14話 準備
持ち物が全てなくなった。 登山の為の準備を始める。
14話 準備
その山脈は壁のように高く険しい。
ザギが選んでくれたこの場所の上に、えぐられた様に窪んだ場所がある。 他の場所の半分程の高さしかない。 しかし、その場所でさえ3000m以上の高さがある。
途中から木も無くなり、上の方は岩が剥き出しになっている。
断崖絶壁とは、こういう事だ。
『ケビン、口が開いているぞ』
それどころじゃない。
「こんな山、登れるの?」
『もちろん』
「飛べないんだよ」
『分かっている』
ザギは得意そうだ。 フフンと鼻を鳴らした。
『私の今の姿は何だ?』
「山羊」
『山羊は、こういう場所で生活する。 岩場など遊び場だ』
「本当に?」
『本当に』
「信じるよ」
『任せろ』
「任せた!」
よし! ザギが登れるというなら大丈夫だろう。 信じよう!
◇
先ずは山登りの準備だ。
高い山の上の方は寒いだろう。 ダン達にハンス王から貰った上着を持って行かれてしまった。 だから防寒用の毛皮と途中で食べる携帯用食料を調達する必要がある。
先ずは、大型の獣を捕まえる罠を何ヵ所かに仕掛けた。
その間に日持ちのする木の実を集めたり、果物の日干しを作ったりした。
罠の方は数日待ったが、そう簡単に捕まらない。
「罠に掛かるのを待つより、捕まえに行った方が早そうだな」
数か所に仕掛けた罠を見回ったが、どこもダメだ。
その時、ザギが緊張した。
『ケビン! 大型の獣の気配だ!』
「罠に掛かった?」
『違う! 肉食獣だ! 来る!!』
ケビンは剣を抜いた。
ルナも転身した。
ガサガサと音がしたかと思ったら、藪の中から巨大な虎が飛び出してきた。
「!!」
構えた途端、ケビンに向かって飛び掛かった。 虎の金色の目の中の瞳孔がカっと開く。
ガキン!! ズドドッ!
護りの剣が一撃を防いでくれたが、そのまま押し倒された。
『ケビン!!』
ザギがドドン! と頭突きを食らわすと、虎はケビンの上からは吹き飛ばされたが、直ぐに体勢を整え、今度はザギに向かって飛び付いてきた。
ガオオッ!!
虎の口がザギに届く直前、ザギはワニに転身し、大きな口で虎の頭にガキッ! と、食いついた。
頭を咬まれた虎は全身をくねらせ、4本の足で頭を抜こうと抵抗し、暴れる。 人の顔程もある大きな手を開き、足の爪を最大限に出して、ザギの体に突き立てようともがく。
体を捻りどうにかしてワニの口から食いつかれた頭を抜こうとしているのだ。
その時、ルナがドドンッ! と虎の上に覆い被さり押さえつけた。
『ケビン! 今よ!!』
ザギが頭をくわえ、ルナが暴れる虎の体を四本足で押さえつけて身動きが出来なくする。 ケビンは虎の心臓目掛けてドスッ! っと剣を突き刺した。
「グオォォォォ~~ッ!
雄叫びを上げ、巨大な体をくねらせながら暫くの間バタバタもがいていたが、次第に動きが鈍くなり、そのうち動かなくなった。
「ふぅ~~っ」
ケビンは座り込んだ。
するとザギは上を見回して何かを探している。
「ザギ? どうしたの?」
夢中で何かを探していて、ケビンの言葉が聞こえていない。
その時、1羽のフクロウが近くに止まった。 それを見たザギが大声で怒鳴った。
『ハリス!! この野郎!! ちゃんと見張っておけって言っただろう!! 何をしていた!! ケビンがやられるところだったじゃないか!!』
「?······ハリス?」
『あっ!』
マズい事を口走ってしまった事に気づいたザギは、ゆっくりとケビンの方に向き直った。
「·········」
『·········』
「······ハリスって?······」
『聞いてた?』
「······しっかり」
『······やべ』
「ハリス! いるの?」
ケビンは上に向かって叫んだ。
すると、目の前にフクロウが飛んできて、見覚えのある隼の姿に転身した。
「ハリス!」
『すみません。 ケビンさんには見つからないようにと、言われていたのですが······』
「お父様から?」
って、それ以外ないよね。
『はい』
「ザギは知っていたの?」
『内緒にする約束で······』
「ずっと付いて来てたの?」
『はい』
「もしかして、獣がいつも罠に掛かっていたのは、ハリスのお陰?」
『はい』
「木の実が置いてあったのも?」
『はい』
「泊まる民家を探してくれたのも?」
『······はい』
「この場所を探してくれたのも?」
『·········はい』
「ありがとう!」
ケビンはハリスを抱きしめた。
『少し離れている間に、危険な目に合わせてしまって申し訳ありません。 毛皮になるのにいい大型の獣を探しに行っていたのです。 まさか虎が潜んでいたとは······気が付かずに申し訳ありませんでした』
ケビンはブンブンと首を横に振った。
「今まで肉食獣が一度も襲って来ないのもおかしいと思っていたんだ。 ハリスのお陰だったんだ。 本当にありがとう」
ザギは申し訳なさそうに、小さくなっている。 ハリスの事は決してケビンに悟られないように念押しされていたのに······帰ったらカイルにぶちのめされる······
この際ザギは放っておこう。
◇◇◇◇
大きな虎の皮を剥いで鞣し、肉は乾燥させた。 そして、胃袋を乾燥させて水筒を作った。
乾燥させた果物も出来た。 木の実も充分集めた。
もし、登山中に食べ物が足りなくなれば、ハリスが取ってきてくれる。 ここはハリスの存在がばれて、ラッキー!
山登りの準備は整った。
虎を狩っちゃった。
凄い!
(;゜0゜)




