8話 フォント商団
とうとうケビンはアルタニアを後にする。
フォント商団の傭兵として同行するが、近くに人の気配が······
8話 フォント商団
フォント商団に行くと、出発準備がほぼ整っていた。 最後の点検をしているところだそうだ。
ケビンを見付けてクレアとフォント団長がやって来た。
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。 取り敢えず傭兵として雇った事にしてあります。 ウィンガ! スミロフ! モーガ! テオ!」
4人の傭兵が走ってきた。
「今回雇ったアストだ。 若いが腕は立つぞ」
ウィンガと呼ばれた男は如何にも傭兵という感じの大柄のガッチリとした体型で、眉が吊り上がっていて、気が強そうな男だ。
ケビンが腰に着けたら引きずりそうな、大きな剣を下げている。
彼が傭兵のリーダーだ。
スミロフは細身の優男風で、モーガは一見弱そうだが、かなりの剣の達人だそうだ。
そしてテオはまだ若い。 20歳前後って所か。 なかなかの美男子で、女性にモテそうな雰囲気をしている。
4人共、こいつ大丈夫か? 的な顔でケビンを見ている。
ケビンはまだ14歳だが、身長は170㎝近くあり、日に焼けて真っ黒で体格もいいので、言われないと14歳には見えない。 しかしそれでも若いには違いない。
「アストは護衛として商団に同行するのは初めてなので、色々教えてやっておくれ」
クレアがケビンの背中を叩いた。
「おうよ! よろしく頼むぞ」
4人共、気の良い返事をしてくれた。
◇◇◇◇
「団長! 準備が整いました」
「よぉし! 出発!」
ウィンガを先頭に歩き出した。
傭兵達と団長以外は徒歩だ。 商隊は商人30名とフォントと傭兵達。 牛車が10台。
それぞれ1台の牛車に3人が付いていく。 クレアは先頭の牛車に付いて歩いていく。
先頭に団長とウィンガ。
長い隊列の中程にモーガとスミロフ。
最後尾にケビンとテオが付いて歩いた。
ケビンの肩には大鷲の姿のザギが止まっている。
進みながらテオが聞いてきた。
「アスト。 その鷲はもしかしてユニオンビースト?」
「そうです。 ザギと言います」
「へぇ~。 この商団にはユニオンビーストと契約した者がいないんだ。 ユニオンビーストが沢山いたら、盗賊も襲って来ないのに残念だよ。 でも、今回はザギがいるから安心かな?」
「盗賊に襲われる事ってよくあるんですか?」
「アルタニア国内には殆どいないんだが、他の国は結構いるんで大変だよ。 ボスのウィンガさんとモーガさんは結構な腕前だから大丈夫だと思うけど、やっぱり心配だ」
盗賊がそんなにいるとは知らなかった。
◇◇◇◇
その日の夜、初めての野営だ。
テントを立てる者、食事を作る者、みんながテキパキと準備を始める。 手伝おうとしたら、ウィンガに止められた。
「俺達の仕事はここにいる皆を護る事だ。 要らん仕事をしている間に盗賊が来たらどうする。 常に周りを警戒するのが俺達の仕事だと肝に命じておけ」
ごもっとも。
そういえば、軍隊が野営する時も常に見張りの兵士が立っている。
ちゃんと役割分担があるんだ。
ケビンは周りに注意を払った。 しかし、自分より先にザギが気配に気付いてくれるだろうから安心だ。
食事中も傭兵達は離れた所で別々に食べている。 一匹狼を気取っている訳ではなく、周りを警戒しているからだ。
ウィンガが近付いてきた。
「アストは先に眠れ。 後で起こしに来る。 交代で見張りをするから、そのつもりで」
それだけ言うと元の場所に戻って行った。
その夜は何も問題無く朝を迎えた。
翌日の夜、クレモリスの国境の近くまで来たが、念のためアルタニア国内で夜を過ごす。
◇◇◇◇◇◇◇
クレモリス国に入った。
アルタニア国とクレモリス国は近い。
父の第二の故郷でもあり、年に一度、ケビンも一緒にトムの農場に手伝いに行っている。
いつもトムの農場には飛んで行くので半日もかからないが、歩くとこんなに時間がかかるのかと思った。
クレモリス国の国境から王都までも、まだ丸2日。
先は長い。
クレモリス国の国境内で一泊し、明日の昼前には王都に着く予定になっている。
昼食後の片付けが終わり、そろそろ出発しようという頃、急にザギが飛び上がった。
《ザギ?》
《人の気配だ 様子を見てくる》
ザギが上空を旋回している。
「テオさん、人の気配があるそうです」
「分かった!!」
テオは「警戒しろ!」と叫びながらウィンガに報告するために前に走って行った。
《右後方から5人! 右前方に8人いる! 盗賊だ!!》
「後ろから5人! 前から8人来ます!」
商隊が急いで固まろうとした時、後ろの5人の盗賊が藪から飛び出して来た。
ケビンは馬から飛び降り、剣を抜いて向かって行く。
最初の一人の剣を掻い潜り、足を切り、返す剣で横の男の肩を切った。
ケビンの強さに残る3人が怯む。
そこへザギが空から降りてきて山羊の姿に転身し、二人同時に後ろ足で蹴りあげると、男達は、吹っ飛んでいった。
最後の一人は、ケビンと目が合っただけで慌てて逃げて行った。
前の方では苦戦している。
「ザギ!」
ケビンはザギに飛び乗り前に向かって走った。
商人に襲い掛かろうとする盗賊達をザギの上から右に、左に剣を振り下ろして倒し、残る一人の前にザギが棹立ちになると「ひぃ~~っ!」と言って逃げて行った。
残る5人はウィンガ達が倒していた。
団員から拍手が沸き起こった。
「「アストさん! 凄い!!」」
傭兵達も駆け寄った。
「いやぁ! 団長から強いとは聞いていたが、まさかこんなに強いとは思ってもみなかったぞ! お前、凄いな」
みんなから肩を叩かれ、頭をグシャグシャにされ、こんなに喜んでもらえてケビンもとても嬉しかった。 そして山羊の姿のザギにもみんなが称賛の声を掛け、ザギを次々に撫でに来てくれた。
「やっぱりユニオンビーストは凄いな。 ザギのお陰で事前に数まで分かったから、思う存分戦えたぞ」
たまに伏兵がいて、大きな被害が出る事があるそうだ。
クレアがケビンに抱きついた。
「良かった、ケ···アスト! ケガは無いかい?」
「大丈夫です」
「心配する事無かったね。 本当に良かった」
盗賊達はみんなまだ息はあるので、取り敢えず縄で縛ってそこに置いておく。
逃げた仲間が連れに来るだろう。
という事で商隊は再び出発し、次の日の昼前にクレモリスの王都に到着した。
ケビンは凄く強いのですね。
幼い頃から剣術をトマスやアッシュに仕込まれている事もありますが、やっぱりカイルの子供ですから。
( ´∀` )b




