9話 心配性のお父様
クレモリス国に到着した。
苦手にしているハンス国王に、招かれるが······
9話 心配性のお父様
クレモリス国の王都に着いた。
この国の王都には父に連れられ何度か来ているし、ハンス国王にも会っているが、今回は御挨拶はパス。
これから先は未知の土地だ。
街で北の地について聞いて回った。
あるユニオンから聞いた話では、ここから北東にカイザーが統べるアルラドの森があり、その西側に[ヨース]という港町があるそうだ。
クレモリスからヨースまで、馬で急いでも2ヵ月以上はかかるらしい。
ヨースから北の地に行く船が出ていると言う。 他にもヨースまでの情報はあるが、海の向こうの国について知っている者は殆どいなかった。
それも、知っているのはユニオンだけで、クレモリス国とはヨースとも北の地の国とも交流は無く、人間で知っている者は今のところ見つからない。
「でも、ヨースに行けばきっと何か分かるよね」
『大きな姿なら直ぐに行けるのに。 すまないな』
その時『ザギさん!』と声がした。
『「ルナ!』」
グリーンの瞳の三毛猫がいた。
「何でここにいんだ?」
『あら、気付かなかった? 荷物の中に隠れていたのよ』
『ずっとあった気配は、やっぱりお前だったのか。 なぜ付いてきた?』
『ふふ。 面白そうだったから。 私も北の地に行くわ』
ザギはどうする?と、ケビンを見る。
「いいんじゃないか? 多い方が楽しいし」
そこは父親譲りか。
その時、後ろから声がした。
『ザギさん!』
今度は誰だよとザギとケビンが振り返ると、ノンノが走ってきた。
ケビンはちょっとショック。
ハンス国王に見つかった。 パスしようと思っていたのに······ちょっと苦手なんだよな、あの王様。
『ザギさんの気配がするって言ってた子がいたから見に来たら、やっぱりいたわ。 良かった。 ハンちゃんが会いたいって』
「そ···そうだね······丁度挨拶に行こうと思っていたんだ」
嘘だけど。
『来て!』
仕方なくノンノに付いて行った。
広間に通されると、王座にデップリと太ったハンス国王がニコニコしながら座っている。 仕方がないのでご挨拶をしよう。
「ご無沙汰しております、ハンス国王様。 旅の途中にて、このような出で立ちで失礼致します」
「よいよい。 ケビン殿、よくおいでになられた。 ノンちゃんよくちゅれて来てくれまちたねぇ~」
デレデレの顔をしながら、プヨプヨの大きな手で小さなノンノを撫でている。
何だかパワーアップしている。
「ところで旅とはどこまで行かれるのですか?」
ケビンは言ってもいいものか少し悩んだが、だいたい父親には既にばれているだろうから、諦めた。
「北の地まで行こうかと思っています」
「おお······海の向こうの北の地ですか」
何だか驚き方が少し芝居じみているように見えたのは、気のせい?
「それは大変な事で······」
やっぱり芝居じみている。 棒読み。
「ロギオン!」
待っていたかのように細身で少し情けなそうな顔をした男性とオオアリクイが一緒に入ってきた。
「お初にお目にかかります。 第二歩兵隊のロギオン·バースと申します。 こいつはガオです。 以後お見知り置きを」
二人の登場にケビンとザギが首を捻っていると、ハンス国王が嬉しそうにウォッホン! と、咳払いをした。
「ケビン殿。 北の地までは無理ですが、ヨースの港町までなら御送り致します。 馬では2ヶ月以上かかるのですが、飛んで行けば二週間もかからずに行けるでしょう」
ヨースを知ってるんだ。 そこは流石だね。
いや待てよ······あれ?······もしかして、お父様が手を回した?
ハンス国王がパンパンと手を叩くと、侍従らしき男性が何かを持って来た。
今度は何だと見ていると、中身が一杯詰まったリュックと、分厚い毛皮の服だった。
「飛んで行くと馬を置いていかなければならないので、背中に担げるようにリュックを用意しました。
ついでに必要な物も入れさせてもらってます。
それに北の地は行った事はありませんが、多分北の方なのできっと寒いでしょうから、暖かい服も用意しました」
ハンス国王は物凄い得意顔だ。
しかし至れり尽くせり。
心配性な父親。 バレすぎてちょっと怖い。
凄く驚いたふりをして、ちょっと聞いてみた。
「ハンス国王様、こんなに良くして頂けるなんて誠に恐縮です。 準備が大変でしたでしょう。 しかし私が北の地に行くことを既にご存知だったのですか?」
ハンスは、ちょっとビクッとした。
「い···いや······ハハハハハ」
あ、笑って誤魔化した。
ハンス国王が昼食を一緒にと言うのを固辞して一度宿に戻った。
ここも父親と同じ。
クレアとバッタリ宿の入り口で出会った。
「探してたんだケ…アスト。 少し遅くなったが、今から昼御飯に行くけど一緒···に······?······どうしたんだい? その大荷物」
「ハンス国王が準備してくれていました。 それと、途中までユニオンビーストに送ってもらえる事に」
「······それってもしかして、あんたのお父さんの差し金か?」
ケビンは苦笑いした。
「多分」
「でも良かったじゃないか。 まだまだ遠いんだろ?」
「はい」
「とにかく荷物を······え? あら? その猫······」
今度は当たり前のようにケビンの足元を付いて行こうとする三毛猫を見て、クレアが聞いてきた。
「ハハハ、ユニオンビーストです。 実はアルタニアから付いて来ちゃって」
「まあ、可愛いじゃないか。 あっそうそう、あそこに見える飯屋で待ってるから、荷物を置いたらおいで」
少し先にスプーンの看板が見える。
クレアは先にその店に向かって先に歩いていった。
◇◇◇◇
ケビンが飯屋に入るとらなぜか「わあっ!」っと、歓声が挙がった。 思わず入り口で固まったケビンの所にウィンガが駆け寄った。
「今、丁度お前の話をして盛り上がっていたんだ。 さっ、こっちだ」
中には見知らぬ顔が幾つかのあった。 この町の顔見知りの商人達だそうだ。
ウィンガがケビンを席に座らせると、テオが話を続けた。
「その時、ザギにアストが飛び乗り、俺達の方に向かって駆けてくるやいなや、商人達に襲いかかろうとしていた盗賊達を一瞬でバッタバッタと斬り倒し、最後の奴に向かってザギが立ち上がると、ひぃ~っ! と、しょんべん漏らしながらそいつは逃げて行ったんだ! いゃあ~、アストとザギとの連携は、凄かったぜ」
「「「おぉ~」」」
「まだ若そうなのに、アストさんって歳はいくつなんだい?」
「14歳です」
ありゃ、正直に言っちゃったよ。
「「「え?」」」
その場の全員が固まった。
「え?」
その反応にケビンは戸惑った。 普通じゃないものを見るような目で見られた。
「「「じゅうよん~~!!」」」
「おい、嘘だろ?」
ヤバい?
「えっと~、嘘です。 本当は17歳です」
「だよな。 驚かすなよ! あれは14歳の剣さばきじゃないよな」
ケビンがクレアをみると、クレアは親指を立てていた。
これからは、少しサバを読もうと思った。
「その肩に乗っている鳥がザギか?」
「そうです」
この国にもユニオンビーストと契約している人は沢山いるが、アルタニアほどではなく、まだユニオンビーストが珍しいみたいだ。
何だか英雄にされて気恥ずかしかったが、お別れの夜をみんなと楽しく過ごす事が出来た。
ケビンの父カイルは、色んな所に手を回していましたね。 心配性なんだから。
(;^_^A




