21話 青竜
青く美しい湖に着いた。
湖の底にある珠の上に被さる岩をザギが壊していると、少し先に何かが光るのをケビンが見つけた。
21話 青竜
今度は湖に到着した。
大きな火山を半円に囲むような形の、深い藍色の湖で、対岸がどうにか見える程のかなり大きな湖の湖畔に立った。 岸から200m程の所に岩の頭が少し出ている。
『あそこに岩が見えるだろう。 あの近くの湖底にある』
ワニに転身したザギの背に乗り、岩の所まで来た。 その岩は平らな場所はないが、ゴツゴツしているので足場には困らない。
湖面から顔を入れて水の中を覗いてみると、透明度が半端なく、恐ろしいほど美しい。
上から差し込む日差しが細長い光のカーテンを作り、その間を群れなす小魚が音楽を奏でるようにキラキラ輝きながら宙を浮いているように泳いでいる。 そして大きな魚が我が物顔で岩の間を滑るように動き回る。
遠くに見える湖底は砂地のようだが、所々にある大きな岩にはびっしりと生えた緑の水草がゆらゆらと揺らめき、小魚が出たり入ったりしているのがとても愛らしい。
《凄い! 凄く綺麗だ!》
《少し左の湖底に三角の大きな岩が見えるか?》
《うん》
《あそこから、青い光が漏れている》
ケビンは水から顔を上げた。
「······深いね」
『かなり深い』
「······息が続くかな」
『······だよな』
「だよね······」
『とにかく先ずはあの岩をどうにかして珠を出さないと。 少し休んでおけ。 ちょっと行ってくる』
ザギはワニに転身して、潜って行った。
ケビンが上から覗き込むと、ザギが三角の岩を蹴ったり他の石をぶつけたりしている。
《ザギ、頑張れ!》
《おう!》
ザギの周りから砂が舞い上がる。
◇◇
頑張るザギは置いておいて、ケビンは呑気に湖の中の景色を楽しんでいた。
その時、キラリと何かが光って見えた。 剣と盾と赤い球が入ったカバンをハリスに預け、上着を脱いでそちらの方に泳いでいってみた。
ザギから30m程右の岩の下に何かがいる。 魚かな?と思ったが、ちょっと違う。
遠くて分かりにくい。
潜って近づいてみようとしたが息が続かず、結局よく分からない。
《ねえザギ。 ザギの右の方に何かいる》
《何かって何だ?》
《魚ではないし、なにかな? 岩から顔を出しているみたいだ》
《魚だろう。 よっこらしょ!》
ザギは大きな岩を持ち上げ、三角岩にぶつけている。
《魚かな? 何か気になるから、ちょっと見てきてくれよ》
ザギが上を見上げた。
ケビンは、水面にうつ伏せに浮かんだまま、それがいる方を指差した。
《ちょっと待ってろ。 こっちか?》
《もう少し右》
《この辺か?》
《それの1つ先の岩》
《これか?······あっ!!》
《どうした?!》
《ドラグルの精霊だ!!》
《えっ?! 精霊がなぜ?!》
《ちょっと待ってろ。 助けてやるからな》
ザギが、岩の下に体を押し込み岩を押し上げる。 周りからボワッと砂煙が上がり、ザギが見えなくなった。
《ザギ! どうなった?》
ザギが砂煙の中から姿を現し上がってきた。
ケビンは慌ててハリスが待つ岩に戻ってザギを待つ。
水から顔を出したザギの口にはコバルトブルーの美しいドラグルの精霊がくわえられている。
ケビンはそっと抱き上げた。
『精霊だから、死にはせんだろうが、弱っているみたいだな』
「精霊ってパッと出たり消えたり出来るのに、何であんな所に?」
『さぁ? とりあえずそいつを任せてもいいか?』
「大丈夫。 ザギは珠をお願い」
『おう!』
ザギは再び潜って行った。
ケビンはこの場所と岸を見比べていたが、置いてある盾を手に取った。
「ハリス、岸に連れて行く。 剣を頼む」
『わかりました』
ハリスは剣を掴んで先に岸まで飛んで行った。
ケビンは盾を裏返し、精霊とカバンを乗せるとそれを押しながら岸に向かって泳ぎ始めた。
◇
岸に上がり精霊を介抱しようとしたが、何をすればいいのか分からない。
「ねえハリス。 これって、どうすればいいんだ? 暖めるべきか? マッサージでもした方がいいのか?」
『さぁ? 私には精霊の事は分かりかねます』
そりゃそうだ。
ザギがいないから火を焚けない。 自分の服も濡れているから、懐に入れてあげるのもどうかと悩んでいると、精霊がピクンと動いた。
「あっ! 精霊さん! 大丈夫?」
精霊はゆっくりと目を開けた。
「良かった。 気が付いた」
『私は?』
「湖の底で岩に挟まれていたんだよ」
『岩に?······?······あなた···私の言葉が分かるの?』
「うん」
『あなたは何者?』
ケビンはカバンの中から赤い珠を出して見せた。
「僕はケビン。 試練の為に来たんだ。 ドラグルのザギが小さくなったので元の姿を取り戻そうとここまで来たんだ」
『小さきドラグル?! きゃっ!』
精霊は飛び起きようとして、盾から転げ落ちた。 起き上がりながら、自分が乗っていた物を見て驚いている。
『······これ······ドラグルの盾』
「やっぱり分かる? ドラグルの鱗で出来ているらしいけど」
『そう。 ありがとう。 これのお陰で助かったわ』
「癒しの盾のお陰? 精霊も癒す事が出来るの?」
『も? あなたも?』
「うん。 僕と父だけだけど」
『あなたはもしかして、アルタニアの?』
「アルタニアを知っているの? 僕はそこの王子だよ」
『そう。 それは私が当時のアルタニア王に贈った物よ』
『「えっ?』」
ハリスも一緒に驚いた。
『遠い昔の事だけど······私は二度もアルタニアの王族に助けられたのね』
「前にも?」
『私達精霊は自在に空間を行き来できるのだけど、溶岩だけは通り抜け出来ないの。 昔にも飛んでくる溶岩から逃げ切れずに挟まった事があって、その時アルタニア王に助けられたの。 私っておっとりしてるから、つい』
口には出せないが、本当におっとりした(悪く言えば鈍そうな)感じがする。
『ここは火山が多いから、気を付けてはいたのに······また······』
「でも、助かって良かった。 エンガさんも心配してたよ」
『そう···あっ!』
「えっ?」
『私は青竜のスイラン。 よろしく』
「よろしく」
ケビンは苦笑した。 自己紹介をしていない事に気づいたのだろうけど、何だか可愛い。
『あっ!』
「えっ?」今度は何?
『さっき試練って言ってたわよね。 小さきドラグルは?』
「今は湖の中にいるんだ。 宝珠の上の岩を取り除こうとしてくれてる」
『そう。 岩は多分直ぐにどうにかなると思うけど、問題は人間のあなたがどうやって湖底まで行くか、よね。 多分、普通の人間には無理だわ』
「僕も普通の人間なんですけど」
『ふふふ。 助けてもらったお礼に良い事を教えてあげるわ』
「なに?」
『湖の中を良く見ると、空気の泡を出している水草があるわ。 それを口に含んで噛むと空気か出るの。 ブレスグラスという草よ。 それがあれば深い所まで行けるのよ。 これを見つけるのが本当の試練なんだけど、あなたの優しさに免じて教えちゃうわ』
「わお! ありがとう!」
『あとは頑張って。 本当にありがとう』
スイランは、ポンと消えた。
ラッキーも実力のうち?
スイランに良いことを教えてもらったね。
( ̄ー ̄)b




