15話 登山開始
登山準備は整った。
しかし、鞍の無いザギに乗って坂を上るのは思った以上に大変だった。
15話 登山開始
登山開始。
始めの頃は余裕があった。
しかし、登るにつれてザギの体が斜めになる。 鞍が無いので踏ん張る事が出来ず、足でしっかりと挟み、腕で首に掴まらないといけない。
これはケビンの体力を相当消耗する。
「ザギ、ここなら自分で歩ける」
降りて自分の足で立ってみると、思った以上に足がガクガクして、腕も痺れている。
暫く足や腕をマッサージしてから、自分の足で歩き出した。
「この方が楽だ」
転身したルナが前を進んで道を造り、ザギに掴まりながら山道を登る。
上を見上げると、頂上は遥か上だ。
『ケビン、口が開いてるぞ』
また、突っ込まれた。
「どう見ても、崖だよね」
上の方の岩が剥き出しになっている所は、ゴツゴツの岩肌が来る者を嘲笑うかのように垂直に切り立っている。
「登れる?」
『私は問題ないが…』
鞍を盗まれた事が悔やまれる。
岩場の下まで来た。
平坦な場所をイザクが見つけ、そこで夜を過ごす。
「何だか10日は走り続けた気分だよ」
『大丈夫か?』
ザギは心配そうにケビンを覗き込む。
『カイルさん、癒しの盾を』
イザクに言われて癒しの盾を腕に通すと、体の痛みがスッと引いていく。
「わぁ! これって本当に凄いね。 忘れてた。 随分楽になったよ」
干し肉を頬張りながら、ケビンは崖を見上げていたが「そうだ!」と、言って、背中に丸めてくくり着けていた虎の毛皮を広げた。
『なにするの?』
「見てて」
毛皮の端を細長く切り取り、紐状にした。
「ザギ、ちょっといいかな?」
ザギの首に回して長さを調節して、端をくくって輪っかにした。
「ほら、手綱」
『『おぉ~』』
もう一本、もっと長いのを作って片方をザギの首にくくりつけ、反対の端を自分にくくりつけた。
「これで支えられるし、落ちても大丈夫!」
『『おぉ~』』
希望が出てきた。
◇◇◇◇
翌朝、断崖を登り始めた。
ザギは一歩一歩、足場とケビンを気遣いながら進む。
紐で繋いでいても、やはりケビンの体力を奪う。 しっかり掴まっていないと、ずり落ちそうになるのだ。
休みながら少しずつ進んだ。
何度か落ちそうになったが、ハリスが横から支えてくれた。
途中、ケビンが座れそうな場所で夜を過ごし、再び登り始めた。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日の夕方、やっと頂上にたどり着けた。
「やったぁ!!」
『よく頑張ったな』
その場所から見ると、この山脈がほぼ綺麗な真円である事が見て取れる。
真っ赤な夕陽の下を山脈が横切り、遥か彼方の正面を黒い壁が反対側まで連なる。
円形の山脈の中は緑豊かな森だが、緑の海に浮かぶ島のように、茶色く煙を立ち上らせた小さなハゲ山が所々に顔を出している。 火山があるのだ。
そして、所々にキラキラと輝く湖が顔を出していた。
左右には、今まで登って来た断崖のまだ倍ほど有りそうな山がそそり立つ。
丁度切れ目のような場所に向かって登って来たのだ。
この場所は寒い。 左右に壁があるのであまり風は感じられないが、標高が高いので気温が低い。 旅用のシャツにジャケットの二枚だけの服ではこの寒さに耐えられず、虎の毛皮にくるまったが震えが止まらない。
癒しの盾を腕にはめたが、全身の痛みと寒さは完全には治まらない。
この震えは、寒さのせいなのか、疲労のせいなのか。
横になったザギの足の間に潜り込む。 ザギが体温を上げてくれたので、温かくなってきた。
転身したルナが、前に寝てくれた。
暖かい。
ポケットに詰め込んでいた木の実や干し肉にかぶり付き、虎の胃袋で作った水筒の水を飲み、少し生き返った。
気付けばケビンは眠っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
『来た!』
『来たな』
『うん。 来たわね』
『来た来た』
『待ちわびた』
『でも、あいつがいない』
『あいつがいなくても大丈夫だろう』
『あれはあるはず。 あれがあれば大丈夫よ』
『でも、もう1つのあれもない』
『そうだわ。 あれがないわ』
『なければ終わりだ』
『本物なら、きっと大丈夫』
『そうだ。 必ず大丈夫』
『そうね』
『そうだな』
『ここまで来たんだ』
『ここまで来れたんだ』
『楽しくなりそう!』
やっと登り切りました。 後は、下るだけ?
( -_・)?




