9話 護りの剣
護りの剣とは自ら攻撃を受けてくれるとグラントが言っていた。
どういう事?
9話 護りの剣
誕生祭の翌日。
カイルが朝食の部屋に入るなりグラントから言われた。
「カイル、今日から武術訓練を始める。 食べ終わったらダンバートに貰った訓練用の剣と盾、それと護りの剣を持って第三訓練場に行きなさい」
◇◇◇◇
食後に第三訓練場に行くと、ブライトとアッシュを含めた四人が待っていた。
アルナス達を柵の外に待たせてカイルは中に入る。
「カイル様、おはようございます。 今日から我々が訓練のお手伝いをさせていただきます。
私、近衛隊隊長ブライト·ウインダムが剣術と体術。
第五槍兵部隊隊長カーン·デントークが棒術。
第一弓兵部隊副隊長サムエル·ウィンダーシアが弓術。
そして、第一騎馬隊隊長アッシュ·セルカークが馬術をお教え致します」
「よろしくお願いします」
カイルは頭を下げた。 こんな凄い人たちに教えてもらえるなんて感激だ。
「では剣術から参ります······アッシュ殿」
「はい」
アッシュはカイルの横に来た。
「カイル様、護りの剣を抜いて下さい」
剣を抜いて鞘をアッシュに渡した。
しかし、見れば見るほど護りの剣の刃は鈍くくすみ、刃こぼれこそは無いがこれで切れるのかと思うほど古くさかった。
そしてカイルには大きすぎる剣だが、思った以上に軽い。
「持ち方はこうです」
「こうですか?」
アッシュの握り方を見本にして、カイルは少し太めの柄をグッと握った。
「しっかりと握っていて下さいね。 絶対に離さないように」
アッシュがカイルの握りを確認し、一歩離れると同時に「はっ!」とブライトがカイルに向かって突然剣を抜き放って振り下ろしてきた。
「わぁ~~!!」
護りの剣は勝手に動き、ブライトの鋭い一撃を受け止めたが、重みに負けて尻餅をついた。
「訓練だ!! アルナス!!」
ブライトが剣を振り下ろすと同時に牙を剥いて飛び出して来たアルナスの前に、アッシュが立ちはだかった。
『あっ!······そ···そうだった·········そうだったな······つい······すまない』
アルナスはトボトボと元いた場所に戻っていき、ナルナラ達に寄ってたかって何かを言われてショボンとしている。
ブライトはそんなアルナスを見てクスリと笑ったが、気を取り直して真剣な顔でカイルの方に向き直った。
「分かりましたか? カイル様。 護りの剣は柄を握ってさえいれば相手の攻撃を受けてくれます。 しかし······もう一度行きます。 しっかり握っていて下さいね」
カイルがしっかりと護りの剣を握って構えると、ブライトは再び攻撃してきた。
素早く繰り出されるブライトの剣を護りの剣は全て受けていったが、気迫と共にどんどん押されてった。
そして転けそうになった時にブライトの一撃で護りの剣がカイルの手から飛んでいき、地面にザクッと突き刺さると同時に再び尻餅をついてしまった。
そして、あっと思った時にはブライトの剣先がカイルの喉元でピタリと止まっていたのだ。
カイルはゴクリと生唾を飲み込む。
ブライトは剣を鞘に戻し、ニッコリと笑ってカイルを抱き起こした。
「分かりましたか? 剣の力に振り回されるのではなく、剣の力を利用できるようになりなさい。
護りの剣は攻撃を受けてくれますが、自ら攻撃をする事はありません。 攻撃もまた最大の防御です。
まずはご自分を守れるようになりなさい。 それができて初めて人を守る事が出来るのです」
「はい!」
カイルの真剣な眼差しにブライトは満足そうに頷く。
「それでは腰の剣を抜いて下さい。 もう一度始めからお教え致します」
アッシュが地面に刺さった護りの剣を抜いて鞘に納め、カーンが預かっていた盾をカイルに渡した。
◇◇◇◇
剣、槍、弓の基本的な持ち方と扱い方を教わった。
「我々3人の訓練は、今日はこれ位に致しましょう。 明日からは交代でお教え致します。 朝食が済み次第この場所へお越し下さい」
アッシュを残し、三人は戻っていった。
「それではカイル様。 厩舎に参りましょう」
アッシュに連れらて来たのは第一厩舎で、王族と隊長クラスの馬用の厩舎である。
中に入ると一頭の馬が顔を出した。
「あっ! ハスラン!」
『カイル殿。 今日から訓練が始まったのでしたね。 頑張って下さい』
「うん」
アッシュはハスランの隣の馬房にいる一頭の若い馬の所へカイルを案内した。
明るい栗毛の馬で、顔の真ん中を通るブレーズがとても綺麗だ。
「この馬がカイル様の馬で[キッシュ]といいます」
アッシュがキッシュの首筋をポンポンと叩くと、アッシュに顔を近づけた後、カイルにも顔を近づけてきた。
カイルもキッシュの鼻筋を優しく撫でてあげる。
「よろしく! キッシュ。 僕はカイルランス、カイルと呼んでね」
『カイル様。 その馬はユニオンではありませんよ』
ハスランが教えてくれた。
「え? ユニオンじゃないの?」
アッシュはクスッと笑う。
「ユニオンではありませんがよく訓練が入り、言葉は話せませんがとても賢い馬です。 明日からカイル様にキッシュのお世話をしていただきます」
「僕がお世話をしてもいいのですか?」
「はい。 ただし馬は早起きです。 日が昇ると同時にここに来てキッシュの世話をしていただきます」
「日が昇ると同時に?」
「そうです。 出来ますか?」
カイルは少し悩んだ。 朝、起きれるか心配だったから。
しかしキッシュのお世話をしたいという気持ちの方が勝った。
「······はい!」
「今日はキッシュの紹介だけです。 それでは明日の朝、ここで」
「はい! ありがとうございました。 行こう!」
カイルがアルナス達と走り出すと「あっ! カイル様!」とアッシュに呼び止められた。
「今から直ぐにお部屋に御戻り下さい。 新しい勉強の先生方がお待ちです」
「げっ!」
カイルは顔をしかめ、行くの嫌だなぁとアルナスたちに愚痴っている、
少し考えたアッシュはゆっくりとカイルに近づいて目の前でひざまずき、一度頭を下げてからカイルの顔を見上げた。
「カイル様。 少し私の話しを聞いてください。
いいですか? あなたは将来この国の王となるお方です。 それは御分かりだと思います。
王とは国民を正しい道に導かなければなりません。 正しい道を選ぶ為には多くの知識が必要です。 もし王が道を見誤ると、不幸になるのは道を見失った国民です。 その為にも王はどの道が正しいのかをしっかりと見極める必要があります。
学ぶ事はいくらでもあります。 常に国を国民を、正しい道に導ける良い王になってください。
自覚をお持ち下さい。 微力なから私も全力で御協力させていただきます」
カイルは少し驚いた顔でアッシュを見ていたが、何かに踏ん切りをつけたように頷くと、ニッコリ笑った。
「はい!」
元気よく答え、アッシュに深く頭を下げてから厩舎を出ていった。
この日から、カイルの忙しい日々が始まった。
アルナスの出番が少なくて、淋しいです。
(T_T)
でも、ちょっとオッチョコチョイのアルナスが見れました(^///^)




