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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第三章 エボリューションフラッシュ
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23話 ザギの思い

緑の珠を取る時、狼が犠牲になる。

その時の、ザギの思いは······

 23話 ザギの思い




 狼達との旅はなかなか楽しい。

 

 アルナスやディアボロを思い出す。


 

 付かず離れずケビン達の周りを並走し、何頭かは警戒心を解き、近寄ってきてくれる。 

 特に首に白い模様があるメス狼は、いつも側にいる。


 [カラー]と名付けた。


 


 翌日、ハリスが帰ってきた。


 狼達は真っ直ぐこちらに向かって飛んでくる異様な気配の(はやぶさ)を警戒したが、ハリスがケビンの肩に乗った事で警戒を解く。



 それ以上に驚いたのはハリスだ。 ケビン達の周りにいる狼は野生の狼だ。 こんなに沢山の狼の群れが人間に従うなんてありえない。


『ケビン殿。 この狼達は?』

「スイランさんが護衛に付けてくれた。 実はハリスがいない間、こいつらに襲撃されて大変だったんだ」


 ケビンは詳しく説明した。


『そんな事が······あぁ、そうだ、これを』


 ハリスは足に掴んでいた袋をケビンに渡した。

 虎の皮を巧く編んで作ってくれている。


「これはいい! ザザリトさんが作ってくれたのか?」

『はい』


 ケビンは破れかけのカバンから珠を取り出して袋に入れ替え、首から下げて服の中に仕舞った。



 ◇◇◇◇



 翌日、仕掛けた罠にかかった(ハリスが捕らえてくれた)鹿を、狼達に与えた。

 ユニオンと違って狼達には餌が必要だ。 ケビン達を襲った事からお腹が空いていると思われた。

 順位の高い狼から凄い勢いで食らい付く。 順位が低い狼が近寄ると牙を剥き、時には攻撃する。


 ちょっと怖い。


 どうにかカラーまで食べ物が回ってきて安心した。

 


 しかし、獲物を食べ物としか考えていないようになっている自分が少し怖かった。 

 


 慣れとは恐ろしい。

 



   ◇◇◇◇◇◇◇◇




 5日後、広い草原に到着した。



 真ん中辺りに直径40~50m程の小さな緑の山がある。


 近づいてみるとそれは山ではなく、(あみ)の様に回りを(つる)が覆い、1つの山になっているように見える草の(かたまり)だった。 その網の中には人間がスッポリ入れそうな袋状の木の実のような物が幾つもぶら下がっていた。


 そしてなんだかとても良い匂いが漂う。

 つい、引き込まれそうになる。




『カイル、あれにあまり近づくなよ。 あれはな······』


 ザギが説明しようとした時、なぜか狼達がそのままその緑の山に向かって歩いて行く。


 どうしたのかと見ていると、突然網の様に(から)まっていた何本もの(つる)が狼の方に延びてきた。

 そしてそれは狼に(から)まるとそのまま持ち上げ、袋状の物の中に落として(ふた)を閉じた。


「?!!」


 次々と(つる)が狼を捕らえる。 しかし狼達は暴れる事なく大人しく袋に運ばれて行く。


 ザギの説明を聞かなくても分かった。

 食獣植物(・・・・)だ。 不思議な香りで心を麻痺させ、袋に入れて溶かして養分にするのだ。



「ダメだ!! 行くな!!」


 狼達は聞こえていない。

 ケビンは引き寄せられていく狼を殴った。 殴られた狼は我に帰り、食獣植物から離れる。



 次々と狼を殴る。 ふと見ると、カラーが(つる)に掴まり持ち上げられている。


「カラー!!」


 ケビンは思わず剣を抜きカラーの元へ走ろうとした。 しかしその時、ザギがケビンの服をくわえて止た。


『ダメだ!!』

「ザギ!! カラーが!!」

『これ以上近づくと、お前も捕らえられてしまう』

「離せ!」


 ケビンは服をくわえるザギの鼻先を肘で殴り、ザギの口が離れるや否やカラーの元へ走った。

 タタン! と飛んでカラーに絡まっている(つる)を切る。 下にズドンと落ちたカラーは我に帰り慌て離れた。


 しかし今度はケビンに何本もの(つる)が延びてくる。

 

 急いで付いてきたザギが服をくわえてケビンを後ろに放り投げると、代わりに(つる)に捕まった。


「ザギィ!!」


 悲鳴のような叫びでザギの名を呼ぶ。 その時ザギは、ポン!とコウモリの姿に転身し、(つる)から逃れてケビンの元に飛んで来た。



『バカ野郎!!』


 凄い剣幕でザギに怒鳴られたが、ケビンは嬉しかった。 山羊の姿に戻ったザギの首に抱きつく。


「ザギ······よかった······」




 しかしケビンはハッと我に返った。 残った狼達を(つる)に近付かないように剣を振り回す。


「帰れ!! お前達の森に帰れ!!」


 再び近付こうとする狼を蹴り上げた。

 キャイン! と鳴いて我に返った狼は、離れていく。



「帰れ!! 早く帰れ!!」


 剣を振り回すケビンの気迫に押され、狼達は離れて行く。



「何をしている! お前達はもう要らない!! 帰れ!!」



 狼達はゆっくりと離れて行く。

 最後まで残っていたカラーも、諦めたように仲間の後を追った。




 ◇◇◇◇




 ケビンは茫然と立ち尽くす。


 袋の中の狼の顔や足が透けて見える。 しかし中で動いている狼はいない。

 溶けてしまったのか、良い夢を見ながら眠っているのか·········



「もっと早く教えてくれよ!」


 つい、ザギに当たってしまった。 言ってから八つ当たりをした事に気づいた。


「あっ······すまない」

『いや······私もやり方を間違えたようだ』


 ザギは涙をこらえて下を向いている唯一無二の優しい自分の契約者の目の前に立った。


『······ケビン。 お前は心が弱い。 優しすぎる』


 ケビンは山羊の姿のザギを見上げる。


『私は人間が好きだ。 もちろんユニオンビースト達も好きだ。 しかし、動物達にまで渡す心は持っていない。 お前は狼が殺されて、なぜ悲しむ』

「今まで一緒にいた仲間だから······」

『仲間? お前は奴らに襲われて殺されるところだった。 そしてお前は何匹もの狼を殺した』

「それは······」


 言い返せない。


『奴らはスイランに言われて私達と共にいただけだ。 次に会うときはお前を(ただ)の餌と思うかも知れない』

「·········」


『食獣植物も生きる為に狼を食べた。 お前も獣を捕らえて食べるだろう? お前は良くて食獣植物はダメなのか?』

「·········」



『食獣植物の恐ろしさを分かってもらう為に()えてお前に言わなかった。 それは私が間違っていた。 すまない。

 しかし、お前は何にでも誰にでも感情移入し過ぎる。 もちろんそれはお前の良い所ででもあるが、弱点でもある』

「仲間を切り捨てろと言うのか?」


 ケビンは吐き捨てるように答える。



『奴らは仲間ではない!  以前、カイルに言われた事がある。 奴もいい加減甘い奴だが、ケビンはカイル以上に甘い。 と言うか、一人も敵を作りたくはないと思っているのだろう?

 そんな事では将来国王として国を治めていく事ができない。

 ケビンは将来、国を背負った時に全ての者を背負ってしまうだろうとカイルが心配していた。 1つも捨てる事が出来ずに押し潰されてしまうだろうと。 だから、いい機会だと思った。 

 ケビン·········強くなれ』



 ケビンはザギを無言で見つめる。



『私からもいいですか?』

「ハリス」


『あなたはその優しい所がカイル様とよく似ています。 その優しさは忘れないで下さい。 ただ、この世界の無情さ、非情さから目を逸らさないでください。 そうすれば、あなたはもっと強くなれるでしょう』



「無情さ······非情さ…······」




 そんなに割りきれる物なのだろうかと思いながら、ケビンは食獣植物を見つめた。









ザギにはザギの思いがあったのですね。

( >Д<;)

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