19話 ドドンド村
ザギが珠を探す間、始めに捕らえられたドドンド村に戻った。
19話 ドドンド村
青いドラグルを残して他のドラグル達は去っていった。
「あの、あなたは行かないのですか?」
ポツリと残る青いドラグルに聞いた。
『私は[鍵守]な故』
「鍵守? あぁ、ここの番人なんですね。 名前は?」
『ドルゴ』
「大変なお役目ですね」
『そうでもありません』
そう言いながら、少し誇らしげだ。
『なぁ、ドルゴ。 頼みがあるのだが』
ドルゴは視線をザギに向けた。
『私が珠を探している間、ケビンを守ってやってもらえないか?』
『出来かねます』
そう言うと、寝転がって目を閉じた。
ザギはこの野郎と、拳を振り上げるフリをした。
『それくらいいいじゃないか?』
『·········』
完全に寝たフリ。
ザギは今度は、蹴りあげるフリを見せる。
『分かった。 じゃあ、初めに来た村まで送ってくれ。 それくらいいいだろ? なっ!』
ドルゴはゆっくりと目を開けた。
『可哀想な私はケビンを乗せて飛べないんだ。 珠を探す間ケビンを放ってはおけない。 せめて村で面倒を見てもらいたいのだ。 なっ! なっ!』
ザギはドルゴの目の前で、可愛くお願いのポーズを取る。 ドルゴの目が点になってしまっている。
『·········』
ドルゴはフッと笑ってからムクッと起き上がり、グオォォォ!と吼えた。 すると、赤いドラグルが月明かりの中をこちらに飛んで来て、ドルゴの前に降りた。
『この方達を、初めの村へ』
ザギはヨシッ!と、小さくガッツポーズ。
『すまんな』
「ありがとうございます」
ケビンとザギは赤いドラグルに乗って、飛び立った。
◇◇◇◇◇◇◇
「あのう、ドラグルさん。 お名前は?」
『ダルゴと申します』
「あのぉ、ダルゴさん。 ハリスも乗せていいですか? 横を飛ぶ隼です」
『もちろんどうぞ』
5つ目と言えどもドラグルは飛ぶスピードが早い。 ハリスが置いていかれそうになる。
場所は分かっているのだからはぐれる事はないが、ちょっと可哀想。
「ハリス、おいで」
ケビンが自分の前のダルゴの背中をポンポンと叩くと、ハリスがケビンの前に滑り込んで来た。
その時ケビンは以前、ナルナラとイザクが言っていた事をふと思い出した。
ドラグルの気配は恐ろし過ぎて近寄れないと。 グドゥーなどは遠くの方でチラリと見えただけで身震いがしたと。 しかし今のハリスの様子を見てもそのような雰囲気は見られず、ルナも平気そうだった。
その話しをダルゴにしてみた。
『あぁ、聞いた事があります。 以前の王は、王になった後で悪の心が芽生え、悪しき心を持つ者と契約したと。 その為、ある島に閉じ込められたと聞いております』
「グルタニアにいた、7つ目の事だね」
『閉じ込めた? 私達はその島を出れたぞ』
『あなた方は大丈夫でも、王は出る事が出来なかった筈です』
『あぁ、そういえば······』
グドゥーはグルタニアから出ようとしなかった。
『ドラグルには希に悪しき心が芽生える者が現れる事があります。 そういう者は[悪の気]を体から発します。 それをユニオンは敏感に感じ取ったのでしょう』
「他の5つ目の事も、怖かったって言ってたけど······」
ダルゴはコクンと頷いた。
『そういう者と共にいると、どうしても影響を受けるものです』
「でもザギは近くにいても、ユニオン達は全然平気にしてた。 ザギに影響は無かったのかな?」
『それは、ザギ様だからです。』
「どういう事?」
『あっ、村が見えて来ました』
何か、はぐらかされた感じ?
ダルゴは下降を始めた。
◇
祭壇に降りるとルナが走ってきた。
後ろからはザザリトと半月刀の男。 少し後ろから儀式の時に角笛を渡した老人と戦士らしき男が付いてきていて、四人は祭壇の下でひれ伏している。
『ザギさん、ケビン、どうしたの?』
「実はザギが探し物をする間、僕一人になるので、ここでお世話になろうかと思って」
『ちょっと待ってね』
ルナがザザリトの所に行って話しをしている。
そしてザザリトが老人に話すと四人は立ち上がり、戦士がどこかに走っていった。
「ルナ! もしかして契約を済ませたのか?」
『そうよ! ザギさんとケビンのお陰だわ。 そうそう、もちろんここに居ていいって』
「ありがとうございます」
ケビンが頭を下げると、三人は慌てたように頭を上げてほしいという仕草をした。
『ケビンは[心の神]だから歓迎するって。 頭を下げられるとこっちが困るって······何の事? 心の神って。 あの時も言ってたわよね』
「う~ん。 僕にもよく分からない」
ケビンは肩をすくめた。
「ルナ、後ろの人達はどういう人達?」
『あっ、この人が』老人を指した『このドドンド村の長老のギギンガ。 こっちが···』半月刀の男を指した『息子でザザリトのお兄さんのザザンガ』
ルナが説明すると、ギギンガとザザンガが頭を下げた。
挨拶はどこも同じだなと、思った。
『この人達はケビンが戻って来るって分かってたみたいよ』
「◇▼§▽★*」
サザンガが手招きしている。
『付いてきてって』
◇
付いて行くと、前にケビンが縛られた家に入った。
あの時は家の中には何も無かったのに、今は藁で作ったベッドと、テーブルと椅子が置いてある。 どちらも手作り感満載で、趣がある。
そしてテーブルの上には果物と、あの時食べさせてくれた芋の食べ物。 そして水が置いてあった。
『ここで寝てって。 じゃあね』
ルナは嬉しそうにサザンガと出ていった。
『私は珠を探しに行ってくる。 何かあれば呼べよ』
そう言ってザギも飛んで行ってしまった。
ケビンは出来たてのベッドに横になった。 久しぶりのベッドがとても気持ちいい。 未だに残る体中の痛みがフワッと包み込まれる。
ハリスも外にいる。
久しぶりの一人ぼっちだ。
シンとした室内を見回す。 体の痛みが残っているので、癒しの盾に腕を通す。 すると痛みがスッと引いていった。
癒しの盾を腕に付けたまま、器用に組み立てられている円錐形の屋根に視線を移した。
「遠くまで来たな······もう何年もベッドで寝ていない気がする·········」
次の瞬間には、眠りに落ちていた。
◇◇◇◇◇◇◇
ザギは簡単に考えていた。
空から見えるのだから直ぐに見つかるだろうと。 しかし一向に見つからない。
何せ、この山脈の中は直径が数百キロはある。 闇雲に飛び回っても無理なのだと気が付いた。
『もう一度、端から順に探した方が早いか』
一息付いて降りた火山の頂上。 直径が20~30mの小さめの火口が口を開けている。 火口の大きさに似合わぬ深さの穴の中を何気に覗き込むと、赤い何かが光った気がした。
初めは下の方でグツグツ煮えたぎる様に赤い火の粉を吹き出す溶岩の欠片かと思ったが、動きがない。
よく見ると、やはり赤く光っている場所がある。
時々吹き上がる炎の中を飛んで近付くと、その光の場所に洞窟がある。 その奥の方に光があるように見える。
高さが1.5m程のその洞窟に飛んで入った。
結構奥が深い。
緩やかな上りで真っ直ぐな道を30m程進むと、突き当たった。
光は右側の壁から輝きを増してザギを赤く照らす。
『ここか?』
ザギは大トカゲに転身し、壁を掘ってみた。 そう長く掘らない内に、赤い光がピカッと足元から差し込む。
穴を広げてみると2m四方程の広さの空洞があり、真ん中にある石で出来た台座の上に赤い宝珠が置いてあった。
『やった! 一つゲットだぜ!······ま···待てよ、ケビンをこの穴までどうやって連れてくればいい?』
ドラグルに炎は効かない。 しかしケビンは違う。
火口には時々溶岩が吹上る。 人間はあんな物に当たれば大火傷をする。 下手をすれば死ぬ。
『何だ! この試練とやらは!』
念のため宝珠を掴んでみようとしたが、やはり少し手前で何かに阻まれる。
ザギは地団駄を踏むが、悩んでも仕方がない。
それに思ったより宝珠の光が弱い事に気が付いた。 高い所からでは分かりにくい。 ともすれば見逃してしまうだろう。
『もっと下の方を飛ばないとダメか』
とりあえずこの場所を覚えて、他の宝珠を探す事にした。
◇◇◇◇◇◇◇
ケビンはザギが直ぐに戻って来るだろうと思っていた。 しかし何日経っても戻る気配がない。
「ハリス! ザギは?」
時々様子を見に行ってくれているようなので、聞いてみた。
『ずっと探し回っているようです』
「そうなんだ。 なかなか見つからないものなんだな」
◇◇
この村の人達はとても優しい。
まぁ、ケビンの事を[神]と思っているのだから仕方がないが、敬われ過ぎて面白くない。 みんな一線を画して必要な時以外は、近寄ってもくれない。
ザギは直ぐに戻って来ると思っていたので、ケビンは特に何もせず、村の中をぶらぶらしたり、みんなの仕事を見て回ったりしていただけで時間を潰していた。 しかしそれももう飽きた。
狩りに出ようと準備しているザザンガを見つけた。
自分も行きたいと身振り手振りで話すと、初めは渋っていたが何とか承諾してもらえた。
一本の槍を渡された。 ザザンガが投げる振りをして見せる。 槍を投げて獲物を仕留めるのだろう。
分かったと頷いた。
しかし、槍術は習ったがあまり得意ではない。 特に微妙に曲がったこの槍を真っ直ぐ投げる自信など無かったが、とにかくこの人達のやり方に従う事にした。
ケビンを含めて7人。 森に入った。
獣道の様な道なき道を小走りで走る。
走る。
走る。
はぁはぁはぁ······走る。
······はぁはぁはぁ·····
いつまで走るんだ!!
そう思った時、やっと止まった。 ケビンは息があがっているが、他の者達は平然としている。
何か、凄い。
どうやら前に仕掛けた罠を確認している。 ロープを輪っかにし、先をしならせた木にくくりつけ、獲物が罠に掛かると跳ね上がる仕組みだ。
1つ目は空振りだった。
2つ目、3つ目も空振りだったが、4つ目に大きな雄鹿が掛かっていた。
1本の足が罠に掛かっているが、人間を見て逃げ出そうと暴れる。
一人の男が槍を投げた。
ズドッっと槍が刺さり、鹿が悶える。
もう一人も槍を投げ、鹿の動きが止まる。 すかさずザザンガが駆け寄り、心臓に向かって剣を刺し、息の根を止めた。
槍を投げた男達が、鹿の足を縛り4本の槍に足を通した。
前に二人、後ろに二人で持ち上げた。
◇◇
村に帰った頃には日が暮れていたが、篝火が焚かれ、待ちわびた人達が駆け寄ってきた。
その日の夕食は鹿肉の色んな料理が出てきて、村人みんなで晩餐会だ。
歌い、踊り、酒を飲む。
なぜかケビンを讃えてくる。
走っただけで、何にもしてないのに。
『神のお陰で大きな獲物に恵まれたと言っているのよ。 気持ちを分かってあげて』
そんなものか。
酒を勧めてくる。 断ろうと思ったが、ルナに止められた。
『断るのは失礼にあたるらしいわよ』
断ろうとした時の住民達の顔が一瞬固まった様に見えたのは、気のせいではなかった。
仕方なく一口飲んだ。 白く濁った酒だった。 ちょっと匂いが強いが、少し甘味があって初めての酒は美味しかった。
ケビンが飲んだ事でみんなが歓喜した。
次々に酒を注ぎに来るので次々に酒を口に運んだ。
完全に出来上がったケビンは、周りの人の言葉も分からないのに頷き、笑い、一緒に踊り、超ハイテンションで盛り上がり、気がつけば翌朝だった。
◇◇◇◇
「いてててて」
二日酔いで頭が痛い。
ザザリトが水を持ってきてくれた。 少し甘くて美味しい。
貴重な蜂蜜入りだとルナが教えてくれた。
それから、みんなの態度が変わった。
気軽に声を掛けてくれる。
ケビンは色々な仕事を教えてもらい、ザザンガに剣術を習い、槍の練習もして、狩りにも同行して過ごした。
どこででも、ケビンは溶け込みますね。
ザギは1つの珠の有りかを突き止めました。




