13話 同行者
スカイウェーブ号の皆と別れ、1人旅立った。
途中で同じ方向に行くという夫婦と出会い、行動を共にする。
13話 同行者
スカイウェーブ号は出航した。
その時、1羽のフクロウが飛んできてマストに止まったのに気付いたのは、ザギとルナだけだった。
「先生! お疲れでしょうから、ここに座っていて下さいよ」
「先生! お水をどうぞ」
「先生!」
「先生!」
ちょっと困る。
『この海は5日で到着らしいから、あっという間だな、先生』
「ザギまで!」
『ハハハハハ ちやほやされるのも悪くないじゃないか。 座っとけよ』
「僕って強いんだね」
『なにを今さら』
「トマス先生がいつも褒めてくれるから、強いんだろうとは思っていたけど、数人の兵士達とのバトルの時は、みんなが手加減しているんだと思ってた」
『ハハハ、最初の頃は散々だったじゃないか。 それがちゃんと勝てるようになっていったんだ。 少しづつ強くなっていくのをちゃんと見ていたぞ』
「そうだね」
『でも、慢心するなよ。 強い奴はいくらでもいるからな』
「うん」
「何をブツブツ言ってるんだ?」
気付くと目の前にモーガが立っていた。
「あっ、モーガ船長」
「ちょっと手伝ってくれるか?」
「はい!」
それからは普通に仕事をさせてもらえるようになった。
暇な時にはみんなにせがまれ、剣術を教えてあげた。 みんな拳には自信があっても、剣は殆ど使わない。
ドラゴンフライ号の船員は剣やナイフを常に携帯している。 しかし、この辺りの海には海賊もいないので、必要に迫られていないそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇
そうこうするうちにあっという間に5日が過ぎ、フォルカッチャに到着した。
先ずは情報収集だ。
色々聞いたが、この国でも[ドラグル]という種族名は知られておらず、[ドラゴン]で通っている。 ヨースで聞いたのと同じく、ドラゴンを見た事はあるが詳しい事を知るものはいない。
「ドラゴン? あの山の向こうにいるらしいぞ」
その人が指差す方の遠くの方に高い山脈がある。
かなり遠いので小さく見えるが、低い所でも3千メートル級の山脈で、ここからは分からないがその山脈は円形に連なっていて、その円形の山脈の中にドラゴンの棲家があるらしい。
その山脈まで馬でも1ヶ月以上かかるそうだ。 なにせ途中から道など無いのだ。
1ヶ月分の食料を持っていく訳にはいかない。 途中で調達しながら進む事になる。
ロギオンさんから色々教えてもらったお陰で、その点は心配ない。
ロギオンさん、ハンス王様、お父様ありがとう!
とにかく、円形の山脈の中まで行く必要がある。
なんやかんやで、今のところリュックの中身は殆ど使っていないので、買い足す必要もない。
明日の早朝には出発する事にした。
◇◇◇◇
「ケビン。 本当にあんな所まで一人で行くのか?」
夜、スカイウェーブ号のみんなとご飯を食べている時、モーガが心配そうに聞いてきた。
「不安は有りますけど、ザギもルナもいますから、何とかなると思います」
「でもザギは小さいままだろ?」
「それでも頼りになりますから」
「そうだな······」
ほんの数日しか一緒に過ごしていないが、モーガはケビンが弟のように可愛い。 しかし、これ以上言っても仕方がない事は分かっていた。
ケビンの決意の強さが伝わってくるからである。
「分かった! もう何も言わん。 とにかく無事に帰ってこい。 戻ったら必ず俺達の所に顔を出せよ」
「はい! 必ず!」
「よし! 飲もう!」
モーガはケビンに酒を差し出した。
「えっと······お酒はちょっと······」
「何だ? 俺の酒が飲めんのか?」
「という訳では······」
「じゃあ、飲め!」
「いえ、だから······僕······本当は、まだ14歳なんです」
「「「え~~~っ!!」」」
◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、スカイウェーブ号のみんなと町外れまで来ていた。
ザギがいいと言うので鞍を着けて荷物をその鞍にくくり付けた。
「どうせ大きくなれないんだから、鞍が付いていても一緒だろう? それならお前が楽な方がいい」
そう照れながら言ったのだ。
初めは渋っていたケビンだが、結局お願いする事になった。
ザギさん! なんて優しい!
ルナはネズミの姿でケビンの胸ポケットから顔を出している。
「先生! 体に気をつけて!」
ドングが抱きついてきた。
「ありがとうございました」
モーガもケビンにハグした。
「また会えるのを楽しみにしているからな! 絶対だぞ!」
「はい!」
ケビンはザギに跨がり、歩き出した。
何度も振り返り、手を振りながら。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「今度こそ、本当に僕達だけだね」
ケビンはザギに揺られながら、前に座る猫の姿のルナに話しかけた。
『それも悪くないんじゃない?』
ルナがケビンを見上げる。
「君達がいるから寂しくはないけどね。 でも途中まででもいいから、誰かと一緒に旅が出来たらいいのにな」
『そうね。 もしかしたら会えるかもよ』
「そろそろこの辺りで、泊まらせてくれる家を探そう」
ポツポツ民家が見えてきた。
二軒目に訪ねた家で納屋を借りられる事になった。
暫くの間は何とか民家を見つけて泊まらせてもらえた。 ザギが上手く見つけてくれる。
しかし、とうとう民家が無くなり、野宿をする事になった。
小川を見つけ、そこで野宿をしようと思ったが、少し先に煙が立ち上っているのが見える。
「誰かいるんじゃない? 行ってみようよ」
そこには旅支度をした中年の男女が焚き火の前で食事の準備をしていた。 馬が二頭、横の木に繋がれて草を食んでいる。
「こんにちは」
声を掛けると、二人は驚いたようにこちらを向いた。
「旅の者です。 どちらまで行かれるのですか?」
「あっちまでだ」
ケビンが行こうとしている山脈の方を指差した。
「丁度僕もそっちに行こうと思っていたんです。 良ければ一緒に行きませんか?」
二人は顔を見合わせていたが、ニッコリ笑って頷いた。
男性の名前はダン。 女性は奥さんでマリー。 この先、馬で4日程の所に年老いた母がいるので、今から行くそうだ。
「変わった馬だな」
「馬ではなく、山羊です」
「へぇ~」
「どっから来たんだ?」
「海の向こうのアルタニアという国です」
「アルタニア? 知ってるか?」
「聞いたことないねぇ」
「俺達は、ここから少し東のカブエ村から来たんだ」
南東の方を指差した。
ダンは、色々話してくれた。
家は商家だが、あまり裕福ではない事。 子供がいたが、8歳の時に病気で亡くなってしまった事。
母の体の調子が良くないので一緒に住もうと言ってるのに来てくれないから、体が動ける内に無理矢理連れて来ようとしている事など。
何度も往復しているので、この辺りの地理には詳しいらしい。
歩き易い道を教えてくれる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ダン夫婦と行動を共にして、3日が過ぎた。
日が傾きかけた頃、野宿の場所を決めた。
「ケビン君。 この少し先の沼に温泉が出てる場所があるよ」
「温泉?」
「暖かいお湯が湧き出る場所だよ。 まともに体を洗う事もできてないから、行ってくるといい。 野宿の準備は私達がしておくから、ゆっくりしておいで」
そんな場所があるとは知らなかった。
お言葉に甘えて少し先の沼に行ってみると、湯気が出ている。 上に覆い被さる木々の木漏れ日がゆらゆらと揺らめき、湯気を立ち昇らせる湖面と重なりキラキラ輝いて見える。
触ってみると暖かい。
「わぁ! 凄い!」
ケビンは服を脱ぎ、剣と盾をザギに預けてルナと一緒に中に入った。
温かくて気持ちいい。
ルナもビーバーの姿でケビンの周りを泳ぎ回っている。
頭も体も思う存分洗えた。 長い旅の疲れも一緒に洗い流されていくようだ。
暫くルナと遊んでいたが、暗くなって来たので上がる事にした。
タオルで体を拭いている時、何気なく上を見ると、フクロウが止まっている。
「どこかで見たフクロウだな。 まぁ、どこにでもいるか」
一人で納得して、ダン達の所に戻った。
ダン達がいる野宿場所に戻った。
戻った······はず······?
「えぇ~っ?!!」
ダン達がいない。 ケビンの荷物もない。
「ザギ! ルナ! ここでいいんだよね」
『その筈だ』
『確かにここよ! やられたわ! あっ! 見て』
いつもケビンが広げて見ている地図が落ちていた。
他には何もない。 ご丁寧に鞍まで持って行かれている。
手元に残るのは、その地図。 護りの剣と癒しの盾とサバイバルナイフ。 宝珠とタオル一枚だけだった。
『『「·········』』」
しばし、茫然。
「どうせ、いつまでも食料がある訳じゃないし、身軽になっていいや」
ケビンさん、ポジティブ!
しかしもう暗い。 急いで焚き火の準備をしていると、ルナが大きな魚をくわえて来た。
『さっきの沼に大きいのがいたから、取ってきた』
ルナさん、ナイス!
火打ち石も持って行かれたが、ザギがいるので問題ない。
魚に枝を刺し、焚き火にかざした。
「今まで良い人ばかりだったから、油断したね。 ロギオンさんの言葉が身に染みるよ」
『カイルもそうだが、お前もお人好しだから騙され易いんだ』
「ハハハ、お父様と一緒で嬉しいよ」
ちょっと笑いが乾いてる。
『それ、喜ぶ所?』
ルナが、呆れて突っ込んだ。
◇◇◇◇
それからは、途中で木の実や果物を探しながら進み、夜には罠を仕掛けた。
罠には、面白いように獣がかかる。
なぜか瀕死の状態だったり、他の獣の爪痕が付いていたりしたが、深くは考えなかった。
それと、なぜか通り道の分かりやすい所に果物や木の実が積まれている事もあった。
もちろん、ありがたく頂いた。
そうして無事、高い山脈の麓に辿り着いた。
優しそうな二人だったのに、やられてしまいました。 結構な金貨も入っていたのに······




