


「レイナード……………?」


 フィリアお姉様…この世界の魔王ですと言われたら、私、即信用します…。もう、闇のオーラに包まれてるし、目とか光ってるように見えるよ…?


「あぁぁぁぁぁ………!誓ってなにもしてません、本当に本当に本当に!エリザベスが愛しすぎて、側にくっついてるだけです!絶対何にもしてません!」


 真っ青な顔で直立不動になって震えてるのを見ると、気の毒になってきた…。


「妖精さん、本当になにもしてないかしら?レイは。」


 闇のオーラを纏ったまま、フィリアさんは、本に向かってニッコリとして聞いた。


『いつもくっついてるだけー♪』

『エリザベス、離れなさいって言う~♪』

『ベッドで怒られてるー♪』


 …妖精さんの暴露だけで、レイとエリザベスさんの力関係が分かりすぎて、心の底から、かわいそう…。


「レイが調子に乗ってるってことなのね。教えて下さって、ありがとう!妖精さん♪」

『わーい!フィリアにほめられたー♪』

『嬉しいー!』


 闇のオーラにとっておきの笑顔のフィリアさんが、妖精さんにお礼をいうと、本の周りが、ほんのりキラキラと光り始めた。

 …心のこもった感謝の気持ちを、魔力に変えるのかもしれないな、なんて思った。


「……………姉がわりの最強の侍女長と、不審者扱いされて飛び蹴りしてきた候補者と………。僕の周りは、強い女性が多すぎないかな…………」


 精神力を使い果たしたのか、力なく椅子に座ったレイは、半泣きになっている。お姉様に可愛がられちゃうタイプなんだな、きっと…。


「大丈夫…じゃないよね?」

「慣れてるから大丈夫……フィリアに勝てたことなんてないから…。」


 いやいや、灰になっちゃってるから。全然大丈夫に見えないから。


「一方的に甘えるのも宜しいですが、そればかりでは、そのうち愛想を尽かされますよ、レイナード様。とにかく、嘘をついて好きに操ろうとしていたのなら、まずはエリィ様に謝罪なさるべきかと思います。」


 侍女の話し方に戻ったフィリアお姉様は、笑顔でそう言うと、冷めてしまったお茶を取り替えはじめた。


「わかってる………。しかも、意識は無かったにせよ、強制的にこちらに連れてきてしまったんだ…。」

「いや、ここに連れてこられたのは、不可抗力みたいなとこあるから、ね?」

「本当のことを伝えず、隠そうとしたこと、エリィさんの意思を無視して、僕の好きにしようとしていたことは、心から申し訳ないと思う。申し訳ない…。」


 これまでになく、しゅん…としてしまった姿から、失礼ながら、しょぼんとした柴犬を連想してしまったことは、レイには秘密にしておこう。かわいそうだから…。


「いえいえ…こちらこそ、プライベートなことをばらす結果になってしまって、ごめん、レイ…。」

「謝らないでくれ………余計辛くなる………。」

「あ…………ねぇ、じゃあさ!婚約者のエリザベスさんって、どんな方なのか教えてくれる?」


 私の質問に、レイがうつむき、カタカタと身体を震わせている。え、ダメだった?この質問、もしかして禁句だった?


 10秒後、そんな心配をした私がバカだったと後悔した。



「勿論だとも!!!エリーの素晴らしさなら、永遠に語り続けあげるよ!」

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