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「どうしようかな………。」
フィリアさんが出ていってしまい、なんとなく淋しいな…なんて思いながら、ここで一人何をして待てばいいものかと思い、部屋の中をキョロキョロ見まわすと、天蓋付きベッドの横に本棚があった。
「本とか…………読める…のかな?さすがに日本語では書かれてない…よね?」
ソファから立ちあがり、本棚から背表紙には何も書かれていない、赤い革の表紙の本を取り出して、適当な場所を開く。
やっぱり、日本語じゃない…当たり前だよねー。異世界だからって、日本語に変換されてるとか、都合の良いことないよねー。
等と思いながらページを見つめていると、
「『真実の…愛…の試練…とは』…って、えっ?おっ!読めてる?もしかして!」
文字が読めたわけではないが、見つめていた部分の文章が、頭の中で勝手に日本語に訳されていた。
これは、異世界の補正かなにかなのか、それとも魔力なのか…。
「もしかして、本の妖精さん…とか?」
私の問いかけは正しかったようで、『そうそう、ぼくだよーぼくー!』とか『こっちも巫女姫様の本で、あの茶色の古いのも、巫女姫様の本だよー!』とか、たくさんの声が聞こえてきた。
実は、何をしていても側で声が聞こえているので、特に気にしないでおこうとしていれば、木の葉が風に揺れているぐらいの、ざわざわしているかな?程度だったので、自然と妖精の存在を忘れていた。
でも、まさか妖精さんのおかげで、読めない文字が読めちゃうとは思わなかった!
「ありがとう!読書は趣味だから、本が読めて嬉しい!力を貸してね、妖精さんたち!」
交遊関係がほぼないので、ひとりで完結する読書は大好きだった。特に、現実で起こらないような話や、自分が知らないことを知ることができる本は、狭い世界から自分が飛び出せたような気になれたから。
本が読めるという思わぬ驚きに、嬉しくて声がはずんでしまう。
「えっと、この赤い本が『巫女姫の歴史』で、茶色の本が『双宝珠の護り手』ね。とりあえずこの2冊を読んでみるわね!」
姿は見えないけれど、側にいてくれるのが声でわかるので、心強くなってきた。そして、まず『巫女姫の歴史』から読んでみた。
ベッドに腰かけて、ページをめくって見つめるだけで、まるでデータを読み込んで行くように、サーーッ頭の中に内容が流れてくる。
たぶん、さっきはこの字を読みたいと思っていたけれど、今はページの内容を読み進めたいと思っていたので、妖精さんの力の作用が変わったのかもしれないなと、勝手に想像する。
…なんか、この世界にどんどん馴染んで来てないか、私…。いや、帰りたいから馴染まなくてもいいんだけど…。
「『…巫女姫は、異世界から召喚される。扉の魔法によって、扉を開き異世界との道を作る。』これは、レイが言ってた扉の魔法のことね。『初代の…巫女姫は、女神ライザが創世の時、双子星の管理者として初めから存在した。』初代の巫女姫は、元々女神様が用意してたってことかな。双子星っていうのは、なんのことだろ…。『…次代の巫女姫は、対の世界から召喚するようにとの女神ライザからのお言葉と魔法の伝授により、初代の巫女姫が逝去後は、双子星の対の世界から召喚することとなった。しかし、召喚した巫女姫は、魔力を持つが魔法を使う術を知らなかった為、宝珠の管理ができなかった。』…ん?どこかで聞いたようなお話じゃない、これ…?」
これは…私の今の状態と同じなんじゃないの…?召喚しても魔力はあっても魔法が使えないって。
先が気になり、ベッドに腰かけたまま、読み進めていく。
「『次代の巫女姫が、宝珠の管理ができなかった為、少しずつ世界が不安定となった。妖精の力は偏り、妖精が消えてしまう場所が出始め、天災が多く起こり、作物が育たなくなった。同じくして、対の世界も不安定となり、その負の力が、妖精の宿らない生物である魔物を生み出し、双子の世界となる二つの世界は、徐々に混沌と化して行った。』…………双子の世界?この世界と、私のいた世界ってこと…?混沌と化してとか、巫女姫さん、責任重大すぎない?恐怖しかないんだけど…?っていうか、そのやたら気軽に現れてるライザ様って女神は、助けてくれないわけ?」
ちょっとこの女神様、無責任すぎる気がするんですけど…。
レイは、よく世界に現れる親しみのある女神様だって言ってたはず。なら、世界が不安定なら、女神様が助けてくれそうな気がするんだけど。
「いやいや、人の世界の女神様に腹立てても仕方ないよね、とりあえず続き読も…。『巫女姫も少しずつ、魔力や魔法の使うことができるようになっていた。この世界に滞在する時間が長くなり、力のあり方に慣れてきたのだろうと思われた。ただ、宝珠の管理はやはり出来ないままであった。しかし、ある日突然、巫女姫が宝珠に手をかざすと、光が溢れ、双宝珠が輝きだしたのである。輝き始めた双宝珠は、その巫女姫の命がある限り、どちらの世界で存在していても輝きを失うことはない。なぜ突然、宝珠の管理が可能となったのか、我々はありとあらゆる検証を行った。結果、ある仮定を導きだした。それは…』」
「はぁ!?『結婚』『夫婦の契り』!?」
頭に流れてきた衝撃の言葉の数々に、思わず本を閉じてベッドから飛び上がる。
『召喚した騎士と、周りの知らぬうちに愛を深めていた巫女姫は、宝珠の管理が可能となった前夜、初めて騎士と真実の愛を交わしたということであった。通常なら、婚約、結婚を経て夫婦の契りをかわすが、その契りによって、巫女姫の持つ力が解放されるのではないかという仮定である。』
と、本には書かれているらしい…。
これは…巫女姫を題材にしたフィクションだと信じたい…!!でも、周りの妖精達が『ラブラブだと私たちも幸せ~♪』とか『ラブラブ中は、邪魔しない~!』とか、『宝珠が光れば僕達もっと幸せ~♪』とか、色々言っているので、きっとこれはノンフィクション…。
――契りって、閨を共にするってことでございますよね?
いやいや、巫女なのに?巫女って、なんかわかんないけど清らかな身体であることが条件とかが定番じゃないの?なんで結婚したら、力が使えるの?あれか、あれだな!愛の力が世界を救うとか、それ系か!?もしかして、例の女神様って、そういうのがお好き系なのかっ!?
「…先を読めば、もしかしたらその次の巫女姫は、契らなくてもいけましたとか書いてるかもしれない…。読もう…とにかく読もう…。」
気を取り直して、ベッドに腰掛け直し、さっき読んでいたページを開こうとした時だった。続き間になっている隣の部屋の外から、ノックの音がした。
「エリィ様、失礼してもよろしいでしょうか?レイナード様のお兄様、レオナルド様がお帰りになられましたので、ご挨拶されたいとのことでございます。」




