7話 出発前日
ケビンは北の国行きを決行する。
遠い北の国までたどり着けるのでしょうか?
7話 出発前日
ケビンは街へ買い物と 情報収集に出掛けた。
今日は[商人の息子風]の服を着ている。
ザギは大鷲の姿でケビンの肩に止まっていた。
アルタニアでは、ユニオンビーストが契約者と一緒にいる姿をよく見かける。
ケビンが生まれた時から当たり前に見るこの光景は、父が成し遂げた事だと周りから何度も聞かされていた。
『ザギさん。 こんにちは』
職人風の男性の肩に可愛いリスが乗っている。
『おう! あっ、そうだ。 北の方に行く予定の商人を知らないか?』
『······知りませんね』
リスは契約者にも聞いてくれたが、首を横に振った。
その契約者はケビンに気付き、ハッとしてから頭を下げてきた。
「ケビンさん、こんにちは」
「こんにちは」
ケビンはニッコり笑った。
ケビンはよく街に出掛ける。
一般市民の服装でいる時は、みんな名前で呼び、気軽に声を掛けていいのがこの国の暗黙の了解だ。
これは父カイル国王の時からの風習だった。
「北に行く商人ですか? 北と言えばクレモリスですね。 残念ながら私は商人ではないので、よく知りません。 すみません」
「いえ。 ありがとうございます」
今日の目的の1つの情報収集とは、北に行く商人を探す事だ。
先ずは、クレモリスまで商団に連れていってもらおうという算段だ。
何人かに聞いてみたが、なかなか知ってる人に会わない。
『ザギさ~ん』
建物の間から可愛い猫が走って出てきた。
グリーンの瞳の三毛猫のユニオンだ。 ザギになついていて、街に来ると必ず寄ってくる。
「やあ! ルナ」
『ケビンさん、こんにちは。 お買い物?』
「買い物もあるけど、北の方に行く予定の商人を知らない?」
『北に行く商人?······ちょっと聞いてくる』
ルナは暫らく考えるように首を捻っていたが、思い立ったようにどこかに走って行った。
幾つかの買い物を終え、小腹が空いたので揚げパンを食べていると、ルナが帰ってきた。
『お待たせ!』
「何か分かった?」
『フォント商団が5日後にクレモリスに行くって』
「フォント商団と言えば、クレアさんの所だよね。 ザギ、行ってみよう」
ルナも一緒にフォント商団に行ってみると、既に大きな荷物が沢山並んでいる。
クレアを見つけて駆け寄った。
クレアは30歳を少し越えた位の細面の、女性にしては大柄で、少しきつそうに見える顔立ちだがとても優しい。 旦那さんを早くに亡くし子供もいない。 そのせいもあってか、ケビンを我が子のように可愛がってくれている。
「クレアさん!」
「あら、ケビンさんじゃないか。 何か用かい?」
「5日後にクレモリス行くとか?」
「よく知ってるね。 それが?」
ケビンはクレアを人気のない所に連れていった。
「実は、クレモリスまで連れていってほしいんだけど」
「そりゃあ構わないけど、王様はご存知なのかい?」
「······どうしても行かないといけないんだ。お願い!」
ケビンは両手を合わせてお願いした。
「ちゃんと仕事もするし、傭兵としても役に立つと思うよ」
「そりゃあ、ケビンさんの腕の確かさは知っているけど大事にならないかい?」
「ちゃんと言ってから行くから」
「本当かい? でも、団長に聞いてみないとねぇ」
「絶対に迷惑をかけないし、何でもするから!」
「わかったよ。 とにかく団長に聞いてくるから、ここで待ってな」
クレアは走って行ったが、直ぐに団長を連れて戻ってきた。
「ケビンさん。 ロバート·フォント団長だ」
ちょっと小太りで小柄な50歳くらいの男性で、髪が凄い天然パーマで、ヒゲまでクルクルの、優しそうな顔をしている。 団長と会うのは初めてだ。
「フォントさん。 今度のクレモリス行きの···」
「いいですよ」
「え?」
返事を被せてきた。
簡単過ぎてちょっと拍子抜け。
「えっと······僕の素性はご存知ですか?」
「先ほどクレアから聞きました。 それにお若いのにかなりの凄腕だという事も」
「お願いがあるのですが、名前を[アスト]と呼んでもらえますか? それと、只の傭兵として扱っていただきたいのですけど」
「分かりました」
何だか知っていたように、何の疑問も無く承知してくれた。
そんなに簡単に決めていいの?
「では、5日後の早朝に来て下さい」
フォントはニッコリ笑って戻って行った。 ケビンとクレアは小太りな後姿が建物の陰に消えるまで見送っていた。
「何だか前から決めていたみたいだね。 まぁ、良かったじゃないか。 じゃあ5日後に」
クレアも手を上げてから、走っていった。
◇◇◇◇
商団出発日までに必要な物を揃え、ザギと念入りな打ち合わせをした。
ケビンが出発する前日、カイル国王は国外視察の為に10日間城を留守にする。
視察団出発の時、見送りに出たケビンにカイルが手招きをするので近付くと、珍しくカイルが抱き締めてきた。
「お···お父様行ってらっしゃい」
「ケビン。 暫く城を留守にする。 お前の誕生日に一緒にいてやれなくてすまない」
明後日がケビンの誕生日だ。
「お前ももう14歳だ。 自分の行動に責任を持ちなさい。 危険に自ら飛び込むような事はせず、慎重に行動しなさい。 何かあると全てザギが解決してくれると考えず、常に不測の事態に備えて行動するように。 いいな」
「はい!」
留守番する者に対する言葉にしては大袈裟だなと思ったが、その時ケビンは深く考えなかった。
何だかいつもと違って、少し名残惜しそうに出掛ける父の後ろ姿を見ながら、ケビンは少し後ろめたかった。
「お父様も、お気をつけて······行ってきます」
既に聞こえるはずの無い父の背中に向かって呟いた。
◇◇◇◇
翌日の朝早くに出発だ。
厩舎に行き、ケビンの愛馬[マルバス]の所に行った。
すると既に鞍が装着してあり、寝袋と護りの剣と癒しの盾が着けてあった。 そして、巾着袋がぶら下がっていたので中を見ると、金貨と[レジェンド·オブ·レジェンド]から破り取られた北の国の地図が入っていた。
既に自分が北国へ行くことを誰かに知られている事に気付いたが、どう考えても反対している訳ではなさそうなのでありがたく頂き、朝靄の中をフォント商団に向かって出発した。
【お父様、お母様、ザギの元の姿を取り戻しに行ってきます。 必ず無事に戻りますので、心配しないで下さい】
こう書かれた置き手紙を残して······
父カイルは視察中にケビンが行ってしまう事を知っているようですね。
父親としては、複雑な心境でしょう。
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